超幻想交差 (英語が苦手な人)
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第1話 始動
翔SIDE
春は出会いの季節、なんてことはよく言われているが、出会いというものがすべていいものだとは限らないのではないだろうか?
そりゃあ、もちろん、可愛い女の子や、かっこいい男の子、尊敬できる人に出会うことができれば、それはいい出会いかもしれない。
そんな人に出会える確率は、かなり、いや、ほとんどないといってもいいだろう。
実際に出会うのは、バカみたいなことをやる奴や、説明がへたくそな先生が大半だろう。
と、まあ、ここまで否定的なことを言ってきたが、そういったことを含めて、俺はこの春という季節が好きだ。
なんだかんだ言っても、新しい出会いは好きだし、何より春は、暖かくなったことで、草花や、虫、小鳥などが一斉に活動を始める季節。
そして今日は『国立管理局付属特別養護学園』の始業式。
アレも始まる。
あいつとは打ち合わせしといたけど、ちゃんと『F』にいるのかな?
行けばわかるか。
ふと、腕時計をみた。
「あ、ヤバイ」
俺『櫻井 翔』は、走る速度を速めた。
―――――意外と、時間がギリギリだったから。
『国立管理局付属特別養護学園』は全寮制の超巨大学校だ。
中部地方の山間部にあり、敷地面積は東京都の5分の1ほど。
そこには、生活するのに必要な施設はそろっており、ライフラインも確立している。
休日には学校の外に出ることもできるが、日本全国から生徒が集まってきているため、だいたいの生徒は、夏や冬の長期休暇のときのみ家に帰省する。
寮の部屋も一人1部屋で、そこそこの広さがあるが、少し学校からの距離が遠い。
例によって俺も、始業式に間に合うギリギリの時間になってしまったのだ。
ようやく校門が見えてきた。
そこには、大柄な男性が一人。
生活指導の鬼、西村先生だ。
「櫻井、遅刻ギリギリだぞ」
「すいません、鉄じ――――西村先生」
「………今、鉄人と言いかけなかったか?」
「気のせいですよ」
あぶない、あぶない。
危うく西村先生のあだ名を言いそうになっちゃったよ。
それを口に出そうものなら、初日から生活指導(という名の体罰)を受ける羽目になっちゃう。
「まあいい。ほら、クラスだ」
「どーもでーす」
鉄人は茶封筒を渡してくる。
俺はそれを受け取り、開けて、中身を確かめる。
そこには、
『櫻井 翔…Fクラス』
と、書かれていた。
うん、まあ予定通りかな。
「あー…………櫻井。お前は何で振り分け試験の手を抜いたんだ? お前の実力なら、Aクラスは五分五分でも、Bクラス程度には入れていただろう」
「あれですよ、あれ。雄二が言い出したんです。一緒のクラスになろう、って。上のクラスだと微妙だから、わざと手を抜いて下のクラスにしたんです」
「まったく…………お前たちは、仲がいいのか、悪いのかわからんな」
「ははは、俺もそう思います」
実際、俺もそう思っていた。
まあ、でも、心の奥底ではわかっている。
アイツのことを信頼しているんだってことは。
「やっぱり大きいな、Aクラスの教室は」
窓からAクラスの教室を除きながら言う。
『国立管理局付属特別養護学園』の学費はすべて税金で賄われている。
最初の内は全員同じ教室であるが、中等部2年の終わりにある振り分け試験で、AからFまでに分けられる。
これは優秀な人材を高待遇で育成するための措置である。
成績が上がれば、上のクラスになれるけど、それにはどうしてもクラスの『総合力』が大事になるから結構難しい。
と、ここでやっと我がFクラスに着いた。
ここでのメンバーとこれから――――最低1年は――――一一緒に戦っていく。
さてと、どんなメンバーがいるのかな。
俺は中に入る。
と、同時に。
「遅いぞ、カス野郎」
罵声を浴びせられた。
「なんだとぉ………って雄二か」
顔を向けた先には、悪友である『坂本 雄二』がいた。
「まったく雄二も物好きだね。てっきり、俺をだまして、自分だけ上のクラスに行ったんじゃないかと思ったよ」
「ふん、そっちこそ、わざわざ点数を落としてFクラスに来るなんてな。誘った俺もびっくりだ」
いつも通り、互いの悪態をつきながら、適当に席に座る。
「さてと、だ。このクラスに来たってことは、それなりの覚悟はあるんだよな」
雄二が不敵な笑みとともに聞いてくる。
「何をいまさら。あるに決ってるよ」
繰り返して言うことになるが、『国立管理局付属特別養護学園』では成績によりクラス分けがされる。
つまり上位のクラスにいれば、それだけ将来の進路の幅が広がる。
ここは最下位クラスのFクラス。
ある条件を満たせば、上位クラスになることができるとはいえ、その道のりは茨の道になるだろう。
でも、だからこそ。
「確かに、難しい道のりになるかもしれない、けど、だからこそ―――――」
「やりがいがある、か?」
雄二が俺の言葉を代弁する。
「そ。というわけで、これからよろしく雄二。せいぜい俺の足を引っ張らないように頑張ってね」
「ぬかせ。そっちこそ足手まといになるんじゃねぇぞ――――――『相棒』」
こうして俺たちの、ある意味本当の『国立管理局付属特別養護学校』での生活が始まった。