お気に入り4000件突破記念、extra第七弾であります。
それではどうぞ^^
※日本他、神様の名前が登場します。が、その関係性については独自の設定を使っております。実際の神話における記述や性格と一致しない事も多々ありますので広い心で御覧下さいませ。
太陽神というのは大変な仕事だ。
とにかく、月と違って太陽を司る神には創造神や主神となる事も多くて面倒が絶えない。
だからといって何日か留守にしたりサボったりすると一発で世界に影響が出てしまうので下手に休む事も叶わない。因果な仕事だ。
しかもそれで報われる程に慕われ信仰されると言うのならまだしも、この国においてはそれも大して期待できない。
最近は、一応弟のおかげで楽が出来ていたのだけど……。
私は重い気持ちのまま執務室の戸を引く。
侃々諤々。喧々囂々。
はぁ、またか……。
勢いのある言葉で議論をするのはまだ良い。きちんと先に進むのなら我慢も出来る。
だけどこの騒ぎは各々が騒ぎ立てるだけで、ちっっっとも前に進んでいないのだからただの騒音である。つまり五月蝿い。
これが私が常普段何かにつけ呼びたてては愚痴を零し、凡神だと説教していた弟である月読が隠れたことが原因だというから頭が痛い。
私が岩戸に隠れた時の比じゃない。上から下まで案件が上ったり下ったりで減らないし、事務処理能力が優れている、いやいた連中は過労で大分ダウンしている。定時上がりの安定職場がどうしてこうなるの?
月読は、隠れたとは言っても自発的に消えたとかじゃなく、何でも神力を消耗した状態で異世界に無理に干渉したが為に神界でも体が維持できなくなったんだとか。
母さんにも聞いたから間違い無い。眠りの世界は、言わば根の国と程近い関係にあるから良くわかるのだそうだ。元々あの子が任された領域にも属性は近いし、回復もそちらの方が早い。早々邪魔も入らないから理想的な休息場所だ。
……昔、高天原でもう一人の弟がいい年してマザコン全開の阿呆発言でドン引きされていた事を思い出す。あれだけ喚いていたくせに、結局あいつより月読のが母さんの手伝いとか一番してるのよね。
やっぱり結婚するっていうのは大きいのかしらねえ。性格まで変わるんだもの。
「アマテラス様、今日のご予定ですがよろしいですか?」
私付きの、予定の管理をしてくれているアメノウズメの一人が騒々しい室内を辟易とした顔で見ていた私に聞いてくる。よろしくなくても聞かないと先に進めないじゃない。
「出来るだけ手短にまとめてくれると助かるわ」
軽く愚痴をこぼしてみる。毎回~様と面会~殿と面会、ばっかりなんだもの。その上空いた時間はほとんど書類整理。弟が如何に重宝な存在か実感するわね。
「……では」
あれ、ウズメ怒った?神界でも指折りの色気が台無しだわよ? この忙しさじゃ踊ってる暇もデートする暇もないでしょうけどね~。
「各神界の海神様三十四名と順に会談。折々に書類整理。以上でございます」
さ、三十四人!?無理よ、物理的に会えるわけ無いじゃない!時でも止めろっていうの!?
「……最悪、トキハカシ様にお出まし頂く事も考えております」
「じょ、冗談よね?」
「本気と書いてマジでございます」
「三十四の神界から来てるでも無いでしょう! 神界毎に纏めて会談すれば少しは時間短縮も出来るわよね?」
「出来ない事はありませんが……」
ウズメ、時間を操作するのは神の身でも極めて自粛するべきことよ? 仕事が終わらないから時間止めるなんてどれだけ恥晒しなのよ……。
「ならそうして。もう形振り構ってられないわ」
「わかりました。それではまずギリシャの方々から」
「!! そういう、こと?」
「はい、そういうことでございます」
ギリシャ、あそこの神ときたら数は多いわ個性も強いわ一人でも正直嫌なんだけど……。一番嫌なのは何といってもエロさね。人間かってくらいにエロい。今更数を増やすでもないでしょうに。
うううう、仕方ない、かぁ。正式に面会の手続きをしている相手を、個人的嗜好を理由に断るのはまずい。
「うっわーー!忙しそう~」
覚悟を決めかけていた私の耳に甲高い、聞き覚えのある声が届く。最近はあまり顔を出さなかった癖に何の用事なのよ。
姦しい連中が来たわね。でも、来たからには犠牲者になってもらうわよ。絶対逃がさないんだから、うふふふ……。
宗像三女神。
まあ、私の娘みたいなものであり姪御のようなものでもあるわね。ついでに何かと私の神経を逆撫でする娘達でもあるわ。
タキリ、サヨリ、タギツ。
月読が居てくれたらこの娘達も大人しいんだけど。……凡神なのは間違いないと思うのに、面倒事の緩衝材になってるのが悉くあの子だって事実が恐ろしい。
「良い所に来たわね。今からギリシャの海神と会うんだけど、貴方達も一緒に参加なさいな」
負担は少しでも減らしたいところだ。幸いこの娘達は島に祭られたりもしているし海と無関係じゃないわ。うん、無理矢理じゃない。大丈夫。
流石に私と並んで座らせるわけにはいかないけど……。
「えー! なんてね。いいですよおば様。お手伝いしますわ。だって私達、日本で一番信仰されてますもの。あちらにも失礼にはなりませんし」
タギリ。聞き捨てならないことを。
「そうそう。おば様も月読様がいなくて大変でしょうから」
サヨリ。何で月読はおじ様じゃなくて普通に様付けすんのよ。私よりもあの子の方が偉そうな感じになってるじゃないの。
「最大手の八幡信仰としましては助けてあげますとも。そうそう、席は私たちが上座ですよね?」
タ、ギ、ツ。
「私が代表に決まってるでしょうが!私の神具から生まれた癖に何ちゃっかり下克上狙ってんのよ!?」
こいつらはーーー!!!
ええ、ええ、そうでしょうよ! 社の数だけで言ったらあんたらが一番でしょうよ! でもねえ、日本人の心にはやっぱり私が一番で存在してるでしょう!? してるわよね?
だって伊勢神宮は通年盛況だし、観光地の出雲だって……。
たまたま武士の時代が長かっただけよ。いずれ数だって逆転するんだから。倍近いくらい何よ。太陽神なめないで頂戴!
武士とか将軍とか私、大嫌い!
『過去の栄光に縋るってみっともないですよおば様』
き、綺麗にハモってくれるじゃない。喧嘩ね? あんたら喧嘩売りに来たのね?
買うわよ。もう我慢の限界。忙しくて忙しくて忙しくて、もう無理!!
太陽神天照の力、オモイシリナサイ。
「アマテラス様、ストップ、ストップです!! 落ち着いて下さいませ!! 比女神様方もどうか挑発なさらないで下さい。もう、本当に限界なんですから!!」
「うーー、うーー」
『……』
「おわかりでしょう? 最早アマテラス様も太陽獣一歩手前なのですよ」
コクコク。って今更頷いてるんじゃないわよ。やるわよ? オマエラマルカジリヨ?
「お手伝いは本当に助かります。では各々別室にて会談致しましょう。アマテラス様はポセイドン様と。ささお急ぎを」
ウズメの押されるがまま、私は海神の待つ会議用の一室に向かわされるのだった。ちっ命拾いしたわね、小娘ども。
あのエロ親父の相手か。獣化しない自信が今一無いわね。
最悪、ウズメを生贄にして乗り切りましょうか。うん、それが良いわ。
「お待たせいたしました。アマテラス様、参られます」
扉が開くと同時に聞こえた声。
「ポセイドン殿、遠い所よく参られました。今日は奥様方はご一緒では無いのですか?是非ご挨拶をと思っておりましたのに」(遠い所から暇つぶしに地方巡業気取り? ただでさえ嫁に頭上がらないんだからわざわざ羽目を外して隙みせんじゃないわよ? 容赦なく密告するからね)
にこやかなる第一声を席から立ち上がった男神にかける。体格はがっしりとして、海の男のイメージのままである。ただ高天原に来る時は上半身裸と葉っぱ装備は止めて欲しい。ここでは変態だと自覚して着替えてくるデリカシーは、こいつには無いか。
「いやいや、お気を遣いなさるな。朋友月読殿が動けぬほどの重体であると聞いては見舞いに来るのは当然。大勢で押しかけても迷惑かと思い、妻は同伴しなかったのだ。此度は月読殿を見舞う同志のみでの来訪。許されよ」(固い事言うなよ。ツッキーが心配だったから見舞うって名目で妻置いてこれたんだぞ? 他の奴らと適当に遊んで帰るから大目に見ろって)
態度も相変わらず尊大。ま、この神の場合は対外的に無理してこの姿勢だってわかってるから余り怒りは湧かない。彼は嫁と舅に気遣いする余り、地位以上に苦労人なんだ。少しはゼウスくらいの奔放さを持った方が楽しいのにと思ったりする。
「お気持ちが嬉しいのですが、弟は夢の世界にて静養中。当方の担当神である夢福も手一杯の状況ですので、どうかお見舞いはご遠慮願いたく。代わりにウズメに高天原案内をさせますのでどうぞごゆっくりお楽しみ下さいませ」(夢福は一人しかいないんだから面倒は増やさないで頂戴。どうせ形ばかりの見舞いなんでしょうから諦めなさいな。代わりに綺麗所つけてあげるからそれで良いでしょう?)
「ウズメ殿か。嬉しい申し出であるが、海の神として月読殿にちと話もあるでな。こちらから夢神モルフェウスを同行しておる。そちらに手間は取らせぬし、面会しても構わぬだろう?」
あら?
……へぇ。意外だわ。言葉の裏を読みながらの応酬を私は一旦止める。
ポセイドンが真面目な話も持って月読に会いに来るなんて結構久しぶりの事よね。遊ぶ気はもちろんあるんだろうけど、世界でも有数の海神であるポセイドンが名指しで会いたいと言うのなら断るのは難しいわね。
夢の世界では、元気そうだったってスサノオも言っていたから問題もあるまい。一応夢福に後で会話の内容を聞いておけば良いのだし。
「……。わかりました。許可いたしましょう。それで?ご用件はそれだけ?」
「ああ、いや。この後の面会次第なんだが、もう一つある」
「伺いましょう」
早く話して帰って欲しいわ。後どれだけ面会と書類が控えていると思っているのか。
「単刀直入に言わせてもらうが、今、世界の海は大分緊張感が高まっている」
「……っ。まさか神界の勢力図に関わる事態が?」
もしそうなら大問題だ。基本、この世界においてもう神々の争いはない。とうの昔に終わった。
「勢力図、と言えんこともないが。アマテラス殿はどうやらご存知無いのか?」
「……?」
「海の管理とは、雑務雑務雑務で、それはもうひたすらに激務でな。ワシなどはとうの昔に部下に投げた。それからは部下が潰れる度に補充して回していたんだが」
何気にこいつひどいわね。自分の管轄くらい自分の手で治めなさいよ。こちとら毎日太陽神やってるのに。
「以前に月読殿に会ってな、その管理システムに脱帽した。以後、ワシの管轄に限らず、世におる海神たちは皆メイドインツクヨミの海洋管理システムを使わせてもらっておる」
あの子、何わけのわからないことやってるの……。
「このシステムに不備や問題が起こった場合、大抵は月読殿が来ては直してくれていた。簡単なものならワシらでも修復は可能なんだが、今後もし基幹部分に問題が発生するとシステムを止めなければならぬ」
「それは、そうでしょうね。基幹が不具合を抱えたらそのまま使うのは危険でしょうから」
「そうだ。つまり昔のやり方に戻さねばならぬ。この話を伝えた所、部下の数人が卒倒してな。いやだ、あの日々にはもう戻りたくない戻りたくないと、子供のように泣くのだよ。終いには真顔で月読殿の代わりに寝込んで下さいと言われた」
……思いっきり甘えてるだけに聞こえるわ。こっちだってあの子が居なくなってからどれだけ激務に耐えていると思っているのよ。多少の苦労くらい……ってあれ?
もしかして、ポセイドンの部下と私たちの苦労の根っこって全部一緒?
月読、地味な癖に恐ろしい子。ウチだけじゃなくて世界の海の縁の下も支えていたなんて。
「どうだろう、アマテラス殿。順当に回復して百年以上かかるとは聞いている。だがもしも彼の了承が得られればだが、我らも全力で協力する故彼の早期復活を試みて欲しいと思うのだ。勿論、これは今日訪れている全ての海神の総意だ」
「それは、かの神界の総意ですか?」
「そうだ。今我らの神界におる全ての神の了承を得ている。月読殿は誰の邪魔にもなっておらぬ方だからな。反対なぞ起きなかったよ。とにかく前向きに検討して欲しい。海面上昇、氷山融解、潮流、深海、月の力との関連。ふとあがるだけでもキリが無い程問題は多いのだ」
いつになく真剣な表情の海神の大御所の言葉。
外の神界の協力、か。
実現するなら弟の早期復活の試みも現実味を帯びる。岩永姫の進言で考えたことはあったけど、無駄に神力を蓄えていた弟の復活には多大な労と力を必要とした為、却下せざるを得なかった。
月読は、何でそんなことをしたがるのか不明だけど、神話から弾かれた存在や不遇に扱われる存在を妙に気にかける。後、自分と同じように苦労した凡神とかね。
スサノオに屠られたオロチしかり、ニニギに振られた岩永姫しかり、いつかなんて時の朝廷に刃向かった人間、確かマサカドとかにも援助の手を伸ばしていた。
さっき出てきた宗像の小娘どもにしてもそうだ。あれも武士の神として半神の親子と一緒に祭られて多忙で死にそうな所をあの子に手を貸してもらって乗り切っていた。
……姉である私に対しては裏切りに近い行為な気もしたけどね! 高天原にじゃなく、人界に宗像と親子の神格をこねて新たな信仰の受け皿になる核を作り上げたのだ。その名は八幡。武運の神として今現在一番多くのお社を建てられている。八幡は神としては若輩も若輩の癖に信仰を相当集めている例外的な神でもある。
だからなのか今の高天原には弟のシンパというか信者っぽい神が結構いたりする。お中元とお歳暮は多分一番もらってるんじゃないだろうか。
「弟は幸せ者ですね。かように多くの方に必要とされるのですから。わかりました、月読尊の早期復活確かに検討致します」
「おお!是非に頼む。それではワシは朋友の見舞いに行かせてもらおう。多忙の中お時間を頂いて申し訳なかった。失礼する」
「ええ、ごゆっくり」
弟が早く復活すればこの働き過ぎ地獄から開放される。外からも力を貸してもらえるなら、かなり早い目覚めも期待できる。つまり楽が出来る。
毎日働くこの苦痛から開放されるなら何としてでもこの案件を通さないと。
弟の早期復活に同意してくれそうな神々をリストアップしながら、私はこの日のスケジュールを消化していった。
自重することなく、マイナーな神様を出しました。
元々月読様もそうだから気にしない。若干ディープなのはご愛嬌で。
ご意見ご感想お待ちしてます。
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