免疫療法が同時に可能な腫瘍脊椎骨全摘術

《金沢大学 脊椎のがん相談室》
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背骨のがん(転移)を丸ごととります!!(次世代の夢の治療を開発・臨床研究中)
背骨(脊椎)にできる腫瘍は、そのほとんどが他の場所にできた癌の脊椎への転移です。なかでも乳癌、前立腺癌、肺癌、腎癌は高い頻度で脊椎に転移します。近年のがん治療の進歩はめざましく、がん患者さんが長生きできるようになりました。それにともなって脊椎転移の患者さんが急激に増えてきています。そして脊椎に転移した患者さんも長生きするようになってきています。これまで、「がんが脊椎に転移すれば末期でもう手遅れ、あとは痛みを和らげて死を待つだけ」というのが常識でした。しかし今の時代、がんが脊椎に転移してもまだ手遅れではありません。がんの脊椎転移の患者さんの中にも根治手術(がんを丸ごと切除する手術)によって命を救える患者さんがたくさんいらっしゃいます。さらに我々は免疫療法が同時に可能な新しい根治手術を開発しました。これでさらにがんの脊椎転移の患者さんも長生きできると確信しています!

金沢大学附属病院整形外科(脊椎・脊髄外科)では平成元年よりがんの脊椎転移を丸ごと切除する手術(腫瘍脊椎骨全摘術)を考案し施行してきました。この手術で何人もの患者さんの命が救われています。余命3カ月から半年と宣告された患者さんが15年以上、元気に生き続けています。
58歳 腎癌の第6胸椎転移 手術前は歩くどころか立つことすらできませでしたが、現在は仕事にも復帰しています。手術後すでに7年経過していますが、再発や転移は全くありません。
これまでの金沢大学での手術の実績が認められ、この背骨のがんを丸ごと取り除く腫瘍脊椎骨全摘術は平成15年に厚生労働省から先進医療に認定され、金沢大学附属病院は脊椎の悪性腫瘍に対する腫瘍脊椎骨全摘術をおこなうことができる日本で唯一の病院となりました。脊椎の悪性腫瘍は中途半端に切除すると必ずすぐに再発します。早い患者さんではたった1ヶ月で再発します。脊椎に再発するともう切除はほとんど不可能です。最初の手術で完全に丸ごとがんを取り除くことが最も重要なのです!この腫瘍脊椎骨全摘術は、2010年4月13日、テレビ朝日『たけしのみんなの家庭の医学』でも奇跡の手術として放映されました。反響も大きく6月には関東圏で再放送もされています。
しかし、この手術はあくまでも脊椎悪性腫瘍のその場所だけの完治を目指したものです。残念ながら、がん患者さんの体には目に見えない大きさのがん細胞が体中をたくさん泳いでいます。体にがんがあれば、そこからがん細胞は24時間常にこぼれ落ちています。たとえ背骨が完治しても、ある時、その目に見えないがん細胞が肺や肝臓にくっついて大きくなってきます。それが肺転移や肝臓転移であり命を落とす原因になるのです。
そこで土屋弘行教授と村上英樹准教授以下脊椎グループが考え出したのが新しい腫瘍脊椎骨全摘術(『次世代腫瘍脊椎骨全摘術』)です。我々は腫瘍脊椎骨全摘術に腫瘍凍結免疫を応用し、脊椎のがんの完治だけでなく、同時に全身の免疫療法をも可能としました。実際に2010年5月より臨床応用を開始しています(倫理委員会承諾のもと臨床研究中)。これまでの腫瘍脊椎骨全摘術では、脊椎のがんを切除した後、そこには自分の正常な骨盤の骨を詰め込んだチタン製ケージを挿入し脊椎を再建していました。
しかし、新しい『次世代腫瘍脊椎骨全摘術』では、丸ごと切除したがんを含む脊椎をマイナス200℃の液体窒素で凍結し、その骨を砕いて、自分の骨盤の骨の代わりにチタン製ケージ内に詰め込み、脊椎にはめ込みます。
この液体窒素による凍結処理でがん細胞は完全に死滅しますが、がんの抗原(体の免疫細胞ががんを攻撃するための目印)は壊されずに保たれます。すなわち、がんは死んでもがんの顔は残ったままなので、そのがんを攻撃しようと体の免疫細胞が活発に活動し始めるわけです。がんの死骸を体に戻すことによって体のがん免疫系が活性化されるのです。例えば皆さんが子供の頃に受けたBCGの予防接種は結核菌の死骸を注射しています。結核菌の死骸を注射することによって結核菌に対する免疫を作るのです。それと同じ原理です。そしてこの活性化された細胞が血液の流れに乗って、体の中に残っているがん細胞を攻撃してくれます。
切除したがんの背骨を液体窒素に入れるところです。
免疫細胞は、すでに肺や肝臓に転移のある患者さんには転移巣を攻撃してくれますし、まだ目に見える転移がない患者さんにも血液中を泳いでいるがん細胞を根こそぎやっつけてくれます。このように『次世代腫瘍脊椎骨全摘術』は全身的な免疫療法としての効果も期待できるようになりました。手術はさらに画期的に進歩したのです。もちろんこの方法はまだ臨床研究中で、世界中でもここ金沢大学でしかおこなっていない手術(治療法)です。

脊椎がんの完全切除と同時に免疫療法が期待できる!!まさに、一石二鳥で、特に転移性脊椎腫瘍患者さんにとっては願ったり叶ったりです。今後は、この新しい手術により脊椎悪性腫瘍患者さんのさらなる生存率向上が期待できます。これからは患者さんの生存期間も確実に延長することでしょう。脊椎にがんが転移しても決して末期ではありません!金沢に来ればまだまだ生きるチャンスがあるかもしれません。Never give up !!
なお、この手術は平成24年4月より保険適応となっております。
39歳 甲状腺癌の第4胸椎転移の手術後 手術時間:5時間51分、出血量860ml(輸血なし)手術後3週間で元気で退院を希望されましたが、念のため4週間入院してもらいました。
『次世代腫瘍脊椎骨全摘術』のよい適応
・乳癌、腎癌、甲状腺癌などの脊椎単発転移(ただし重要臓器転移がないかコントロールされている)
・骨巨細胞腫、動脈瘤様骨のう腫、骨肉腫、骨芽細胞腫など脊椎が原発の悪性腫瘍
残念ながら
1)胃がん、食道がん、肝臓がんなど進行の早いがんは適応外のことが多いです。
2)すでに肺や肝臓に転移があり、余命が半年に満たない場合には適応外です。
余命が半年以内では根治手術する意味がありません。手術で苦しんでさらに死期を早めるだけです。
3)すでに脊椎にいくつも転移が存在(多発)している場合には適応外です。
いくつもの山が同時に山火事になっているのに、1つの山だけ消火しても意味がないでしょう。
4)脊髄にできたがんは適応外です。
脊髄は神経、脊椎は骨です。神経は丸ごと取り除くことはできません。
『次世代腫瘍脊椎骨全摘術』の概要(単純な脊椎1個の転移の場合)
・入院期間は術前1〜2週間、術後約4週間
(術前から体の免疫を上げる薬を投与します。術後1週で歩行を開始し、10日で抜糸、4週で退院。術後3ヶ月〜半年で本格的に仕事復帰可能です)
・手術時間は約6時間
・出血量は300ml−800ml
(最近はほとんどの症例で輸血は必要ありません)
もちろん、がんが大きくなると当然手術も難しくなり手術時間、出血量、合併症も多くなり、入院期間も長くなります。
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