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プロローグの最後になります。
主人公による一人称で基本進めていくつもりですが、主人公以外の視点で書く場合は「~人物~」で前置きしたいと思います。
それではどうぞ
序章 世界の果て放浪編
女神=虫
「白金の部屋とでも言うかねえ」

僕は圧倒されていた。

星空の部屋にいたと思ったら、今度はいつの間にか白くピカピカした目に優しくない部屋に立っていた。

”あらもう来たの”

第一声。女神っぽい。

”月読の爺さんの力も結構弱くなってんのねえ。あんなマゾな世界にいたらしょうがないか”

第二声。おそらく女神。

”大体、久しく会ってないからって、私の性格まで忘れて男を候補にあげてくるんだから、耄碌してるのは確定よね! アハハハハ”

第三声。め、女神? ……多分女神。

”私好みの女の子が二人もいたのにさ。どっちかにしろってのよ。ったく私が保険を掛けていなかったらどうなっていたことやら”

第四声。め、めが、めが、めがみ?

”ま、我慢我慢。でね、深澄とか名乗ってるんだっけ? あんたは、あんたの両親と私の間の契約によってこの世界に呼ばれたわけだけど”

第五声。あれか、きっと悪い冗談だな、これは。神様とか、はは、良い冗談だ。

”ちょっと目を離してる隙に種族間のバランスが異常に崩れちゃってね。ちょっとヒューマンが大ピンチなのよ。魔族やら亜精霊やらが好き勝手始めちゃってさ”

ちょっと目を離してる隙に、だと?

”んで、契約のこと思い出してさ。ヒューマンならひとねむ……じゃなかった。瞬きほどの時間で子孫をなしてるだろうからんで手伝わせようかと思ってね。ん?”

……今こいつ一眠りとか言いかけたような?

”アハハハハ!! あんた本当にあの二人の子供? え、ちょっと、ちょっと待って。あら長女と次女は良い線いってるじゃない。あーこれは無理。あ、念のためにっと”

つ、月読様。これ、僕には無理かも。

”あ、血は繋がってる。あんた悲惨ね~。家族の写真とか、もう、どこの醜いアヒルの子だってのよ! 白鳥成分ゼロ。あんた不細工ね~”

丸齧るぞ、こら。

”あんたに力与えるとかマジ無理だから。悪いけどさっさと視界から消えてくれる? 存在がもうキモイし”

仮に女神って名前の獅子さえ逃げ出す恐ろしい毒虫がいたとしよう。それでもこいつに比べたら愛らしいに違いない。二つ並べたら僕は虫の方を愛でることが出来ると思う。

怒りが頭を何週かしたせいか、思考がすごくクリアになってくる。これほどひどい自己中キャラを僕は知らない。

少なくとも、これが人を別の世界から引っ張ってきて、何かさせようとしている存在の言うことかよ!

ありえねえ、状況が状況なら、流行しか見ていないような刹那的女子高生でももう少し真面目な態度になろうってもんだ。

「……」

ダメだ。罵倒しようにも言葉が出てこない。

なんて言ったらいいか、もう口をパクパクさせるばかりだ。

”なにキョドってんの? 会話も無理とかありえないし。私、この世界の唯一神にして処女神でもあるのよ? あんたみたいな存在が同じ空間にいるだけでもう罪。孕んだらどうしてくれるのよ?”

こ、こいつが神。こいつが唯一神。

某ギャルゲーにご登場、ツン率100%の女の子の方が万倍愛らしい、万ヴァイ愛らすぃい!

大事なことなので力が入ったが二度言った。

嫌だ。い、嫌だぞ僕は。こんなのが神様やってる世界なんてまともな世界なわけがない。絶対行きたくない。

月様、お願い、本気で助けてください。マジで無理です!!

”帰そうにも召喚は一度しか出来ないし、もう来ちゃってるもんなあ。クーリングオフとか作って欲しいわね”

「あ、あんたな!? そっちの都合で喚んでおいてそれはねえだろ!」

”うっわ野蛮! 喋ったと思ったらソレ? 声さえも美しくないし。手伝いももういいわ”

「はあ!?」

”私の世界のサーガに相応しい勇者を、もう別に手配したから。あんたは精々私に迷惑掛けないように世界の果てでじっとしてなさい。いいわね。本当、保険を掛けておいて正解だったわねえ”

いいわけあるか!! なんじゃそりゃあ!

自分、かなり重大な決心して!

月読様と神と人の親交を深めて。

それで、僕なりに覚悟して、元の世界を捨ててここに来たのに!

”もう大分高度下がっちゃってるからな~、落としてもそれだけだと死なないんだろうし。あ~あ、あの世界の人間って本当にしぶといのよね、参るわ”

ここに来て数分で、身勝手な理由でこんな言葉を吐かれるなんて……僕が死んで裁判が開かれたら、明らかに殺意を認定されるだろ! そもそもこんな扱いを受ける理由無いよね!? そうだよね!?

”それと、良い? 一つ言っとくけど。私の美しい世界の住民たちにあんたの醜い胤をばらまくんじゃないわよ? 結婚も勘弁してね、世界が汚れるから”

もう、良い。耳が聞くことを放棄している。こんなことは初めてだ。

道場の先生や部活の先輩に無理難題を言われた時の方が、遥かにマシだ。

トラウマになりそうな事もあった。あの時も! それからあの時も!

じゃなくて。

いかん軽く逃避しちまった。

しかしこれは絶望の現実だ。

これから自分が行かなければならない世界の唯一神である女神様が精神異常者と判明したんだ。由々しき事態だ。

”あ、そうだ。あんたに力渡すなんて冗談じゃないけど『理解』を与えるくらいは良いわね。仕方ないわ妥協しましょう。今後の為にも”

なんか勝手に納得してる。マジで冗談じゃないよコレ。つーか神様ってこんな上から目線なのが普通なの? 月様が特別なのかこいつが特別なのか。後者を信じたいな。僕の精神衛生上。

”ちょっとミスミの。きいてるの?”

ついに名前の部分が『の』で省略されてる。『あれ』とか『これ』よりは良い扱い、なのか? 皆さん、僕は深澄家の長男、深澄真と申します。

「なんだよ」

もう敬語すら使う気が起きない。でもきっと許されると思う。そうさ、どっちかって言うと僕のほうが正しいはずさ。

”あんたが魔族や魔物と話せるよう、彼らの言葉を『理解』できるようにしてあげるわ。だから、できるだけ低位の、オークとかゴブリンとかに交じって暮らしなさい。他の種族に迷惑かけるんじゃないわよ? じゃ、行け”

「なんて言い草っ、っとわ、わわわわわ!?」

”あーーー!! 叫び声まで美しくない! ニンフ達! この空間を徹底的に洗浄しておきなさい! また湧かれたらたまんないわ”

いきなり落下の感覚に襲われる。

最後に聞いた声。僕は黒い悪魔の化身か!

Gだって一生懸命生きているんだぞ!?

せめてここで、

「ああ、ごめんなさい。実は貴方を一目見た時から恋に落ちていたのです。神位を保つため厳しく当たってごめんなさい」

「ああ、お父様(って誰だよ)。どうしてこんな仕打ちを私にさせるのです。彼にこんな試練を与えるだなんて」

とか涙ながらに言ってくれれば、少しは許せたのに。

いや、有り得ないな。

発言は全て、すっごくナチュラルでした、はい。

あのくそ女神!!!!!!!!

いや、女神なんて二度と呼ぶか!

ちくしょーーーーーーーー!!

視界は一面闇。そして寒っ!

「うっわーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

眼下に臨むは一面の荒野。

身に打ち付ける冷たい夜の風。

冷風に晒された目から涙が落ちる。

決して感情で流された涙ではないと真面目に断言しておこう。

ピカピカした部屋から一転して夜空。

HAHAHA!

あの女神モドキ、本当に落としやがったぜ♪

下が荒野と分かるくらいの高度ではある。明るければ僕は今航空写真を肉眼で見ているんだろうな。

でもさ。超高層ビルから落ちるくらいの高度は軽くあるよ? どう考えても死ぬよね?

これで死なないとか絶対に無理。

強くて困るとか。

楽勝で粉々になるわ!

僕、ギャグ補正とかはあったかなあ。

考えるまでも無いな。僕の立ち位置は良くて組織のナンバー2。人間関係の仲立ちになったり意見を纏めたりしてリーダーの手助けをする役どころだ。良くて、ね。

三枚目っぽく振舞って見せることもあるけど。無理だよなあ、ギャグ補正というのは最早スキルだ。魔法があるならスキルもあるのかもしれないけど、生憎僕は持っていないだろう。

ダメジャン。

じゃ、なに?あのくそモドキの言ったように死ぬわけ?ここで?

手は!?何か手はないか!?

あたりを見渡す。

空。

荒野っぽい大地(だと思う)。

終了。

やっぱり、ダメジャン!

父さん、母さん。僕を向こうの世界で産んでくれてありがとう。

こっちであの女神の加護の下で生活するハメにならなくて本当に良かったと思っています。あの女神では加護どころか、僕は呪われていたかもしれませんし。

雪姉さんと真理は、僕がこちらに来たのでもう危険な目に遭うことはないでしょう。

ほんの十数年でしたが、お二人の子として過ごせたことは僕の誇りでしゅ。

あ、かんじゃった。

しまらないな~最後なのに。これでギャグキャラ補正つかないかなあ。

そだ。せめて眼を閉じよ。

痛くありませんように。

月が導く異世界道中をお読みくださって……。

”どの……真殿……真殿!”

「月読様、貴方の幻聴まで聞こえてきました。どうして貴方がこちらの神でないのか、残念でなりません」

”しっかり、しっかりするのだ!聞こえているな!”

本物か!?

でも交信は出来ないはずじゃなかったっけ?

”なんということだ。やりとりは全て聞いていた。すまぬ、重ねて謝罪する。まさかこんな暴挙に出ようとは”

「ツキヨミサマ!アイタカッタデスホントニ!」

何故かカタコト。でも気にしない。

”確かに真殿ならこのくらい、痛いとかんじる程度で済むだろうが。……しかしやって良いということはない!”

「大丈夫なんですか。これで着地して」

まだ大分地面との距離がある。これは走馬灯効果による知覚時間の延長だろうか。

”二階のベランダからマットに落ちたくらいの衝撃はあるだろうが、怪我をすることはあるまいよ”

「わお」

思った以上に超人。すごいね自分。元の世界の負荷ってどれだけ凶悪なんだと。

”真殿は特にあちらで鍛錬をしていたからな。本来ならマットなしの衝撃だ”

「あの鍛錬がマット分か。意外と効果あるものなんですね」

まさかそれで怪我するかしないか程の肉体性能の差が生まれようとは。

”だが、この高さから落下するというのはさぞ怖いだろう。私が何とかしてみよう。安心してよい。ソレよりも伝えたいことがあるのだ”

言いにくそうに言葉を紡ぐ月様。そういえばさっきも思ったんだけど――。

「あの、僕と交信できないんじゃ?」

”ああ、お陰でかなり無理をしている。おそらく何百年か眠らないとならんだろう”

「な!」

思わず言葉が漏れる。結構なことじゃないか! そこまでして助けてくれるなんて…そうだよ、神様は本来こういうもんだよ。

都合よくこういうもんにしたが、そう在ってほしいのは確かだよ。

月様の言葉に嘘は無く、自然落下していた僕の身が穏やかな白い光に包まれて落下が穏やかになっていく。

”それより。あの女神が真殿を迎えに来る時だが、かなり時間がかかっていただろう”

「あ、はい」

”あの娘、やってくれおった。世界が繋がっていたことをいい事に、こちらの世界から二人ほど攫って行きおった!”

な、なんですとぉぉぉぉ!!

それなんて誘拐犯!?

仮にも女神だろ、そんなことして良いのかよ!

「そ、そんな! まさか」

まっさきに浮かぶのは僕の縁者。

”真殿の身内ではない。だが一人はかなり近いところでやられた。真殿の召喚の際、うまく重ねられてしまった。君の知り合い、かもしれぬ。重ねてすまぬ。私も油断していた”

油断とか、そんな話じゃない。

神々のルールがどんなものかは知らないが、月読様の焦りからみてこっちの女神の方が完全に信義則に反していたんじゃ……。

”私はおそらくすぐに眠りに就き、君の生きている間にもう会うことはなかろう。だがこのことは知己の神々に話してなんらかの対応をしてもらう。いくら創造を何度か行っている女神といえどこれほどの蛮行。なにかしらの罰はあろう”

声が弱くなっていく。

本当に無理をしているんだ。

くっそ。

本当にあの声の女がこの人よりも上位の神様だってのか。あんな、あんな無茶苦茶なやり方をする奴が…!

「その二人は大丈夫なんですか!?」

”ああ。二人とも、どこぞの王城に召喚されているらしい。もう無事にヒューマンと接触しているようだ。その、女神から多大な加護を与えられてな”

最後は言いにくそうな月様。

わおお、すっげえ扱いの差。

”気持ちは分かる。もう君と元の世界に接点は無い。だからこんなことを頼める身分にないことは承知だ。承知だが、しかし。他の二人に会うことがあれば気に掛けてやってほしい”

ああ、この人は本当にどこまで人が良いのか。

「女神の力をフルコースで与えられるのに、ですか?」

相当力のある神様らしい女神から力なんて、さぞかし強そうなんだが。気に掛ける必要あるのかな。

”神の力、という意味に於いては真殿が一番強い。魔力にしてもだな。元々魔力のあるヒューマンの血筋ある上にあの世界で無事に育ったのだ。比べるべくもない”

それに、と月様はいう。

”私は何を司るということのない曖昧な存在だ。まあ、休眠に入れば月の満ち干きに多少影響はあるが。きっと他の月神達が何とかしてくれよう。それだけに、と自分で言うのもなんだが、親神から継いだ力もこれまでに蓄えた力も結構なものだ”

親神っていうとイザナギ・イザナミ様だっけか。

”あのような女神に加護で劣るということはない。安心されよ”

お~自信満々。ちょっと毒入ったけど。

”このような事態だ。勇者の役割もあの女神自ら剥奪しおったし。もう遠慮はいらぬ。月読の名において許す。汝、深澄真よ。新たなる世界においての自由を認める。好きにせよ!”

月様も実は怒ってた! やっぱ最高だ月様!

許されるまでもなくそのつもりだったけど!

お墨付きだぜ、ひゃっほう!!

月と同じ光に包まれてゆっくりと下に落ちていく僕。

”魂の輪廻で、また、会える、ことを、願って、い”

かすれて消える神の声。

「はい!!」

自らの神に僕は大きく返事をした。

女神?

なにその虫。おいしいの?

僕は穏やかに(不毛の)大地に降り立った。
ひとまずここまでの投稿です。
次回からだーれもいない荒れ果てた場所からの主人公の彷徨ともいえる旅になっていく予定です。
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