東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

節電目標見送り 新「電力社会」を描こう

 政府が今夏の節電について数値目標の設定を見送った。火力発電の増強に加え、家庭や企業などでの節電定着が理由という。原発に頼らない社会をどう築くべきかをあらためて考える糸口にもなる。

 政府は東京電力福島第一原発の事故を機に、原発を保有しない沖縄電力を除く九電力に需給対策を求めてきた。今回が五回目だが、節電の数値目標見送りは初めてで、消費者への自主的な節電要請にとどめた。

 現在、全国五十基の原発は、関西電力大飯原発の二基を除いてすべて止まっている。七〜九月の原発依存率はわずか3・8%。見えてくるのは昨年と同様、限りなく「原発ゼロ」に等しい光景だ。

 これまでの最大電力供給は二〇〇一年七月に記録した一億八千三百万キロワットで、今夏は一億六千六百万キロワットにとどまるという。原発十七基分にも相当する千七百万キロワット下回っても、政府は九電力すべてが安定供給に最低限必要な3%以上の予備率を確保できると見込んだ。

 エアコン温度の高めの設定などで無理なく消費を抑える。原発事故の恐怖を知った国民の省エネが電力会社の負担を和らげている。

 現在、原発がほぼ止まったことで、火力発電への依存率は九割に急上昇した。火力発電の事故などによる電力不足に備えた九社間の円滑な相互融通など、万全の供給対策を求めたい。火力増強で年三兆円以上も増えた天然ガスなどの燃料費を圧縮し、料金値上げを回避する経営努力も欠かせない。

 しかし、目標見送りの論点を、電力は足りるか、不足するかの狭い領域に閉じ込めてはならない。原発がゼロ同然であっても立ち往生しない今の日本を直視し、将来の電力供給について熟考を重ねる好機と受けとめるべきだ。

 安倍政権は民主党の「二〇三〇年代に原発ゼロ」を白紙に戻し、再稼働を前提としたエネルギー基本計画の策定に入った。それも年末が目標だという。安定政権の実現に不可欠な七月の参院選勝利を視野に入れ、争点化させないよう先延ばししたのだろうか。

 福島県では十六万もの人たちが故郷を追われている。さらに第一原発では高線量の放射性物質を含む汚染水が漏れ続けており、今なお放射能を閉じ込められないでいるのが実態だ。

 脱原発を宣言したドイツは風力など自然エネルギーによる電源の割合を22%に膨らませている。安倍政権も原発に傾斜せず、安全なエネルギーに目を向けるべきだ。

 

この記事を印刷する

PR情報





おすすめサイト

ads by adingo