IS 欲望の果てに (傍観神)
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 取り敢えず八巻読んだけど七巻以上に酷いと感じるのは自分だけだろうか。







第二話






『―――では次の質問だ。貴様はあそこで何をしていた?』

『黙秘権実行』

『・・・質問を変えよう。現場近くではISも確認され、修復不能まで破壊されていた。心当たりは?』

『黙秘権実行』

『いい加減にしろッ!! 貴様にそんな権限があるとでも思っているのかッ!!』

『短気だねェ。小物の欲望にしかならんな』


 ガタガタガタン。そんな音と共に喧嘩が始まるが、手を出そうとした軍官を部屋にいる他の軍官、兵士が止めようとする阿鼻叫喚の場になっていた。それでも軍官が殴りかかろうとした青年は笑みを崩さない。寧ろ、この状況を生み出した事に満足している様子であった。
 そんな様子を見つめる人間、女性が一人。厳しい視線、何かを探るかのような目で部屋の真ん中に尋問されている椅子に座る笑っている青年を睨む。


「・・・あの男がそうなのか?」

「ええ。ミス織斑の弟である織斑一夏を救助し、ISを破壊した疑いがあります」

「信じられん。精密検査では男性、ISの適正すらも無かったはずなのに。生身でISを破壊し尽くしたのか?」


 怒鳴る軍官の声を聞きながら女性、織斑千冬は横で尋問をしている様子を一緒に見ている他の軍の高官と言葉を交わす。高官から手渡された資料を織斑千冬はパラパラと捲る。そこに記された情報は現在の世界状況から考えられない、信じられない情報が幾つかあった。
 壊された、正確には蹂躙し尽くされたISの写真。自分の弟である織斑一夏が監禁されていた廃墟となっていた工場の中で見つかった無残な姿の元人間、死体の数々が写った写真。二種類の写真に共通点があり、どちらも次元の違う壊され方、殺され方をしている事だ。死体の中には絶望をそのまま全て表情に出した者までいるのを見れば、まるで化け物に殺されたのではないかと思うだろう。


(・・・一夏、お前はあそこで何を見たんだ)

『千冬姉! あの人は俺を助けてくれたんだ! 絶対悪者じゃない!』


 心身共に衰弱した織斑一夏は姉である織斑千冬にそう叫んだ。自分を助けてくれた青年が捕まった事を知ると、貧血を起こすまで興奮して姉に青年の無実を訴えた。理由が無ければ助けられないかもしれないから事情を話せと言うと、織斑一夏は口を噤んで頑なに起きた事を話そうとはしなかった。そこが何よりも気になっているのだ。織斑一夏は抜けているようで、人の本質を見抜けると思っている姉だからこそ、あそこまで信頼を感じる訴え方に疑問を抱いたのだ。
 視線を尋問が行われている部屋に戻す。まだ暴れている軍官を他の兵士が止め、青年はクックッと笑いながら手で銀色のコインで弄んでおり、その態度が尋問をしている軍官を逆撫でする。そんな軍官を嘲笑うかのように青年は手のコインを指で上に弾く。卓越した動体視力を持つ織斑千冬はクルクルと舞うコインを見る事ができた。


(? ゲームセンターのメダルか?)

『早く解放してくれませんかねェ? 状況証拠だけでは私を追い詰める事は不可能ですよ。それよりもあの少年と会いたいんですがね?』

「! 一夏と?」

「・・・ミス織斑。ここは弟さんと会わせた方が」

「駄目だ! 得体の知れない相手と一夏を会わせるわけにはいかない!」


 織斑千冬は叫ぶ。尋問されている笑みを崩さない青年に危機感を抱いているから。例え、織斑一夏が青年と会いたがっていても絶対に織斑千冬は会わせようとは思っていなかった。


『あの少年、織斑一夏だったか? いい欲望を持っている。私は彼を気に入ったよ』


 青年の楽しそうな笑顔が更に深まり、その笑顔に誰もが気味悪さを感じる。まるでお面のように能面笑顔のような表情そのものであったから。つまり、典型的な作り笑いである。感情が読み取れない、何の感情も感じられないのだ。







 ◆







「・・・演技も疲れる。狂わないためとはいえ、どうにかなんねーのかこの失敗作は」

「何か言ったか?」

「いえいえ。気のせいでございましょうよミス織斑」

「気味の悪い奴だ。言っとくが変な事をすれば―――殺す」

「ひひひっ、怖い怖い」


 マジこの女怖い。そんな言葉は胸の内に仕舞っておこう。隠していないと自分のキャラを更に勘違いさせて争い事を増やしてしまいそうだ。
 この織斑千冬。記憶にはっきりと残っている。昔のライトノベルか何かの主人公に近い女性だった気がする。残念ながらそんな知識以上に濃い体験をしたせいで事細かくは覚えていない。

 一人称を“私”に無理矢理変え、普段の対応で感情を露にするようにしている。苛立たせて欲望に連なる感情を暴走させる行為を覚えた。曝け出した欲望を食事とする―――と何度も繰り返した。今の肉体では、それが唯一の食の欲望を満たす手段なのだ。
 後部座席で寝転がり、見慣れたそれを指で触って遊ぶ。指と指の間を行き交いさせる銀色のコイン、メダル。×印が刻まれた銀色のそれに、顔を緩める。運転している織斑千冬に見られないようにそれを胸に押し付ける。


(―――おえっ。クソ不味い。小物特有の欲望の味か)


 体に吸い込まれたコイン、メダルはこんな肉体になる前に見ていたとある特撮ヒーローに出るアイテム。名を“セルメダル”、人間の欲望を糧にしているメダルで仮想作品であるアイテムを自分の身に宿しているのだ。
 真実かわからないが、元凶は鴻上会長だと思っている。次作の特撮ヒーローとコラボした映画の事を知っている自分としてはその仮説が当たっていると確信している。その作品のキーアイテムであるコアメダルを未来で創り出している事をその映画で描写されているのだ。
 未来に渡ったコアメダルが過去に渡った事を考えると、もしかしたら時間だけではなく“世界”すらも越えられるのでは無いかと考えている。そのコアメダルが何の因果があったのか、完全無欠一般人である自分に吸い込まれて化け物《グリード》化してしまったわけだ。こんなんなら普通に特典付き転生がしたかった・・・。


「この車は貴様のではないだろう。普通に座っていられないのか」

「すみませんねェ。私は欲望に忠実に生きているので。寝たい、休みたいという欲望に従っているだけですよ」

「・・・チッ、気に食わん奴だ」


 マジすんませんすんません。もうこの癖は直せないんです。できれば自分に対して嫌悪感とか憎悪を抱いて大きな欲望を育ててください。ついでに特上の餌を作ってください。どうせ時間が過ぎれば自分、いなくなるんで。
 本来のコアメダルという物は太古の錬金術師が人工生命体を作るために地球に生息する生物の力を凝縮した物なのだ。しかし、自分が宿すコアメダルはその常識には当て嵌らない。生物ではなく、人間のみの醜い欲望と善の欲望に分類される夢と希望を凝縮した新型コアメダルなのだ。なのでグリードのように怪物の姿にはならず、人間のままでいられる。


「―――オイ」

「何でしょう」

「まあ、何だ。一夏を助けてくれた事だけは感謝している」

「いーえ。私は散歩しているついでに助けましたので。感謝してもらっても受け取れませんよ」

「・・・変わっているな貴様」

「よく言われます」


 バチコーンとウィンクをすれば自分でも気持ち悪いのでしない。時折、織斑千冬と少ない言葉で会話をしながら生み出したセルメダルを指で弾いて遊ぶ。
 コアメダルは鳥系、猫系、重量系、水棲系、恐竜系、爬虫類系とあるが、自分という器を漂う新型コアメダルは無属性、属性を持たない純粋な欲望のエネルギーだけを抱えるコアメダルの正しい在り方、鴻上会長の新たなコアメダルの開発の真の完成を達成した代物であるのだが。

 いい迷惑だ馬鹿野郎。と叫びたい。完全一般人の自分にこんな危険な代物を抱えさせて勝手に満足しやがってと思う。


「何故一夏を助けた」

「気紛れですね。彼の抱える欲望に未来性を感じたから。もっと言えば、未来ある子供を危険にさせたくなかったからですか」

「先程から欲望、欲望と言っているが何の事だ? それは貴様に関係する事か?」

「秘密です☆」


 だってこの車に盗聴器あるし。尋問をこの織斑千冬が代わりにやっているようにも感じる。ぶっちゃけ欲望を感じ取る力があってよかったと思う。“何かを知りたい”というのも欲望、欲求に入るので欲望の化身である自分なら感知できる。
 世界を越えられる力を内包しているので何度か違う世界を体験した経験がある。魔法を見た。魔術を見た。魔導を見た。力の使い方と欲望の食事の仕方を学んだ。もっと言えばグリードの新しい可能性になったわけである。


「―――それよりも聞いても?」

「何だ」

「ミス織斑。ちなみにですが人格を疑われるので耳は塞いだ方がいいですよ」

「・・・何の事だ」

「弟に対して異性の感情を抱いて―――」


 ブチッと乱暴にスイッチを切る織斑千冬。運転している車も急停止して後部座席から転がり落ちて一番汚いであろう場所に落ちてしまう。というか前部座席に顔面を強打した。鼻血は出ていないがズキズキと痛む。なんちゃってグリードでもベースは人間なので痛みは感じる。
 鼻を押さえながら運転をしていた織斑千冬を見れば、こちらを物凄い表情で睨んでいる。顔を真っ赤にしているのでちっとも怖くない。クールなイメージがある織斑千冬の意外な一面というか、ギャップが激しいと思う。


「急に止まらないでほしいですね」

「な、なななな何を言っているかわからんなっ!」


 心の内でわかりやすっと呟く。弟の織斑一夏もいい食事対象だったが、まさか姉の方も特上とは。近親相姦モノの禁断の愛情も極上の欲望の餌になる。今回の世界はアタリと解釈していいのだろうか。


「大丈夫。自分の弟を性的対象として見ていても楽しいので私は応援します」


 今の自分は絶対に慈愛に満ち溢れた目をしていると思う。織斑千冬が必死に弁解しているのを見るのが楽しいので暫くはそうやって遊んでおく事にした。
 自分と彼女が目的地に着くまで時間が掛かった事は割愛する。






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