社説
首相靖国発言 開き直りは国益損ねる(4月26日)
先の戦争でアジア諸国に多大の損害と苦痛を与えた日本の首相として、わきまえるべき一線を越えた発言だと言わざるを得ない。
安倍晋三首相は、麻生太郎副総理ら閣僚の靖国神社参拝に反発した中国や韓国に対し「わが閣僚はどんな脅かしにも屈しない」などと国会で答弁した。
歴史認識を問う抗議を「脅かし」と表現するのは穏当ではない。韓国はかつて反発していなかったという抗弁も事実と異なる。
日本のリーダーは過去を直視し、その反省の上に未来の友好を築こうとする意思を欠いてはならない。国内の保守層ばかり意識した内向きの政治では外交を誤る。
中韓とは領土をめぐる緊張を解き、北朝鮮の核・ミサイル開発に連携して対応すべき時だ。関係をこじらせる首相の対応は看過できない。
首相は「靖国の英霊に冥福を祈ることを批判されて『おかしい』と思わないのはおかしい」と述べたが、問題点はそこではない。
閣僚の参拝が批判されるのは、アジア諸国に多大な被害を与えた戦争を指導した末に日本を破滅に導いたA級戦犯が合祀(ごうし)されているからだ。
靖国神社は施設展示などで先の戦争を正当化している。閣僚参拝は、日本政府が戦争を反省していないとの疑念を内外に抱かせる。
首相は「韓国の批判は盧武鉉(ノムヒョン)政権時代に顕著になった」と、10年ほど前から態度が変わったと反論した。だが、反発は1985年の中曽根康弘首相公式参拝の時からあった。
安倍首相は中国にも「A級戦犯合祀時に抗議しなかった。なぜ急に態度が変わったのか」と疑問視した。
85年以前に首相の私的参拝を批判しなかった時期があるのは確かだが、閣僚の集団参拝から公式参拝へと対応を拡大したのは日本側だ。
中韓に国内の政治的事情が全くないとは言えないが、加害者側の日本が開き直っては問題がこじれる。首相が同盟を重視する米国も、日本とアジアの摩擦拡大を懸念している。
首相は「『侵略』の定義は国際的にも定まっていない」などとして95年の村山富市首相談話見直しも示唆した。戦後50年の節目にアジアとの安定的な友好関係を築こうとした礎を壊すことがあってはならない。
教科書検定でのアジア配慮を見直すことにも前向きだ。
タカ派的発言を控え安全運転に徹してきた安倍首相だが、高い支持率に慢心してか地金が現れた形だ。
領土問題などで中韓に対する世論の反発が高まっているが、指導者がそれをあおってはならない。首相の外交姿勢は対話の糸口を閉ざしかねず、国益を損ねる恐れがある。
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