映画「ゼロ・ダーク・サーティ」は米中央情報局(CIA)の女性情報分析官が主人公だ。米中枢同時テロの首謀者とされたウサマ・ビンラディン容疑者の潜伏先をつかみ、米軍が殺害するまでを描き出した
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高い評価を得て、2月の米アカデミー賞の候補に挙がった。物議も醸した。共和党議員が「映画製作に協力したCIAが国家機密を漏らしたのではないか」と糾弾。議会も調査を始めた。それほど事実に迫った内容だったのだろう
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9・11後、米国はテロ対策を強化。CIAの情報力は向上した。撮影への協力は成果を誇示したかったのか。映画はしかし、裏側もあぶり出した。拷問だ。CIAは実際、世界各地で「容疑者」を拘束、情報を聞き出すため拷問にかけた。無実の人々が欧州人権裁判所に訴えている
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ボストン・マラソンの連続爆破事件はチェチェン系の兄弟が「テロリスト」とされた。2人とも米国で育った。米社会は、格差や差別など背景にあるかもしれない問題を脇に置き「国内育ちのテロリスト」捜しに走るのではないか
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日本国憲法36条は「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」とする。戦前、戦中の拷問事件を反省しての人権規定だ。アルジェリア人質事件では政府の情報収集力の弱さが浮き彫りになったが、「手段を選ばず」に走れば怖い。CIAを必要としない日本でありたい。