中国 2013年4月27日

急速に広がる中国の貧富格差
北京中心部にある”名もない街”とは?

 連日のように汚職公務員の吊るしあげのニュースが紙面をにぎわせている。

 「この10年は国家権力に寄り添うことができた人が財を成した」と、恩師であった故邱永漢先生もよく言われていたが、本当にそのとおりだと思う。

 新たに中国のリーダーとなった習近平国家主席は、次の10年の目標のひとつに格差是正を掲げている。

 前回のレポートでも記したが、私の住まいがある場所は北京の中心地のひとつである東三環状線沿いにある。徒歩10分圏内にアメリカ、ドイツ、フランス、日本大使館があり、5星ホテルもフォーシーズンズ、ウエスティン、ケビンスキー、シェラトンなどがある。

 だが同じこの界隈に、もう一つあまり知られていない場所がある。地方からの出稼ぎ労働者たちがつくった、住所もない「名のない街」だ。

 その「名のない街」は、アメリカ大使館から数メートルのところにある小道に入ると、その先に広がっている。

 ため池を挟んで、向かい側には日本大使館の建物も見える。このような華やかで喧騒にあふれた場所のすぐ隣に、夢や希望とは縁のない人たちが暮らしている場所があるのだ。

 最近はめっきり減ったが、私は時々この「名のない街」に足を運び、ため池沿いにある椅子も机もガタガタな安食堂で1本3元のビールを飲んでいた。

 この場所には、失望もあるが希望もある。若い人たちには笑顔が見られるが、中高年の顔に笑いは少ない。

 ため池の対岸に見える、華やかなネオンがまったくの別世界のように感じられる。

 ここでビールを飲んでいると、不思議と腹を立てていたことや、頭の痛い問題がスーッと消える。うまく説明はできないが、そんなことどうでもよく感じられる空気がこの場所には流れているのだと思う(翌朝には元に戻ってしまうのだが)。

 この街に日中に行くことはないが、今回、取材のために久しぶりに訪れてみた。

「名のない街」から見える高層ビル群

 街からため池を挟んでみる景色は大きく変わっていた。新しいビルで以前見えていた建物が隠され、対岸にあったバーストリートも再開発で完全に取り壊されていた。

 30分ほど歩いたが、街自体はほとんど変わっていなかった。しかし、周囲はぐるりと真新しいビルで取り囲まれている。

 遠くない未来に、この街は一部の人の記憶の中だけに残り、名前のないまま取り壊されるだろう。

 その時に、中国の格差は今より改善されているのだろうか。それともいっそう広がっているのだろうか。

ため池のほとりで暮らす人たち

 

 

 

 

  

青空魚屋 いまの旬はカエルだそう

 

 

 

 

 

 

文/写真・荒木尊史

1974年鹿児島県生まれ。2005年より、チャイニーズドリームを夢見て北京で製パン業を営む。邱公館(北京)食品有限公司。


 

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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