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お気に入り100件突破記念!
ということで本筋とは関係ないですがextraと称しまして書いてみました。

果たして彼女は本編にでるのか!出ないよ!
でもひょっとしたら”そっくりさん”で登場するかも。
それでは勢い100%の短編ですがどうぞ。
番外編
extra1 その頃現代①
中津原高校は公立高校である。市下で一番の進学校。県下では有数。全国ではそこそこ。

一学年辺りのクラスは五クラス。多くも少なくもない。

ちなみに中津原の後に東西南北がつく別の高校があるので略す時は中高といわれることが多い。

特徴は先ほども述べた進学校であること、そして部活に力を入れていることだ。進学校で公立、あまり部活が活発なイメージは湧かないがここは違う。

強さ弱さはあるがどこも必死に部活に打ち込むきらいがあった。勉強をしないわけではない。けれど情熱は完全に部活動中心なのである。

新入生もその校風に当てられるのか、秀才の多くが部活に精を出す結果になっている。

こんな状況で市で一番の進学校で在り続ける中津原高校は住む人にとっても不思議だったが、入れば文武に秀でた子になるという評判の前では不思議も悪評には変わらない。

弱い部活の筆頭は野球部。これまでに甲子園はおろかベスト8になったことも無い。

強い部活の筆頭は弓道部だ。これまでにこの県から全国に行っているのは23年間ずっと中津原高校だ。

弓道部には何故か美系が集まるというおかしなジンクスがあった。入った人間も感化されるのか美人になる、なんてことはないので普通のもいるが。だがセンスは磨かれるのか服のセンスなどは良くなる傾向はあるようだ。……続けられた人間は。

当然のように周囲にイケメンと美女がいる環境。だが別にハーレムでも逆ハーレムでもない。むしろ凶悪な練習メニューが存在する。そして成績優秀なのは当たり前な連中が集う高校で外見も整った変な物体が隣で普通に稼動しているのである。弓道の腕でも劣った場合や練習についていけなくなった場合、そのまま在部する普通組の者は意外と少ない。というか二年生にあがるくらいには超人っぽいのしか残らなくなる。なんで美人は根性も備えているんだ。

だから弓道部に入部する普通な人は勇者と看做された。深澄真は今在籍している中で二年生以上で唯一の「勇者」なのである。彼は自分が思っている以上に一目置かれていた。当然だった。弓道部に残っている、ということは美人な皆さんとお知り合いで尚且つ紹介してもらえるかもしれない人なのだ。

普通な人々からは天上の人の情報を聞ける気軽に話せる人として。そして告白を目論む全校生徒にとって彼を繋ぎに使えることは貴重であった。実際、彼を橋渡しにして告白が成功して付き合っているカップルも存在する。彼女にとって(お願いは女子生徒からだった)深澄真は本命並に気合の入った義理チョコを渡すくらいの感謝の対象となっていた。

散々色々に他人のことを聞かれ、ラブレターの手渡しやら告白の立会い、何とかファンクラブから写真撮影などを頼まれている深澄真からすると、僕ってこういうキャラなんだよね、と普通な自分は便利な人で終わっちゃうんだろうなあとか思っていたのだ。全然普通な環境ではない。

お願いされる写真撮影など、後で自分の写真は編集で切り抜かれるという扱い。彼は泣いていい。

あんまりな扱いの彼だが、それとは関係無い理由で高校二年生の秋に姿を消した。異世界に飛ばされたのである。律儀に家族に手紙を残して。今後の処遇についても両親に冗談交じりに様々お願いをしていたのであるが。

真少年にとって予想外に両親は張り切った。だってもう会えないであろう愛息が最後のお願いとして綴ったもの。そりゃあ冗談も通じない勢いでほとんど全部叶えたのだ。その一つが彼の在学していた高校でいま問題、いや騒ぎになっていた。

「あの馬鹿!よりによって海外に逃げるとはどういう領分よ!」

ただでさえ大変な時なのに、と口元を閉めながら一人の少女が職員室を出た。続いてのんびりとした雰囲気を纏った美丈夫が彼女に続く。かなりの高身長、二メートル近い長身を折りながら職員室の引き戸を閉める。細く糸のような目が両側に垂れ、優しげな表情を作り出していた。がっしりとした体格もあいまって見る者に安心感を与える青年だった。

あずま、でも何回聞いても事情は変わらないから…」

「わかってる!でもどうしてウチの副部長までいきなりいなくなるっての!?大体ファドゥーツってどこよ!」

「リヒテンシュタインの首都だよ。スイスの傍の」

博識な彼は正直に東と呼んだ少女の問いかけに応じる。この場合その回答が欲しくて口にしたわけではないので彼女の表情はイライラをさらに募らせたものに変わる。

「知ってるわ、地理の授業の質問してんじゃないわよ!」

八つ当たりである。怒鳴り声にも近いその言葉に続く男の子は困ったように黙り込む。

そう彼女、東ゆかりは彼女が部長を務める弓道部の副部長が突然海外に留学したという話を、彼が消えた日の二日後に聞いた。ちょうど週末で部活も珍しく休みの週だったので月曜日に聞くことになったのだ。
晴天の霹靂、とはこのことだ。意味が理解できずに目が点になったことは記憶に新しい。もっともこれは弓道部に限らず、話を聞いた全ての生徒に共通の反応だったが。

「何の報告も連絡も無し、何を考えているのよ真は!」

「あ、あはは」

何を言っても怒られる気がして曖昧に笑うことにした青年の判断は無難なところだろう。

「いきなり何の交流もない高校に転校しました。単身で行くので家族はそのままここに住んでます。場所はリヒテンシュタインという国です。何一つ納得できる点が無いわ」

「だねぇ」

「まだ誘拐されました、の方が説得力があるわよ!」

「それは不謹慎だよあずまぁ」

だが正解、東嬢。

嗜める青年の声もさして耳に入ってこない。彼女には彼の失踪といっても過言ではない海外留学の話に、もしかしてと思う理由に心当たりがあった。的外れではあったが彼女の状況から推論がそこに行き着くのは無理も無いことといえた。

新部長になるように先代部長たちに命じられた頃、彼に相談しようと密かに彼が居残りをしている弓道場で待ち伏せをした日のこと。

(冗談でしょう?醜態は醜態だし悶えるくらい恥ずかしかったけどそれで転校して逃げる?でも理由なんてそのくらいしか…)

東ゆかりは可愛いと言われるタイプでは無い。凛とした雰囲気から麗人と呼ばれるほうが良く似合う娘だ。お姉さまランキングで二年生にして頂点に立つだけのことはある。その彼女が不機嫌に声を荒げて急ぎ足に進む様は迫力があり、廊下は両端に人を集めることになっていた。

生まれて初めての告白で彼女は酷い仕打ちを受けた(と感じた)。だから彼をしばらく詰ったり、キツく当たったりもしたが。

(アレは全力で殴りかかっても次の日にはごめんな~とか意味不明に自分から気軽に謝ってくるタフな奴だ。私が拗ねたくらいでこんな真似にでるわけが…)

拗ねるレベルは人それぞれ。でも彼女は真に対するそれなりの行為を拗ねると済ませた。なのでこの場では追求は止めよう。一言、彼は甘んじて全てを受け入れたとだけ伝えることに留める。

実際、彼と東ゆかりともう一名にとってのXデーだった日から。

真はさほどに変化した様子は無かったが、他二名の”荒れ様”は正直部員を恐怖の渦に落とした。嵐の中心部ともいえる荒れっぷりを真に浴びせる様子を見て、彼絡みで何かあったのだろうと想像はしながら薮に手を突っ込めずにいたというのが現実。余談だが戦々恐々とする部内で泰然とする真に 美人ズはその精神の太さに感服の意を含み、彼への評価を一つ上げたとか何とか。

「ねぇねぇ、東さん一体どうしたの?」

「え、知らないの?深澄君のことよ」

「あの副部長さんになった?」

窓側に寄った女生徒が東の様子をいぶかしんで、隣の友人にひそひそと事情を伺う。

「そうそう。あの人、頑張って副部長になったらしいんだけど」

「うんうん」

「勘違いしちゃって、その後で東さんに告白して振られたらしいの」

「ええぇぇぇぇ!」

「で、しばらくは普通にしてたらしいんだけど」

「…あ、あれかぁ」

質問を持ちかけた娘は納得したようにあれか、と口にした。あれとは当然深澄真の転校である。

「そういうこと、弓道部のことも投げ出して逃げちゃったんじゃないかって噂」

「うわ、カッコ悪。でも海外まで逃げるって結構凄い逃げっぷりだよね」

本当の所は異世界です。もっとすごいです。

古今女性のナイショ話は秘密であって秘密でない。今回もカツカツと颯爽と歩く彼女の耳に聞こえてしまっていた。

ギンッ!

と効果音が鳴り渡りそうな鋭い視線が、話をしていた女生徒らに向けられる。

「あっ、その…」

一瞬で威圧された2人の片割れは何とかそれだけ口にする。だが東は足を止め無言で睨む。

(頑張って副部長になったんじゃないわよ!私が不安で不安で無様に泣きながらお願いして副部長になってもらったの!こ、告白したのだって真じゃなくて私。……振られたのも私の方!!)

全部見事に逆に伝えられていることに驚きながら訂正しようにも上手く言葉にならないもどかしさを抱くゆかり。惚れているのは自分だ、告白などされていたら間違いなく肯定していると彼女は確信していた。

……そう、惚れて”いる”。真の方は東嬢に限らずこの世界との縁はとうに切れてしまったと思っている。しかし実際の所、ゆかりはまだ彼を想っていた。彼女の中でも無意識の内に、明確にならない形で心に燻ったままだ。

言葉に出来ず睨むだけになっている静寂の場。より一層内緒話を後悔する生徒にとってはさらなる追い討ちに等しい。

「ほら、東。行こう。部活始まっちゃうよ、部長が遅刻するの?」

行って良いよ、と怯えている同学年の生徒に目配せしてやると頭を下げて二人は全速力で去っていった。ゆかりの口から微かな息が漏れる。

「ごめん、ありがと兵藤」

再度歩く彼女の表情は幾分か険の取れた様子。少しは気持ちを整理したのだろう。

「ううん。本当に突然だったから動揺するの、わかるよ」

彼、兵藤某にも動揺が無いといえば嘘になる。男子部女子部が分かれて部長をもつなら、彼自身深澄真が次の部長だろうと思うほど、彼の部内での立ち位置は重要だった。

指導中心だが周囲をキチンと見ている。練習も欠席したことがなく備品の買出しや道場の掃除や片付けも嫌な顔ひとつしない。部の雰囲気は彼のおかげで確実に良いほうに良いほうに変わっていく。

唯一不満があるとすれば大会や試合に出ないことくらいだ。それも、顧問の先生や指導に来てくれている師範から彼の意思ではなく、技量から自分たちが判断したことだと説明してくれている。始めは耳を疑ったが、実際誰よりも上手いはずだと思えた。誰よりも指導が上手で、そして誰にでも技術指導やアドバイスのできる者の技量が優れていないわけがないのだから。間違いなく今年の新人戦は過去最高に圧倒的な結果が出ると思っていた。

「ねえ、さっきのたちの話だけど」

「ああ、…あれ」

東が自ら話を振ってくることに驚きながら彼は相槌を打つ。彼女も当事者なのだ、話を続けて大丈夫なのかと気遣う気持ちがあった。

「どうしてそんな話になってるわけ?」

心外だという部長の問いかけに兵藤は少し意外に思った。彼も実はそんな所だろうと思っていたのだ。いや転校云々とのこじつけはともかく、振られたという所までは間違いないと思っていた。彼女は確かに真に対してキツく当たっていたのだから。

靴を履いて校舎を横目に歩いていくと人目が減っていく。弓道場は校舎や運動場からは離れた場所にあるためだ。

「いや、だって東が一時期真に物凄くキツく接していただろう?それで皆そう思っていたんじゃないかな。真がなにかやらかしたって」

「やらかすと、告白したことになるわけ?」

「そこは、邪推もあると思うけど。部内にはあれでお喋りな子は少ないから何も言ってないんじゃないかな。様子を見てた他部の子とか、クラス内でそんな話になったんじゃないかな」

「はぁ~、何て暇なのかしらね」

東ゆかりは相当に呆れているようだ。噂に興味の無い彼女からすると無駄極まりなく思えるのも無理はない。

「僕らは何かと注目されるから……わかるでしょ?」

「注目?何で?」

本気でわからないって顔をしてる部長の様子に兵藤は嘆息する。些細な事でゴシップ紛いの噂が噴出する弓道部の部長なのに、なんて無関心なんだ、と。

「いや、まあ、ね」

「歯切れ悪いわね。だけど暇とはいえ。中々的は射てるのは侮れないか」

「えっ!」

「その顔、あなたも当たらずとも遠からずなんて思ってたんじゃないの?」

「う」

図星だった。真に予兆は見えなかったけど状況から何となく確信していた所がある。

「他にどう思われるのも構わないけど部内の人間にまで誤解を与えたままというのも心外ね。いいわ、本当のとこ教えてあげる。男子にはあなたから適当に話しておいて」

女子には自分で話すわ、と東ゆかりはさらっと言ってのけた。

「聞いちゃっていいの!?」

「勿論。もう吹っ切れたわ、ついでに利用させてもらうことにするから、もう良い」

「で、でも中々的は射てるってことはやっぱり…!」

「あのね、ぜーんぶ逆なの」

「ぎゃ、く?」

「そ。真に副部長になってってお願いしたの私。というか、部長になって欲しいってお願いしたら逆に説得されて、納得させられた私が彼に副部長になってくれるように頼んだ」

「ええええ!」

「で、勢いでそのまま告白したの。彼に」

「ッ!…こく、はく?」

「そう」

「それ、で、どう…」

「振られた。以上」

「!!!!」

「これが事実よ。何であいつから告白したことになってるのかさっぱりだけど告白ってとこまでは奇跡の一致してたのよね」

兵藤はあまりのことに口をパクパクさせるばかり。東ゆかりが男に頼ったなどと。しかも、告白までしたなど。到底すぐに飲み込めることではなかった。

彼女に憧れる生徒は男女問わずに多い。そして性別を問わずに想いを告白する者も多い。だがその全てを彼女は一刀両断で断って捨ててきたのだ。それが自分から、面倒見が良い位しか特筆する点の無い深澄真に告白するなんて、驚愕、の一言で済むことではないように思えた。

しかも、振られた。弓道部部長、東ゆかりが。

一体、中津原高校で彼女の告白を断る人間が何人いるだろうか。少なくとも兵藤には思い浮かばなかった。自分だったら?二つ返事で承諾だ。彼女に憧れている者の一人なのだから。下手をすると女生徒でも成功しかねない。

彼はぐちゃぐちゃになった思考で辛うじて考える。真がここにいなくて良かった、と。もしいたら彼は全校生徒の半数以上を敵に回し、なおかつ確実に暴力に晒されることになるだろうから。多分俺も加わる、と兵藤は付け加えた。

「次からは告白されたら、私深澄君が好きなの、ごめんねって言うことにするわ」

いや死んでたな真の奴。兵藤は考え直した。そして未だ纏まらないながらも深澄という同輩に畏敬の念を抱いた。今なら彼が魔術師だと言われても信じる。

「今年のクリスマスはファドゥーツに押しかけてやろうかしら」

そう冗談交じりに呟いた彼女の目は、兵藤からみて本気と書いてマジと読む感じだったという。
次回は300件突破でやります!
後輩編でも書こうかなあ。
その次があればお姉ちゃん編か妹編でもやってみようか。
大前提として予定は未定です。ただし書く事は確定で。自分にとってお気に入り数の節目は祭りなので^^
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