プロローグの続きになります。
とりあえず、異世界に着くまでをまとめて投稿します。
月読様の話を要約するとこうだ。彼は実に丁寧に状況とあらましを説明してくれた。
両親は異世界から来たらしい。幼い頃から、祖父母は早くに他界して親戚とも縁がないって言われて何となく納得していたがそんな理由があったとは。考えてみれば両親と姉妹以外にまるで親類がいないのは少し不自然か。
異世界時代の因縁で、向こうの神様と僕の両親は一つの契約をかわした。それが僕の現状の大因なんだそうな。
その契約内容は、「いつか大切なものを一つ捧げよ」と言うものだったらしい。
邪神か、そいつは! そうですか、向こうの神様は邪な神様ですか。
そして僕の両親はそれを呑むほど切羽詰っていたと。
思えば姉と妹に僕。三人が三人とも家事全般叩き込まれ、なにかしらの格闘技系の習い事をさせられた。まさか、伏線だったのか!?いつひとり立ちしても大丈夫なように!?
でも父さん、母さん。僕の弓道は格闘技、でしょうか? あれは少し違うと思うのですが。もっとも僕は小さい頃、普通の人よりもずっと体が弱かった。激しい運動が出来たかと問われると無理だったと答える他無い。
いやいやいや、それにしても冗談じゃないよ。異世界云々なんて話は、一切何も両親から聞かされてないし。
そりゃあ、聞かされてもアブナイ人を見る目で両親を見ていただろうけど。
親父が臨場感とリアリティあふれるファンタジーノベルを得意とする作家なのは本物を体験していたからだったとは。あのドラゴンステーキの味の描写と馬小屋の寝心地を語る場面は正に感動モノだったぜ。てっきりレトロゲームのオマージュかとばかり思っていたのに。
そう、これから行く世界は父の作品に見られるような剣と魔力が溢れるファンタジーライフを地でいく世界らしい。
自分は能力的には優れた状態で送られること。なんでも、色んな負荷の関係で僕らの世界から召喚される人は大体がある程度の超人になるんだそうな。
ものすごい重い服着てたのが開放されるノリだから別に不老不死になったわけではない、死んだら死ぬよと忠告された。
月読様が言うにはこの世界に住んでいるだけである意味で物凄いことなんだとか。
魔力に対する圧倒的な負荷に神々の加護も殆ど届かない、過酷過ぎるほどに過酷な世界。それが僕の今日まで生きてきた世界だと教えられた。
普通に生きていただけなのに、なんてご都合クオリティ。
「や~本当に怒鳴っちゃってすみませんでした。色々ご苦労なさってるんですね月読様も」
そしてなにより。非常に特徴的な姉と弟に挟まれた月読様の苦労に僕は万感の思いで労った。事情付きとはいえ初対面の僕にまで愚痴りたくなるんだ。本当に苦労してるんだろう。
”やや、わかってくれるとは!!こんなに晴れやかな気分は何百年ぶりか……。しかしそれを言えば真殿の方こそ”
彼は姉妹に挟まれた僕の複雑な立場をも理解してくれたのだ。色々と気遣いがいるんだよ、姉と妹に挟まれるとね……。いくら綺麗な姉がいて可愛い妹がいて羨ましい、とか言われても姉妹と恋愛関係になる訳も無く。むしろそうやって妬む連中が鬱陶しいだけだと言うのに。まさかこんな共感を得られる日がこようとは! 断言しよう、月読命を信仰する宗教があったら僕は入信する! 月読様万歳だ!
「しっかし普通に生活しているようで凄い所に住んでいたんですね、僕らは。女神様とかいうのは遅いですし」
”ありとあらゆる世界で最も過酷だぞ。他の世界の者からみれば、たとえるなら深海の底、溶岩の海に住んでるが如くな。しかし遅いのう、あ奴”
で、向こうの世界からの担当者である神を待っているんだが。例えが洒落になってないです、月読様。
来ないのである、これが。
向こうは唯一神である女神と精霊という存在によって構成される比較的ポピュラーな世界なんだそうだ。どの辺がポピュラーなのかは正直わからんが。
ちなみにもう神様から提示されサインするように言われた良くわからない書類にはサイン済みだった。……納得した上で、だぜ?
何せ自分が行かなきゃ姉さんか妹が行くことになる。
悩んださ。そりゃもう!
だってもうゲームが出来なくなる。機械が存在しない世界に機械を持ち込めないとかでやりかけの携帯ゲームもダメだ。マンガも小説も今週号が見納めだ。
MyPCには実は家族に見せられない十八歳以下はやっちゃいけないゲームが入っている。僕が不在の内に暴かれたら、弁解も出来ない。
年頃の男の子なんだからわかってくれるよね!?
だから月様にその事をオブラートに包みながら、異世界に行く人物がウチの家族以外にならないものか、お願いしてみた。
悪役な台詞を吐かせてもらうが、とりあえず深澄家以外に今回の話が流れてくれるなら、どこの誰に話が流れようが知った事じゃない。
追い詰められると自分の小ささが良くわかるもんだ。がソレは本音だった。
でもダメだった。きっぱりと否定された。
だから自分のことは早々と諦めた。なんて言うか僕自身、自分の優先順位の低さに驚いた。
だが秘めた黒歴史や負の遺産についてはどうにかしたかった。
確かに戻れないとは言われたが、会えなくなる家族にあんなものやこんなものを見られて、
「あの子にあんな趣味があったなんて!」
「我が子ながら何と節操のない!」
「お兄ちゃん不潔!」
「なんて弟なの!私の事もひょっとしてそんな目で!?」
いやーーーーーーーー!! らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
耐えれねえよ!? 想像だけで死ねる!!
”案ずるな”
だが月様は一味違った。ただ身悶えて心を狂気にとらわれようとしている僕にこう言ってくれたんだ。
”男の夢たる数々の書物とソフト、そして君のHDDの中身は私が責任をもって消去しておこう”
僕を見て慈愛に満ちた顔で頷く月様。何もかも、何もかもわかっていらっしゃった。神だ、あんた神だよ! マイナーでも何でも僕のランキングであんた今一位だ! 主神になったよ!
HDDとか、随分専門用語知っているな。とかは、この時の僕は一切考えなかったね。ただただ先刻の悪夢が杞憂に終わることに感謝していた。
まあ、そんなこんなで世間話をしながら、出された茶を飲み卓袱台の対面の月様と過ごしていたわけなんだ。
「ところで。あっちの世界にいったら筋力とか魔力とかが凄くなるのはわかったんですが」
”うむ”
「他に、何か特殊能力は貰えないんですか? 物語の主人公が持つような……」
まあ、大量の魔力とかがあるならないのかもしれない。でもロマンとして異能にはあこがれる。
異世界に行くともらえる人多いじゃん。だったら欲しいじゃん。漫画とか小説の話だけどさ! でも今、僕は正にそんな体験をしているわけで。
聞いた話だと、その世界にはエルフとかドワーフみたいな亜人、それに獣人なんてのもいるんだから異能くらいあっても差別は受けまい。
ならあったほうがいいじゃんってわけだ。
”もちろんあるぞ”
「マジっすか!? どんな? どんなのがもらえるんです?」
ダメ元だったのに~。何事も言ってみるものだなあ。
”それはわからん。申し訳ないが行ってからのお楽しみだな。一度向こうに降り立つともう交信は出来ないのでヒントくらいしか出せぬのだ”
「おお、もしや好きな能力を創造できるっていう万能な感じですか。今は空白、って事かな」
”いや、違う。済まないがこれは、私の神性に原因があるのだがね”
「??」
”私は夜や月を司るって言われておるがな。実際の属性は実に曖昧でな。君の言うように空白、というのも私の属性として強嘘ではないほどだ。だから私にできる限りの力を真殿に与えるが、それがどう芽吹くかは真殿の適性によって如何様にも変わってしまうだろう”
そういって月様はこっちに来いと僕に手招きをする。
隣に座ると額に手を当てられ、ナニカを体の中に流し込まれた。ナニカは額から首の後ろへと流れ、背骨に沿って体中を巡り僕の中に沈み込んでいく。これが彼がくれる恩恵の素なのか。
「はー……、何かが内に溜まっていくのがわかります。これが力の源なんですか」
”そうだ、飲み込みが良い。力を把握するのも意外に早いかもしれぬな。知覚認識は問題なし。後はソレを表に出すイメージをすると、大抵の場合で能力が発動する。まあ、手の平から放出する感じが一番わかりやすいか。ちなみに今は無理だぞ? ここはまだこちらの世界だからな”
やってみようとしたが月様に笑いながら釘を刺されてしまった。
”それに真殿は契約上のこととはいえ、乞われて行くのだ。あちらの女神も力を授けることだろう。これまでの世界を捨てさせるのだ、せめてこのくらいの役得は無くては、な”
また申し訳なさそうに月様は頭を下げる。
「いや、月読様。むしろ僕は感謝しているんです。もし……もしも。貴方の言った事を僕が断ったまま、何の説明もなく明日を迎えて姉か妹のどちらかがいなくなっていたなら。僕は一生後悔したでしょうから」
”優しいなあ、真殿は…む、ようやく来おったか”
「やっとですか。長話、しちゃいましたね。いやできちゃいました、ですね」
”よければ言葉を記録してそのまま伝えたり夢枕を使う事もできるのだが、本当にこれだけでいいのか?”
月様が手に持っていたのは二通の手紙。
何か残せないかという僕の提案に、月様は色々心を砕いて考えてくれたが僕は手紙を選んだ。両親に向けてと姉妹に向けて二通。
親には異世界っていえばわかるんだろうけど、姉さんたちにはその言葉を使うことが躊躇われたので手紙を分けてもらったんだ。父さん達がそこも含めて姉さんと真理に話すというのなら、両親の判断に任せるさ。
後、持っていける物はないか聞いたらある程度だけど許可が出た。
数冊の本と筆記具(ボールペンやシャーペンはだめだったので鉛筆と万年筆にした)を選んだ。食料も持っていきたかったが何故か却下された。世界間でも色々決まり事があるんだろうか。在来種の保護とか?
「はい、構いません。うお!?」
体が透ける。持ち物の確認のついでに見えた自分の体が半透明になってる!?
”なに!? 私に挨拶もせずいきなり連れて行く気か!? 何を考えてるおるのだ、あの馬鹿娘は!”
月様も慌てている。死ぬでもなく、世界を移る前兆だとわかるだけ安心だけど。いきなりだったら、泣き喚いたかもしれないな。
”すまぬ!これから真殿が会う神は、少し、いや隠しても仕方ない。かなり問題がある女神だ。だが、そのできる限りで良い。大目に見てやって欲しい”
月様は苦労人だ。多分だが人間関係でもかなりの緩衝材になってきたのではないだろうか。
僕は笑って頷く。
異世界に行くことを決意し、そして受け入れさせてくれた。神である彼に比べれば僕なんて大した存在では無いだろうに、話をして心を平静にさせてくれた。
そんな月読命の言葉だ。多少は破天荒な女神だろうと、受け入れるさ。
ええ、そんな風に思っていた事もありました。
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