バカ漫画 其之弐
「明日かがやく」
〔(財)日本原子力文化振興財団〕
平成2年3月発行
作・高山洋治 画・古城武司

(C)古城武司

 バカ漫画 特集。前回の大御所に引き続き、第二回は・・・・・ぐっとマイナーになりまして、
「明日かがやく」という、多分誰も読んだこともなさそうな漫画を持ってきました。

表紙には、野球に励む若人(←古いね)たちと、彼に想いを寄せるヒロインの姿。
これは、昔流行った「スポーツ青春ラブコメ漫画」に違いない

――――― 一瞬でもそんな幻想を抱いた方は、背景をご覧あれ ―――――


妙だと思いませんか?
 な、、、何だこの野球に不釣合い極まりない建造物は??



 この疑問は、版元を見れば一目瞭然。「財団法人・日本原子力文化振興財団」
 つまり、この作品は原発推進&宣伝漫画でございます。
タイトルの上にサブタイトル書いてありますな「健太の青春フルスイング」 ・・・・・・・・・・
・・・・これで原発推進&宣伝漫画って言われてもねえ・・・・。



最初にお断りしておきますが、このコーナーは原発推進も反対も主張するものではありません。
 私見を述べさせて頂ければ、現在の日本の電力使用状況なら、原発は必要でしょう。ただ、原発に何かあった場合に非常なリスクを伴うことも理解し、覚悟しておくべきです。そうならないように、システムが機能し、現場の方が最善の努力されていることも承知しておりますが、「絶対にない」と言い切れないから努力が必要なのであって、その努力を怠れば東海村臨界事故のようになる可能性は、「0(零)」とは言えないのです。
 逆に、原発不要と主張する者は、現在の電力消費量を維持するつもりなら、代替エネルギーを確保するか、より効率的な電力使用システムを考えなければなりません。最低でも、総電力消費消費量を抑えることは必要不可欠でしょう。それだけのリスクを冒して原発撤廃を主張するなら、それはそれでよいと思っております。いずれにせよ、この問題は国民の電気使用の態度そのものを問われている問題です。
  ただ主張するのは、この原発推進&宣伝漫画は、「バカ漫画」 だ。と、それだけです。





  さて、閑話休題。作者は古城武司さん。数多くの漫画を手がけるベテランです。
ただ、代表作が思い浮かばないな。
『流星人間ゾーン』とか『伝説巨神イデオン』とか『バトルフィーバーJ』とか『勇者ライディーン』とか、アニメ・特撮の漫画化の際に活躍する漫画家さんです。・・・・つーか、それしか活躍の場がない漫画家さん?
出身地は、、、、広島県

原爆被災地出身の人に原発推進漫画を描かせるとは・・・・・
財団法人・日本原子力文化振興財団 侮りがたし


  さて、ストーリーの方に参りましょう。はっきり言って全然おもしろくありませんが

 原子力発電所が建設つつある小さな田舎町の中学校に、東京から主人公・山田健太が転校してくる。
 彼のバッティングは監督曰く「超高校級」
(←中学生なのに)。早速、チームの主力に抜擢される。しかし、それまでチームのリーダー的存在だった佐藤は、そんな山田をこころよく思えない。
 何故なら、山田のお父さんは原発の建設技師であり、佐藤のお父さんは原発反対派のリーダーだったからである。健太と佐藤との確執は、やがてチームを原発派と原発反対派に分裂させ、一触即発の状態になる。しかし、山田の野球にうちこむひたむきな姿にチームの心は一丸となり大会で見事優勝するのだった。


・・・・・・なんつーか、反目するライバルの親が、実は「叩くべき集団のリーダー」
ってのは、ご都合主義通り越して、もはや「お約束」ですな。

  しかも、大人たちの都合や紛争が、まんま子供の世界に持ち込まれるという、まったくもって
どろどろした、嫌〜〜な気分にさせてくれます。




  不思議に思うのは、佐藤の父親にして原発反対派のリーダーである佐藤剛三さん。
  この人、学校のPTA会長でもあります。健太の父親と話する際には

「わしが英夫の父で、東西中のPTA会長をしている佐藤剛三じゃ!!」

・・・・・と、明らかに自分に権力があることを意識した自己紹介してました。
  更に作中での佐藤さんのお宅を拝見するに、かなり敷地も建物も広いです。海岸沿いなので高さはありませんが、古い形式の日本家屋で「豪邸」と言っても良いでしょう。ぱっと見、地方に君臨する大地主っぽいです。

 元々、原発の建設計画ってえのは↑こういう人↓から篭絡していくのが基本です。
@地域に強大な権力・影響力を持っている人
A地域に多額の税金を納めているお金持ち
B原発建設に必要な土地を持っている地主

  こういう人を建設賛成派にしてしまえば、しめたもの。
@を確保すれば地域住民への影響絶大。上手く行けば、反対運動も分裂させることができる。
Aを確保すれば議員などの行政に影響与えることができる。もちろん住民にも。
Bさえ確保しておけば、無理やりにでも建設が進められる。

   日本の公共工事ってのは、
 元来、こういう図式で進められてきた(=強制されてきた)んですが・・・・・




  この漫画の中で、佐藤剛三さんは、どうみても@とAに該当します(Bは作中では言及される箇所はありませんが、可能性はあります)。彼を賛成派にしてないというのは、日本における公共工事推進の手口から考えるに、手落ち以外の何者でもありません。作中で彼と対立するような@〜Bの人も出てきませんし。
  何で、こんな現実と乖離した状況になってしまったのか?


厳密に言えば、地域住民でも原発に賛成している人はたくさんいらっしゃいます。しかし、そういう方々の賛成するのは、日本における原発の必要性云々よりも(←ま、理由の一つにはなりましょうが)、原発誘致に伴う補助金、雇用、設備投資など、過疎化の進んだ地域経済をどうにかして活性化させたいという理由がメインです。つまり、「金」ですな。これも、厳しい地方の財政・過疎化を考えれば、原発誘致に賛成するのも理解できる話です。地方自治体の選択肢の一つだとは思います。ただまぁ、この作品の中には、生々しい「金」の話は一切出てきませんがね。


  おそらくは・・・・
   原発推進&宣伝漫画を描くにあたって、
  原発推進に反対する
悪者を叩く図式にした方が、宣伝的にインパクトがあるぞ。
悪者を叩く時に、読者である一般大衆が最も共感を覚えるのは、
                 悪者が
権力者金持ちなどの特権階級である場合だ。
よし、原発反対派のリーダーは、
権力もお金も持っている人物にしよう。
  打ち合わせで、こんな会話↑↑が展開されたのだと推測されます。

  権力者や特権階級を叩き、笑い飛ばすことにより大衆のカタルシスを得るという手法。
それを得意としたのがC・チャップリンであることからも分かるように、
元々こういうのは原発反対派=革新の側がする手法でございます。
  その手法を、原発推進派という、明らかに権力者サイドが用いるという矛盾
はっきり言って、すっげー不自然 です。



  原発反対派の方が権力者お金持ちという、
現実の日本では、かなり特異な設定
不思議原発推進&宣伝漫画でございました。

        いや、もしかしたら一種のパラレルワールドなのかもしれないぞ(笑)

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