Ring
〜TCELESNOTTUBB〜
「キャプテンの一部隊が神殿の方へ!」
「フィン王とヒルダ王女は脱出されたぞ!」
情報が錯綜する。
スコット・ディウル・カシュオーンは、血まみれの剣を見た。前日の夜更けに戦闘が開始され、今はもう朝日が昇る時間のはずだ。
しかし、朝はフィン城にやってこない。昇るはずの朝日は、空をぎっしりと覆うパラメキアの魔物の大群によって、隠されてしまっているのだ。
それは夜と共にやってきた。当然だ。彼らは夜の生き物なのだから。反乱軍の砦フィン城がパラメキアの討伐軍によって攻め落とされるまで、わずかに一夜しかかからなかった。北方から進軍してきたのだが、途中にあった村や町からは連絡は何も入らなかった。おそらく、侵略軍によって支配化におかれてしまったのだろう。
スコットの剣は血と汗と油にまみれ、もはや武器の用をなさなくなっている。彼自身、傷から流れる血と汗とにまみれ、出血のあまり意識が朦朧としている。
反乱軍で軍の指揮をとっていた彼が夜襲の知らせにたたき起こされてみれば、それはただの夜襲などではなく、敵の総攻撃だった。ボーゲン伯爵が裏切り、反乱軍の戦力の一部が帝国軍に内応したことにより、現在の力ではとてもこの城を持ちこたえることは出来ないと知って、スコットはフィン王他重鎮をかねてよりの手はずどおりに湖を渡って南へ避難させろと命じた。それが夜明けのおそらく一刻ほど前。彼自身は少しでも多くの兵士が逃げ延びられるようにと、最後までこの市街地で戦うことを決意していた。
恐らく、彼自身は生きてはこの町を出られないだろう。
「こんなことなら、ゴードンの予兆に従っておくのだったな…。」
ふと、自身の弟の言葉を思い出した。
カシュオーン王国には二人の王子がいた。兄のスコットは武勇に優れ、弟のゴードンはそれに比して学問が得意で政治や法律に詳しく、魔法も得意だった。ゴードンとて槍を使えばなかなかの腕前なのだが、彼が亡き母親から受け継いだ詩人の魂のおかげで、控えめで大人しい人柄だった。
彼らが子供のころ、カシュオーン王国は南に隣接するパラメキア帝国に攻め入って勝利した。戦場で皇帝自身が戦死し、パラメキアはカシュオーンに屈服せざるをえなかった。
跡を継いだまだ幼いその息子に、彼らの父は多額の賠償金を要求した。ただでさえ辺境の貧しいパラメキアに多額の賠償金を払えるはずもなく、代わりに亡き皇帝の皇妃を人質によこせというカシュオーンの要求に首を縦に振らざるをえなかった。幼い息子は母と別れることを嫌がったが、母親は彼をやさしく言いくるめて、カシュオーンへと赴くことを承知した。
スコットやゴードンは母に連れられて皇妃を幾度か訪問した。銀髪の美しい皇妃は喪の黒衣を身にまとい、囚人でこそなかったものの、気丈に状況に耐えていたのが印象に残っている。
パラメキアは何年にもわたって賠償金を払いつづけた。ようやく支払いが終わった後、皇妃はパラメキアへと帰っていったが、すぐに人質時代の心労がたたって病の床に臥し、間もなく病死したと伝え聞く。
そして、半年前、パラメキアは突然デイストに侵攻。辺境国家同士の争いだと周辺国家はたかをくくっていたが、デイストの有名な竜騎士団の飛竜を飲み水に毒を入れるという方法で全滅させ、デイストを事実上滅ぼしたことで、すべての国家が震撼した。
パラメキアの次の目標はカシュオーンだった。
カシュオーンにパラメキアが侵攻するその2・3日前のこと。
「兄上、私は嫌な予感がする。」
ゴードンが深刻な表情でスコットにこう打ち明けた。
「どうしたんだ。ゴードン。…予兆か?」
「ああ、南から空が赤く染まってくる夢を見た。」
「南から?カシュオーンの南にあるのはパラメキアだけだぞ。」
「それなんだ。つい先日、デイストが滅ぼされたばかりだし、もしかしたら。」
ゴードンには未来を見る力があった。はっきりと未来を読むわけではなく、なんとなく、この先どうなるかを夢によって読み取ることがあるのだ。これは、子供のころは兄のスコットとの間の二人だけの秘密だった。未来を読む力など、魔法を好かない父王がいい顔をしないのを知っていたから。
スコットは笑ってすませることができなかった。弟の力を知ってはいても、二ヶ月前ならば思い過ごしだとゴードンを諭しただろう。しかし、デイスト陥落の報が入ったばかり。
「父上に進言しておくか。パラメキアがこの国を狙っているかもしれぬと。」
「………父上は、私の予兆の才を快くは思われないだろう。」
「なに、私からと言っておけばいい。確かに父上は魔法も予言も好まれぬ。が、おまえの予兆の確かさは私がよく知っているよ。」
しかし、父王はスコットの進言を一笑にふし、スコットもそれ以上父に強く言うことはしなかった。そして、通常の哨戒しか行っていなかった時に、パラメキアの攻撃を受けたのだ。
魔物の群れを自由に使役する皇帝マティウスは、カシュオーンの兵力の半分をあっさり壊滅させると、カシュオーン王を城門の前に引きずり出し、三日三晩に渡る拷問の末、その首を刎ねてしかばねと共に城門にさらした。
「わが父母の恨み思い知ったか。」
というのがマティウスが最後に父王にかけた言葉だと言う。
逃げ延びたスコットとゴードンは残兵を率いてフィンに向かい、対パラメキア反乱軍の旗揚げに合流した。が、そのころからゴードンは自らの予兆がありながらも父を救えなかったという自責の念にかられて、酒浸りの日々を送るようになった。
スコットは弟を案じつつも、かつてカシュオーンが健在であったときに、親同士が決めた婚約者でもあるヒルダと共に、反乱軍の中核として忙しく活動するうちに、いつしか、そのことが頭から消え去り…。
血煙たちこめるフィン。重傷のスコットは兵達に脱出の指示をしながら、自らも脱出するべく石畳の道を歩く。
「そういえば、一週間前にゴードンを見かけた時にも、なんだか暗い顔をしていたっけな。」
スコットは苦笑いした。
「こんなことならあの時呼び止めて、きちんと話を聞いておくのだった。」
弟の忠告を聞いて、必要な対応策をとってさえおけば、せめてこんなことにはならずに済んだかもしれないが、今となってはもう遅い。
スコットは指にはめた銀の指輪を見た。16の誕生日にゴードンがくれたものだ。サイトロの魔法がしこんであって、呪文を唱えると手のひらの上に近辺の地図が浮かび上がる仕掛けになっている。
「TCELESNOTTUBB....」
こわばった口でどうにか呪文を唱えると、フィン城を中心とした一帯の地図がぼおっと手の上に浮かんだ。
これを見せた時、ヒルダとした会話を思い出す。
「ゴードンがあなたにそれを?」
「ああ、私の成人の祝いにね。やつは俺と違って魔法が得意だから。」
「いいわね。兄弟って。私には兄弟がいないから…。」
「じきに三人兄妹になるさ。」
彼と、二歳下のヒルダと、三才下の弟と。まるで三人兄妹のように育った。特にヒルダと弟は仲がよく、しばしば長期に互いの城に滞在したりしたものだ。
父が彼とヒルダを何を思って婚約させたのかは今となっては不明だ。フィン王の一人娘のヒルダと結婚させることで、彼を婿に出すつもりだったのか。それとも二つの王国を、少々距離が離れすぎてはいるが合併させるつもりだったのか。
妹のように思っていたヒルダと婚姻しろと言われたときはさすがに少々とまどったが、国のために結婚すること自体は自分にとって当たり前だと思っていたので、素直に承知した。
が、国を失って反乱軍に合流してみれば、待っていたのは、フィン貴族達の「亡国の王子」に対する冷たい視線だった。特に、彼らの婚約前に、ヒルダの婿の座を狙って激しく争っていた連中にしてみれば、国を回復できなければ、カシュオーンの王子など、ただの邪魔者だったに違いない。
自分はいくらそう見られてもかまわなかったが、弟が役立たず呼ばわりされること、ヒルダが彼らをかばおうとして、国の貴族達との間にいらぬ軋轢を作ることだけは避けたかった。
だから、一度はヒルダに婚約解消を申し出たのだが、彼女は一瞬ためらった後、首を横に振った。スコットはまた時間をおいて話し合おうと、そのままにしてあるのだが…。
「スコット様!お急ぎを!敵が東門に迫ってきました!!」
部下がやはり傷だらけになりながら彼の元に走ってきた。もはや味方はいくらも残っていない。ここはアルテアへ撤退して、時をかせぎ、戦力を蓄えるべきだろう。
「今行く!」
振り向いて返事をしたスコットだったが、次の瞬間、その部下が突如現れたデスライダーの槍で、背中を突かれるのを目の当たりにしてしまった。
一瞬で絶命した兵士は、まるでものか何かのように地面にどさっと倒れる。血まみれの槍をゆっくりと引き抜いたデスライダーは、次なる目標をスコットに定め、ゆっくりと槍を構えた。
「こ、この!!」
スコットはあわててウィングソードをかまえた。しかし、自分でもわかっている。この剣ではこの相手に対し、たいして効き目を期待できないことを。
その後ろにも、不死の怪物の軍団や、キャプテンやサージェントなどが迫ってくる。それだけではない。町中がパラメキアの兵士やモンスターに占領されつつある。
「これでは…。」
万に一つの勝ち目も無い。
優れた戦士であるがゆえに、スコットはかえって自分の行く末を見切ってしまった。
出来ることはいくつも残っていない。後は自分のこの場での最善をつくすだけ。
銀の指輪が剣を握り締める指と柄の間に挟まって、痛かった。
「ゴードン…。ヒルダ…。」
死にたくはない。その真価を伸ばしてやれなかった弟のためにも、いたらない自分を慕ってくれた婚約者のためにも、今ここで死にたくはない!!
「うぉーーっっ!!!!」
「もし!あんた!しっかり!」
「ほっとけよ、マスター。反乱軍の戦士だろ?帝国の奴らに見つかったら何をされるか…。」
「んなこと言って、まだ息があるもんをほっとけるかよっ!俺の店まで運ぶのを手伝っとくれ。」
To Be Continued to Long Novel "The Promised Land"
なんだか、リングの呪文を出したくて書いたような(笑)
あまり未成年向けで無いので、飛ばした要素がいっこあるのですが、
行間から読みとっていただければ幸いかと。
これ書かないと、後は死ぬとこだけ(^^;;の、スコット王子。
うちのスコットはちょいとブラコンぎみの上、ヒルダのことはどうでもいいらしい(笑)
えらく書いていて難しい小説でした。
やっぱりこんな偏ったスコットのせいでしょうか(^^;;
なんせ、スコットってゲームじゃ出てきて死ぬだけだし…(言いたいほうだい)
すいません。ゴードンってゲーム中パラメータはともかく、決して魔法が得意ってわけじゃないんですが、まあ話の都合ということで(^^;;;
あと、サイトロって、FF2にはない魔法なんだよね。確か3だけ。
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