イラク:宗派抗争再燃も 死者、5日間で170人
毎日新聞 2013年04月28日 14時28分(最終更新 04月28日 17時17分)
【カイロ秋山信一】イラクで治安部隊とイスラム教スンニ派武装勢力との武力衝突が続き、2006〜07年に激化した宗派間抗争の再燃が懸念されている。ロイター通信によると、死者は23〜27日の5日間で170人を超えた。一連の衝突は、米軍が撤退した11年12月以降では最大規模とみられる。物価高や失業問題を背景に、シーア派主導の現政権に対するスンニ派住民の不満が高まっていたところに、治安部隊の強硬な対応が火を付けた格好だ。
衝突は23日、北部ハウィジャで始まった。スンニ派の反政府デモ隊の仮設キャンプで治安部隊と武装勢力が交戦し、双方で20人以上が死亡。ロイター通信によると、治安部隊は「攻撃を受けたために応戦した」と説明し、デモ隊側は「非武装のデモ隊を治安部隊が襲撃した」と主張した。
衝突は北部モスル、中部ラマディなど各地に波及。キルクーク近郊の町スレイマンベクでは25日、警察署や行政庁舎が武装勢力に一時占拠された。また治安部隊の対応に抗議して、スンニ派の閣僚2人が23日に辞任した。
AP通信によると、27日にも、首都バグダッドやラマディなどで衝突が相次ぎ、少なくとも10人が死亡した。
イラクでは03年のフセイン前政権崩壊後、米軍が駐留してきたが、治安が安定せず、経済の復興が進んでいない。スンニ派、シーア派、クルド人などの政治勢力が権力争いを続け、物価高や失業問題を改善できない政治に国民の不満が高まっていた。
特にフセイン政権下で優遇されてきた少数派のスンニ派は、シーア派主導のマリキ政権下で軽視されているとの不満が根強く、昨年12月ごろから反政府デモを活発化。国際テロ組織アルカイダ系のスンニ派過激組織によるシーア派に対するテロも頻発している。
06〜07年にはシーア派聖廟(せいびょう)爆破事件を機に宗派対立が激化し、5万人以上が死亡したとされ、今回の衝突も大規模な宗派間抗争に発展する恐れがある。隣国シリアの内戦を巡って、アサド政権を支援するイランやレバノンの武装組織ヒズボラなどシーア派勢力と、反体制派を支援するサウジアラビアやトルコなどスンニ派勢力の緊張が高まっており、周辺国を巻き込んだ衝突になる可能性もある。