3月30日、トヨタ自動車の「グローバル品質特別委員会」を取材する報道陣=愛知県豊田市、川津陽一撮影
「トヨタ自動車に関する私のツイッターでの書き込みが大問題になりました」。21日、横浜市の慶応大大学院。米紙ニューヨーク・タイムズ東京支局の記者、田淵広子さん(30)は記者志望の学生らを前に、ソーシャル(交流)メディア利用の落とし穴として自らの例を挙げた。
田淵さんは3月30日、リコール(回収・無償修理)問題を受け、トヨタが愛知県豊田市で開いた品質特別委員会や会見などに出席。合間にツイッターに書いた。「3時間以下しか寝ず午前6時の新幹線に何とか乗り込んだ。ウイ・ラブ・ユー豊田社長!」「豊田社長はほとんど質問を受けず、私を含め追加質問をしようとする記者を無視。申し訳ないけどトヨタは最悪」
瞬く間にネット上で、「取材先企業にフラストレーションを爆発させた」と、書き込みの是非をめぐって議論が起きた。
同紙は昨年9月、「タイムズに書けないことは書かない」と記したソーシャルメディア利用の指針を作っていた。田淵さんの書き込みをめぐる議論を受け、同紙のオンブズマンとして読者の声を代弁するパブリック・エディター、クラーク・ホイトさんは4月上旬、「常にさらされる危険」と題した記事を同紙に掲載。「素早く、くだけた文章で、個人的に書くツイッターの一般的なスタイルは、書き手を過度にオープンにしてしまう」と指摘した。
「友達に不満をこぼす感覚で書いたらすぐに取り上げられ、正直びっくりした。トヨタの批判記事をタイムズが書いていた時期で、エディターからは『気をつけるように』と言われた」と田淵さんは振り返る。
「オンラインでの書き込みは私的活動だと誤解する人がいるが、ツイッターであれフェースブックであれ、実に公共的な討論の場だ」。ニューヨーク大ジャーナリズム研究所のアダム・ペネンバーグ准教授(47)は警鐘を鳴らす。
同紙が3月に始めたウェブ放送「タイムズ・キャスト」も早々に議論を呼んだ。紙面で取り上げる内容を編集幹部らが解説する内容だが、開始2日目、エグゼクティブ・エディターが、パレスチナのイスラム組織ハマスの幹部暗殺事件に関し、英国に国外退去を命じられたイスラエルの外交官を「(同国の情報機関)モサドのトップ」と語った。だが、モサドの関与は疑いの段階。外部からクレームがついた。
取材内容が表に出るには、編集や校閲など複数の目を経る。従来、取材過程で記者の発言が公になることはほとんどなかった。最近は取材される側が書き込む例も増えた。記者の動きそのものがさらされている。(藤えりか)