三洋電機は現在も法人格を残しているが、看板にはPanasonicのロゴが入っている |
パナソニックは、2012年4月から、コンシューマ向け製品のブランドを「Panasonic」に、原則一本化する方針を打ち出している。すでに多くの製品でPanasonicにブランドが統一されているが、ニッケル水素電池「eneloop(エネループ)」のように、三洋電機(SANYO)の社名をそのまま継続的に記載し、販売されるものや、炊飯器の「おどり炊き」のように、製品名から技術名(テクノロジーネーム)に移行するものなど様々だ。
果たして、パナソニックのブランド戦略は、いまどうなっているのだろうか。
■ パナソニックのサブブランドは「VIERA」「DIGA」「LUMIX」「EVOLTA」の4つだけ
2011年4月、パナソニックは三洋電機およびパナソニック電工を完全子会社化。さらに2012年1月からは、3社を統合した新たな組織体制に再編。この4月には、コンシューマ向けブランドをPanasonicに原則一本化する方針を示している。
これに伴い、パナソニック、三洋電機、パナソニック電工のブランド戦略は大きく見直されることになった。特にこの1年間は、SANYOブランドの製品が、Panasonicブランドに変更される動きが加速。その一方で、2012年1月には、中国ハイアールに売却された三洋電機の洗濯機、冷蔵庫部門が、ハイアールアクアセールスとして新たにスタート。三洋時代に開発された、水なしで洗浄効果のある洗濯機「AQUA」を製品ブランドとして使用するといった動きもでている。
では、現在のパナソニックのブランドは、どんな体系になっているのだろうか。
同社は、「コーポレートブランドのPanasonicを頂点に、いくつかに分類することができる」と説明する。
コーポレートブランド「Panasonic」は同社唯一のブランド |
コーポレートブランドのPanasonicは、まさに同社唯一のブランド。松下電器産業からの社名変更も、グローバルでのコーポレートブランドの一本化によって、分散していたブランド効果を最大限に発揮するというのが大きな狙いであり、同時に進められた地域限定のブランドであったナショナルを、パナソニックへ統一したのも同様の狙いがあった。
このコーポレートブランドの下に存在するのが、「サブブランド」である。これも、Panasonicにとって重要な位置づけを担う。
実は、パナソニックにおいて数多く存在する製品名のなかで、「サブブランド」とされているのは、薄型テレビの「VIERA(ビエラ)」、BDレコーダーの「DIGA(ディーガ)」、デジタルカメラの「LUMIX(ルミックス)」、そして乾電池の「EVOLTA(エボルタ)」のわずか4つである。それ以外は、サブブランドという言い方はされていない。
「Panasonic」の下に位置するサブブランドは4つ。写真は薄型テレビの「VIERA」とレコーダー「DIGA」 | デジカメの「LUMIX」もサブブランド | 電池の「EVOLTA」もサブブランドとなる |
サブブランドには、いくつかの条件がある。
「パナソニックのブランドイメージを土台として、それをさらに高めることができるブランドであること、先進性を持ち、尖った技術を搭載した製品であること、そのサブブランドを聞いて、すぐにパナソニックの製品であるということがわかること、そして、グローバルに通用するブランドであること」
また、こうも定義する。
「10年以上という長期間に渡って、投資を続けられると判断ができるブランドであることも重要な要素。社内でも、時折、サブブランドに引き上げたいとする提案がある。しかし、製品のコンセプトが長年に渡って変わらずに、長期間に渡って継続的に投資をし続けることができるのか、という議論になると、そのすべての提案において、サブブランドとして認めることはできない」
このように、パナソニックは、サブブランドに対して、厳しい条件を持って定義をしているのである。
■ サブブランドと一線を画す「プロダクトネーム」「テクノロジーネーム」「カテゴリーネーム」とは?
では、サブブランド以外には、どんなものがあるのか。
製品名称である「プロダクトネーム」、技術についての名称となる「テクノロジーネーム」、製品群などを示す「カテゴリーネーム」があるという。
ここで、「ブランド」という言葉を使わずに、「ネーム」と表現するあたりにも、パナソニックがブランドとして認めているのは「Panasonic」というコーポレートブランドと、先にあげた4つのサブブランドであることを強調するものだといえよう。
これらのネームは、グローバル展開するものと、ローカルで展開するものとにそれぞれ分類することができる。
グローバルのプロダクトネームでは、LED照明の「EVERLEDS(エバーレッズ)」、電動歯ブラシの「Doltz(ドルツ)」、男性用ヒゲ剃りの「LAMDASH(ラムダッシュ)」などがある。今年から打ち出している薄型テレビの「スマートVIERA」は、VIERAというサブブランドを使っているが、これはブロダクトネーム。スマートフォンの「LUMIX Phone」も同様だ。
LED照明の「EVERLEDS」シリーズは、グローバルのプロダクトネームとなる。写真はクリアLED電球の「LDA4L/C」 | 電動歯ブラシ「DOLTZ」もグローバルのプロダクトネーム | シェーバー「LAMDASH」もプロダクトネーム。既に世界展開をしている |
一方で、ローカルでのプロダクトネームには日本でのみ展開するカーナビの「Strada(ストラーダ)」や「Gorilla(ゴリラ)」などがある。
パソコンの場合、「TOUGHBOOK(タフブック)」は、グローバルのプロダクトネームだが、「Let's note(レッツノート)」はローカルのプロダクトネームに分類される。
テクノロジーネームでは、家電製品で横断的に採用されている「ECONAVI(エコナビ)」、空気清浄機などに採用されている「nanoe(ナノイー)」、太陽電池の「HIT(ヒット)」、薄型テレビやレコーダーなどに採用されている「PEAKS(ピークス)」や「UniPhier(ユニフィエ)」などがグローバルのネームとされる。ローカルのテクノロジーネームには、薄型テレビのVIERAとデジタル機器を連動する「ビエラにリンク」、デジタルカメラの「おまかせiA」など。そして、プラズマテレビに採用されている「FULL BLACK PANEL(フル・ブラックパネル)」も、ローカルのテクノロジーネームに分類されている。
空気清浄機などに搭載されている独自のイオン「ナノイー」はテクノロジーネームとなる | HIT太陽電池もテクノロジーネーム |
一方、カテゴリーネームでは、グローバルの領域として、理美容製品群の「Panasonic Beauty(パナソニック・ビューティ)」、旧パナソニック電工が展開していた住設製品などの「Panasonic Living(パナソニック・リビング)」がある。今後の事業拡大を見込む「Panasonic Home Energy Solution(パナソニック・ホームエナジーソリューション)」もここに含まれる。国内におけるカテゴリーネームとしては、「Panasonicヘルスケア」などがある。
なお、テクノロジーとカテゴリーの領域では、いずれもサブブランドと位置づけられているものはない。
使うだけで勝手に省エネをするセンサー機能「エコナビ」は、最もサブブランドに近いテクノロジーネームだ |
これらの中で、最もサブブランドに近いテクノロジーネームが「エコナビ」だろう。
現在、パナソニックでは、エコナビを日本国内で積極的に展開しているだけでなく、海外でもエコナビを前面に押し出した訴求を行なうことで、海外白物家電市場におけるパナソニックの存在感を高めようとしている。
国内における白物家電の広告宣伝量は減少させているようだが、エコナビという横串での訴求を行なうことで、個別の製品の露出度が減った印象がないのも、エコナビというテクノロジーネームの訴求が成功していることの表れだ。
同社では、「確かに、短期的な投資の考え方ではサブブランドの扱いに近いものがある」としながらも、「10年後にも現在と同じように、エコナビという言葉を使っているかどうかは疑問。エコへの取り組みはさらに進化し、ネットワーク連携技術などが加わり、さらに進化することになるだろう。その際には、いまのエコナビを超えた新たなテクノロジーネームが登場する可能性もある」とする。
この点でも、サブブランドという位置づけに対しては、強い意思を持って切り分けをしていることがわかる。
なお、これとは別に「指定事業ブランド」というものがある。「SANYO」や「ANCHOR(アンカー)」など、特定の領域において展開しているものであり、主に業務用分野で用いており、全体のなかでは例外的な扱いとなっている。
パナソニックのブランド体系図。パナソニックの資料を基に作成 |
■ EVOLTAとeneloopの関係はどうなっているのか?
三洋の乾電池型充電池「eneloop」は、果たしてどのような位置づけになるのか |
ここで気になるのは、サブブランドと位置づけられた乾電池のEVOLTAに対して、乾電池型充電池であるeneloopはどんな位置づけになるかということだ。
EVOLTAは、1931年にスタートした同社乾電池事業の流れを背景に持つブランド。「ナショナルハイパー乾電池」、「ナショナルハイトップ」などの歴史を経て、2008年から展開してきた。それに対して、eneloopは買収した三洋電機が2005年から乾電池型充電池の製品名として展開してきたもので、海外60カ国以上での実績を持つ。
そのeneloopは、現在の体系のなかでは、グローバルに展開する「プロダクトネーム」という位置づけにあり、EVOLTAとの間には、扱いに大きな差が出ることになる。
体系としては、プロダクトネームは、サブブランドの下に位置づけられており、「この間には大きなクレバス(割れ目)がある」とする。
では、この位置づけをもとにすれば、今後、eneloopの製品名は、EVOLTAというサブブランドに吸収されてしまうのだろうか。
同社では、「いますぐに回答を出す必要がないと考えている」と慎重な姿勢をみせながらも、当面は2つの製品名を使用する考えを明らかにした。そして、3月末をめどにPanasonicに一本化するとしたコンシューマ製品のなかでも唯一、eneloopだけはSANYOの社名を記載したまま、製品投入を続けている。つまり、eneloopの本体やパッケージには、当面、Panasonicの文字は入らないことになる。
EVOLTAとeneloopは、それぞれに得意とする製品カテゴリーと販売チャネルを持っており、それぞれの特徴を生かして展開をしているからだ。
2012年3月1日に発売された、eneloopのディズニーキャラクターモデルのパッケージにも、三洋電機のロゴが記載されている | パナソニックでは、EVOLTAブランドで充電池を販売している。写真はニッケル水素電池「充電式EVOLTA」 |
では、なぜeneloopだけ、異例ともいえる措置をとるのだろうか。
考えられるのは、パナソニックグループとしての販売シェアの維持の観点だ。
日本国内における、EVOLTAとeneloopをあわせたシェアは約9割。一般的に、こうした圧倒的シェアを持つブランドを統合した場合には、そのシェアを維持することは難しい。場合によっては、90%のシェアは、3分の2程度まで落ちる可能性もあるだろう。実際のビジネスを優先するという点で、併存させるという道を選んだという見方ができよう。
だが、あくまでも個人的な仮説であるが、この考え方が将来に渡って維持されるのかどうかはわからない。
EVOLTAは、サブブランドとしての投資体制を全社規模でもっていること、新たな販売ルートを開拓する際にはEVOLTAでの提案になることなど、こうした施策の差が、EVOLTAとeneloopのバランス関係に影響を及ぼすことも想定される。
EVOLTAとeneloopの併存の条件は、シェアの維持。もし、EVOLTAブランドだけでシェアを維持できるようになれば、この併存体制は崩れることになるとも推察できる。
例えば、2018年の創業100周年のタイミングなどに、EVOLTAブランドで市場シェアを維持できると判断した場合には、ブランドの一本化ということも考えられなくはなさそうだ。
■ 「GOPAN」は継続。「おどり炊き」はテクノロジーネームに。「It's」は消滅
パナソニックは、三洋電機およびパナソニック電工の統合に伴い、プロダクトネームの再編を行なっている。
とくに三洋電機の製品名および愛称の位置づけが、この再編によって変わっている。
それを実行する上で、社内ではこんな切り分けをしている。
「再編によって、Panasonicブランドに変更した製品については、これまで以上に販売数量を拡大すること」、「コンセプトが明確ではないものは継続しない」。
この姿勢を基本として、プロダクトネームを再編したのである。
GOPANはプロダクトネームを維持したまま、パナソニックから販売された |
注目を集めた米からパンを焼く「GOPAN(ゴパン)」については、GOPANのプロダクトネームを維持したまま、Panasonicへとブランドを変更。その結果、プロダクトネーム再編前に比べて、1.3倍以上の販売台数になっている。
また、GorillaもPanasonicにブランドを変更。再編前と、ほぼ同じ水準での販売数量を維持しているという。
これらは従来の三洋電機の販売ルートだけではなく、1万8,000店舗を超える専門店や、量販店、ホームセンター、GMSといったパナソニックの販売ルートを活用することで、販売量が拡大したという点も見逃せない。
三洋電機時代に高い人気を誇っていた炊飯器の「おどり炊き」については、製品名から名前を消し、テクノロジーネームとして展開することになった。製品名は「可変圧力IH式ジャー炊飯器」となる。
ちなみに、プロダクトネームを持たないのは、冷蔵庫や洗濯機、エアコンなどパナソニックの白物家電に多い手法だ。
「おどり炊き機能を搭載したパナソニックの可変圧力IH式ジャー炊飯器は、販売ルート別のデリバティブモデル(販売店別の専用モデル)として展開しており、好調に売れている。今後、スチームIH式ジャー炊飯器と可変圧力IH式ジャー炊飯器の良いところを融合した製品へと進化していくことになるだろう」
また、サイクロン式掃除機の「Airsis(エアシス)」は、一部のテレビ通販で重点的な販売を行なっている過去からの経緯を踏まえ、今後も同販売ルート向けに供給する姿勢をみせている。その点でプロダクトネームとして残ることになるが、量販店や専門店での取り扱いは行なわれない可能性が高い。
炊飯器「おどり炊き」は、テクノロジーネームとして残った。写真は6月から販売する「SR-SX2シリーズ」 | Airsisは従来同様、テレビ通販ルートで供給される予定 |
そして、三洋電機が長年に渡って展開してきた、一人暮らしをはじめる若者向けのブランド「It's(イッツ)」シリーズは姿を消すことになる。
パナソニックでは量販店と連携した形で、同様のコンセプトの製品群を展開。さらに、都心部で暮らすDINKSなどを対象にした「NIGHT COLOR(ナイトカラー)」を製品化しており、新生活向けシリーズはNIGHT COLORに移行することになる。
三洋の新生活家電シリーズ「It's」は姿を消すことになる | 今後はパナソニックのシングル・DINKS向け家電シリーズ「NIGHT COLOR」に移行される |
■ ブランド戦略は時代によって変化する
このように三洋電機の製品は、いくつかのパターンに分けられて再編され、パナソニックグループの製品および技術は、コーポレートブランド、サブブランドを頂点とした体系のなかで、明確化したといえる。
だがパナソニックは、強い単品の創出とともに、「まるごと提案」によるソリューション型のビジネスを強化する姿勢をみせており、それにあわせてプロダクトネームやテクノロジーネーム、カテゴリーネームに含まれる製品、技術も、今後は変化することになるだろう。
同社では、「ブランド戦略は時代によって変化することになる」と位置づける。これからも新たなネームの登場や統廃合などが起こるのは明らかである。