「霞外籠逗留記」(レイルソフト)の感想です。
オフィ通して8月上旬にはプレイし終わってたんですが、感想を書いていなかったので、ちょいちょい思い出しつつ書いてみます。
すべて読み終わると、全てが美しくまとまっていて、過不足はなく、きちんと「終わって」いて、だからこそそれが少し寂しくなる、そんな完成されたお話だと思いました。
文章はとても特徴的で、ライターの希(まれに)さんがお好きらしい泉鏡花風の文章です。
私はこれをプレイする前に事前予習だし、良い機会だーと思って泉鏡花を読んでみました(一冊だけですが)。
慥かにこの「霞外籠逗留記」は泉鏡花風ではありますが、当たり前ですが完全に泉鏡花ではなく、泉鏡花のパロディというか、泉鏡花を読みやすく、またライターさん自身が書きやすいように書いていって、完全に自分のものにしている文体だと思いました。単なる借り物の文体ではないです。
だから、古めかしい文章だけれど、決して読みにくくはなく、むしろ慣れてくるととても心地よく、文章だけで酔える感じです。
かなり日本酒の飲みたくなる文章です。
つまみは塩でも良い。
絵はライアー(いや、厳密に言うとライアーじゃないけど)にしてはまだエロゲっぽい……のかな……。いやでも、うぅん、どうなんでしょうね。まぁ、テンプレな萌え絵ではない事だけは慥かかな、結構特徴的な絵です。
私は好き。
特に表情が良いです。
男と女の生々しさを感じさせもします。
あと、背景が良いですね。すごいちからが入ってる。
あの旅籠の絵はすごい。
ああいうものを見せられるっていうのが、小説ではなく絵のあるエロゲの力だと思うんです。だからすごかった。良かった。
旅籠の全景だけではなくて、各所の背景も良かったです。
ライアーは結構背景がすばらしいと思う昨今。
音楽はいつものごとくすばらしいです。
ピアノを使った曲が特に好き。結構いろんな曲でピアノが特徴的に使われてます。
ピアノだけで始まる曲には緊張感も感じられて、良いです。
エンディングの曲は普通に始まったと思いきや、途中からジャズに!(笑)。
エンディング見ながらびっくりしました。
でも、それはそれであり、と思った。ジャズはジャズでも結構レトロなジャズだったので(ファンクやフュージョンじゃないという意味で)。
OPの「カスミカゲロウ」は予想外にアップテンポなところが好きです。わかりやすい「和」ではなくて、もっといろんなものを含んでいるのを感じされる曲。
そして、Ritaさんは作詞が本当にすばらしいと思うのです。
ライアーボーカルアルバム「salute!」にエンディングのアレンジバージョンのボーカル曲があるのですが、あの歌詞がシンクロしすぎで笑えます。Ritaさん結末知らないらしいのに!
あぁ、そのうち「salute!」に関しても感想を書きたい……。
声は主人公以外フルボイス!!
ライアーにしては凄い。
これはなんだろう、キャラが少ないからか、地の文が多くて台詞がそんなに多くないからか、希さんがかなり早くテキストを書き上げていたから収録にシナリオが間に合わないと言うことがなかったからか、それともその全部か。……全部かな(笑)。
えぇと、それはともかく、全員キャラと合っていて良かったと思います。
琵琶法師役の愛原瑞生さんはちょっと野月まひるさんと似てるなとおもいました。
個人的には、お手伝いさんsの草柳順子さんがナイスキャスティングだと思いました。「めぴょれぽれぇっ!」(笑)。
システムはとても快適。
読むのに特化したシステムはとてもよかったです。
本読んでる気分で読めました。
司書ルート
ひとりの人外の女を愛して、主人公も同じ物になる物語。
一番好きなルートです。
この旅籠の真相からは一番遠いところにあるお話です。
だから、余計に司書と主人公、ふたりのお話に浸れます。
個人的に中編を何編か読んでいき、最後に辿り着くという構成が好きなので、良かったです。
あとそのお話ひとつひとつが、茶目っ気があったりして、小気味よく、とても好きです。
ふしぎのお話でした。変なものにとりつかれたり、夢の中をさまよったり、必ず助けてくれる司書はとてもヒーローな感じで、初対面からお姫様だっこされた主人公はとてもヒロインな感じです(笑)。
図書室の鬼女が本当に「鬼女」だったことに驚いたんですが、それがとても良い。
愛した女に食べられても良いのか。
このルートで主人公はカニバるんですが(そう「うん。 僕でも食べられる味だ。っていうより、美味しいよ。これ」@グリリバボイス って感じです)、そうなる過程の描写が凄く好きです。
あの「餓え」る描写がとても読ませるもので、だから食べてしまうことが納得できるんです。それがすごく好き。あそこら辺の描写全部がすごい。地の文だけで読ませる。あれはテキストを読むことに特化したこのゲームだからこそのシーンだと思うのです。
そして終わりも、とても官能的でいいと思います。
好きなんです。ああいうのが。すごい好きなんです。ただただ、好きなんです。
互いの唯一になるじゃないですか。
自身もまっとうなものではなくなって、互いの唯一のものになる。
とてもエロティックな終わり方。
んで、エピローグで「この図書室に本が増えたり減ったりする理由」を語ってるんですが、あれがまた良い。
私の部屋の本も沢山、あの図書室に行っているんだろうなぁ、と思います。
そんなエピローグが好きで。
慥かに本を好きな人なら、絶対に覚えのある事で。それをエピローグに持ってきてくれれるのが、なんともいえません。心に沁みる。
もーなんか、司書ルートは私の好みでできあがっています。
幾つかのお話でできていること。それらが心地よい話であること。互いが互いの唯一になること。男女の情欲が感じられること。理屈ではないものがあること。
だから、このルートが一番好きです。大好きです。本当に好きなんです。
希にさん、良いお話をありがとうございました。
琵琶法師ルート
ひとりの人外の女を愛して、その女を人にする物語。
お話としてはとてもスタンダードだなと思いました。
なのであまり感想を言い難い。
危険なところに颯爽と来てくれた令嬢は格好良くて、司書×琵琶法師に萌えたりしました。えろえろ。えろえろ。
読んでいるうちはそうは思わなかったのですが、結構まっとうに昔話にありそうな感じのお話でした。
感想は書きにくいんですが、しあわせそうで好きなお話。
令嬢ルート
ひとりの女を愛して、共に人外のものと相対する物語。
「――本当に仕舞っちゃいますよ?」
がとても良い令嬢ルート。
令嬢の痛々しさとかがとてもいい感じで……。
なんですが。
読んでる内はそうは思わなかったのに、今思い返してみれば、あの令嬢が主人公を閉じこめるじゃないですか。
主人公を守るために閉じこめて、面倒を見て、えろい事して、で、主人公は何がなんだかわからなくてすれ違って、逃げ出して。
……って、これよくBL小説とか漫画とかにあるよなぁ!(笑)。
ちなみに主人公が受けで、令嬢が攻めですね、この場合。
いや、本当に申し訳ない。
申し訳ないんだけど、BLで結構あるパターンだ……と思ってしまったのでした。本当にすみません。
いやでもあそこら辺えろくて好きです。
令嬢はえろいよな、と思います。
あのぎりぎりの風情が。ひとりで立っているところが。
渡し守ルート
さて、グランドエンド?
ここで全部の種明かし。
まぁ、大体3ルートやっているとわかってくるのですが、それを改めてお披露目。
んで、全部わかってしまうと少し寂しい気持ちになります。
司書や法師や令嬢はつくられたものだったとわかり、少し哀しくなります。
あと、これはすごく個人的な感想になってしまうのですが、自分がリアル姉で、リアル弟がいて、年齢とかがちょいとマッチしてしまう辺りが、なんか微妙な気分になりました。
あー、いえ、弟に対してそんな気持ちは一切無いというか、勘弁してくれと言うか、弟も「ないわー。それはないわー」と言うと思います。
弟とはしょっちゅうふたりで茶を飲みながら一時間くらい話したりとか、今度一緒にカラオケに行こうとかいうくらいには仲が良いのですが、そういうのはありません。
ありませんが、みずはという女性がすごいリアリティがあって、いるかもなと思わせるから、余計になんだか妙な気分になったりしました。
これが例えばタカヒロさんの作品(例「君が主で執事が俺で」)に出てくる姉弟関係なら全然そんな気持ちにはなりません。だってあれはファンタジーだから。
でも、この姉弟は少しばかりリアリティがあって、だから現実の自分とシンクロさせて僅かにいやんな気分になってしまいました。
これは、この作品が悪いわけではなくて、自分の問題で、むしろこちらに訴えかけてくる作品だからこそ、いやんな気分になったわけで、この「霞外籠逗留記」はすごいなと思うのです。
多分自分がリアル姉でなければ、もっと楽しめたのにな、と思います。こればっかりは仕方がない。
お手伝いさんのお話(ファンクラブ特典)
箱庭的世界の「霞外籠逗留記」。
でも、この話を読むと、それだけではないのかなとも思えてきます。
外の世界があるように感じさせる部分が所々にあって、あれ?と思いました。
だから、やっぱり、司書は司書で、法師は法師で、令嬢は令嬢で、みずははみずはで、それぞれいて、それぞれのお話だったのかもしれないな、とか考えてみたり。妄想してみたり。そうだといいなと思ったり。
総評。
大好きです。
でもこれ、感想書くのが難しい。
自分の言葉だと良さを伝えられない。
とりあえず、体験版をやって自分に合うと思ったら絶対にやるべき作品。そんでもって、合わないなと思ったらやめておいた方が良い。
お話自体はそれほど奇をてらったものではないです。
でも、お話というものは書き方ひとつ、語り方ひとつで変わってきます。
そして、この「霞外籠逗留記」は読む人を酩酊させるような文体で、物語を語ってゆきます。この旅籠の情景を教えてくれます。
それがただ気持ちよくて、良い酒を飲む時――香りを、次に口に含んだ味を、舌で転がした時の味の移り変わりを、飲み込んだ時の感触を、その後舌に残る味を愉しむように、絵や音楽や文章をそのまま受け取ってじっくりと浸る作品だと思いました。
本当に大好きです。
司書ルートがなによりも心に残りました。
良い作品をありがとうございました。
2008年11月03日
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