2012年12月20日(木) 東奥日報 エンタメニュース

■ イルカとおじさん エンタメ版「水泳のススメ」・その7

写真
御蔵島沖のイルカ

 先日、WOWOWの放送で見逃した映画をiPadのアプリ「WOWOWメンバーズオンデマンド」を利用して、インターネットで視聴した。2011年の米国映画で『イルカと少年』(原題:ドルフィンテール)というタイトル。日本では公開されなかったが、全米では映画ランキングの上位に入った作品だという。初めに「本当にあったお話です」とテロップが入るので、ノンフィクションの物語だとわかる。録画予約を忘れて見逃した番組をiPadやiPhoneで、いつでもどこでも手軽に見られるのは便利なサービスである。同じアプリがアンドロイドでも提供されているので、アップル以外のスマホやタブレットでも利用できるはずだ。ビデオ・オン・デマンドがTVコンテンツ視聴の新しい楽しみ方の一つになってきた。

 映画の舞台は米国フロリダ半島の西海岸にあるクリアウォーター市。漁具のロープに絡まり、傷ついて海岸に打ち上げられたイルカと少年「ソーヤー」との出会いから物語が始まる。ソーヤーに助けられて水族館内の「海の病院」に保護されたイルカは「ウィンター」と名付けられて治療を受ける。ソーヤーには心を開く重傷のウィンター。命を救うためには傷ついた尾びれの切断を余儀なくされる。ソーヤーは尾びれを失って泳げなくなったウィンターに人工の尾びれ、“義尾びれ”をつけることを思いつく。ウィンターのために人工の尾びれを完成させなければならない。ソーヤーは大切な友を救うため、広く市民の協力を求めるイベントを企画する。

 今回の映画の主人公となった尾びれのないウィンターは本人(本イルカ?)が出演している本当の本もの。実際にウィンターがいる水族館「クリアウォーター・マリン・アクアリウム」のウェブサイトでは、映画の中でも登場したウェブカメラでウィンターのライブ映像が見られるようになっている。

 日本でも同じような話を聞いたことがあったので調べてみると、ブリジストンが社会貢献活動として「イルカ人工尾びれプロジェクト」をウェブページで紹介していた。こちらは沖縄の美ら海(ちゅらうみ)水族館。原因不明の病気で尾びれの大半を失ったイルカの「フジ」にゴム製の人工尾びれを装着する話である。この話も2007年に松山ケンイチ主演で『ドルフィンブルー フジ、もう一度宙へ』と題して映画化されていた。

 イルカに限らず、動物との交流や友情を通して、少年の成長を描くのは動物映画の定番で感動の物語になる。そのための主人公はやはり多感な少年でなければならない。では主人公が「おじさん」だったらどうだろうか。はつらつとした少年と比べたら、さえないおじさんでは悲哀というか、もの悲しさが漂い、話が暗くなってしまいそうだ。感動の物語にはなりそうもない。ところが、多感な少年時代をはるか昔に卒業した正真正銘のおじさんであっても、野生のイルカとダイレクトに親しく交流できる場所が東京都にはあった。東京から南へ200km行った太平洋上に浮かぶ伊豆諸島の御蔵島(みくらじま)で、島の周囲には野生のイルカが生息している。5年前、水泳仲間の友人たちと東海汽船の三宅・八丈島航路に乗船して、豊かな自然が残る御蔵島に渡った。目的はイルカと一緒に泳ぐ「ドルフィンスイム」を体験すること。

 ウエットスーツを着て、マスク(水中めがね)、シュノーケル(筒状の呼吸器具)、フィン(足ひれ)を身につけ、定員10人ぐらいの小さな船から海中に飛び込む。そこには群れをつくったイルカがこちらに目を向けて注目している。イルカを見ながら水中に潜っていくと「こいつらやるじゃないか」と思うのか、人間に興味を感じるのか、手を伸ばせばタッチできるところまで近づいてくる。少年でもない、若い女性でもない、中年のおじさんであっても、イルカは分け隔てなく近づいてきてくれる。目の前のイルカに興奮、夢中でカメラのシャッターを押した。初めて体験した「ドルフィンスイム」は感動ものだった。

 相手は海に住むイルカである。海を泳ぐプロフェッショナルと交流するには、プールにはない自然環境の中で泳ぐスキルが求められる。海上を吹く風、大きな波、潮の流れ、背の立たない水深など、海にはいくつかの厳しい条件がある。自然の海と比較すれば、室内プールで泳ぐのは温室栽培みたいなものだが、泳ぎやすい環境の中でしっかりと泳ぐ力を身につければ、海でイルカと対等に泳げるようになる日も夢ではない。ステップアップすれば、ますます水泳の楽しさと感動が広がるイルカとの「水泳のススメ」である。(共同通信社デジタル推進局・中井博行)

(共同通信社)




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