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<見物客の子ども>
「カメ、カメ、カメ」
水槽の中を泳ぎ回るメスのアカウミガメ、「悠(ゆう)ちゃん」

一見、何の問題もなく泳いでいるように見えますが、実は両前肢にハンデを抱えているんです。
それを克服しようと11日の月曜日、ある試みが行われたのです。
「悠ちゃん」は5年前、紀伊水道で保護されました。
サメに襲われたとみられ、右の前肢は3分の1が、左は半分が食いちぎられていました。

須磨海浜水族園の園長の亀崎直樹さんは、「悠ちゃん」に自分でエサが採れるスピードで泳げるようになってほしいと考えたのです。
<須磨海浜水族園園長 亀崎直樹さん>
「この機能を、回復させてやることができればいいなと思っていますけどね」
こうして人工ヒレの装着という世界初のプロジェクトが始まりました。
亀崎さんはまず、大阪府の義肢装具メーカーにカメのヒレをつくれないか相談しました。

<義肢装具メーカー>
「誰もやったところがないところだったので。ましてや水中。材料は、さびないものは何を使ったらいいのか、とか色々考えないところがありますので」
ヒレの型に高温で温めて、柔らかくしたプラスチックをまいていきます。
<義肢装具メーカー>
「途中でひっついてしまうと、もうそこで終わりなんですね。もうこれ一瞬の作業なんですよ」
動きやすいように固まったプラスチックを2つに切り分け、マジックテープで固定していきました。
努力の末、完成した1作目。
そして、初挑戦の時がやってきました。
しかし・・・
放してまもなく、左肢の装着部分が外れてしまいました。
再度付け直しますが・・・
わずか2分でまた外れました。

結局、1作目は素材が重くて堅かったため失敗。
重さや堅さに改良を加えた次世代型も、前足をゴムで閉めた状態が血流を悪くしてしまい、失敗。
プロジェクト開始から1年後。
甲羅にジャケットを着せるスタイルに変更しましたが・・・

<亀崎直樹さん>
「バタバタすると、すぽんと抜けてしまうんですね。そこをどうクリアするか(が問題)」
目標のスピードを達成することはできず、試行錯誤の日々が続きました。
そして11日の月曜日、
「悠ちゃん」は、27作目の人工ヒレ装着に挑戦することになったのです。
<義肢装具メーカー>
「前回はこの白い部分だけだったんですけども、それが黄色い、人が使っているフィンを先につけた、そういうのをつけることによって、本来のウミガメのヒレのしなりというモノを再現できるのではないかということで、今回作りました」

いよいよ装着です。
職員らの手によって、ジャケットを身にまとっていく「悠ちゃん」。
<義肢装具メーカー>
「あっ、良い感じ」
見物客が見守るなか、着水のときを迎えます。

職員らの手を借りて、水槽に入っていきました。
新しいヒレを試すように、ゆっくりと泳ぎまわる「悠ちゃん」。
慣れないためか、少しぎこちなさも残ります。
<見物客の女性>
「頑張って泳いでいるのが、健気でかわいいと思います。頑張れって感じですね」
今回の成果を、関係者はどうみているのでしょうか。
<義肢装具メーカー>
「すごく良いですよね。今までで一番良いですよね。今まで、あんなんつけてすぐダッシュで泳いだりしなかったので、上出来かなと」
<亀崎直樹さん>
「明るい兆しのある結果ですね。彼女にとって、少しでも幸せな生活が送れたらなと思います」
人工ヒレを取り付ける世界初の試み。
泳ぐスピードは、まだまだ十分とはいえません。
しかし再び海で泳げる日を夢見て、地道な取り組みは続いていきます。
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