2013年4月26日(金)

避難者への“いらだち” なぜ?

阿部
「これをご覧ください。
『被災者、帰れ』。
去年(2012年)12月、福島県のいわき市役所の玄関に書かれた落書きです。」


鈴木
「いわき市は原発事故で避難してきた人々を、全国で最も多く受け入れてきました。
ところがそうした人々が、中傷や嫌がらせにあうケースが出ているんです。
いったい何が起きているのでしょうか。」

避難者2万4,000人 受け入れ自治体の苦悩

福島県いわき市。
原発事故で避難してきた2万4,000人が暮らしています。
いわき市の渡辺敬夫市長です。
1年ほど前から、避難してきた人々に対する市民の苦情が寄せられるようになってきたと言います。

“いわき市民と避難者とのあつれきは、落書きが書かれるほど悪化している。”

“避難民に対する不満が周辺に溜まっている。”

こうした声は、メールだけで200件に上っています。

いわき市 渡辺敬夫市長
「市民の方から非常に不満の声が出ていることは事実。
(避難者と市民との)行き違いにだんだんなってきていると現状を捉えている。」



こうした不満はなぜ生まれるようになったのか。
東日本大震災でいわき市は、住宅など9万戸が被害を受けました。
自ら被災しながらも、原発周辺の自治体から避難してきた人々を受け入れ、支援してきました。

支援者
「少しでも温まっていただきたい。」

避難者
「おいしいです。
心から温まる。」

いわき市に避難している人々は、増え続けてきました。
そのほとんどは、今もふるさとに帰る見通しが立っていません。
避難生活の長期化は、いわき市民の生活に思わぬ形で影響を与えるようになりました。
仮設住宅の近くにある診療所です。
患者の4割近くを避難している人が占めるようになりました。

医師
「被災者の方に『災』と書いています。」

待ち時間は震災前より1時間半増えました。
影響は住宅にも及んでいます。
この日、不動産業者を訪れたいわき市民の女性です。
妊娠をきっかけに、子育てしやすい広い部屋に引っ越そうと、1年前から物件を探し続けています。

不動産業者
「今この時点でご紹介できる物件はなかなかない。」

いわき市では、仮設住宅に入りきれない1万を超える人々が、民間の賃貸住宅に住んでいます。
そのため、空き物件はほとんどない状態が続いています。

「子どもにかかるストレスの部分考えたら、引越ししたい気持ちある。
“まただめだった”と言われると、もうだめなのか、あきらめるしかないのかな。」

避難者を受け入れて2年あまり。
この状態がいつまで続くのか。
先行きが見えない中で、不満の声があがるようになりました。

いわき市民
「最初のうちはお互い避難民は避難民、みんなで頑張らないといけない気持ちあった。
だんだん時間がたってくると、いろんな面が見えてくるから、だからちょっとしたことで摩擦が発生する可能性ある。」

さらに、原発事故の被害に伴って賠償金が支払われていることに、複雑な感情を抱く人もいます。

いわき市民
「いわき市民は補償が(ほとんど)なくて、(原発周辺の)双葉郡は確かに原発の関係で被災して、補償の対象になった人がいっぱいいる。
感じる人はいっぱいいる、口には出さないけど。」

悪質ないやがらせ 追いつめられる避難者

今年(2013年)1月、避難してきた人に衝撃を与える事件が起きました。
仮設住宅で、車の窓ガラスを割られるなどの被害が7件相次いだのです。
警察は避難者を狙った犯行と見て捜査を進めています。
被害にあった女性です。

「ショックです。
何もしていないのに。」

女性の自宅は放射線量が高く、住むことはできません。
各地の避難先を転々として、ようやくいわき市に落ち着きました。
そこで受けた悪質ないやがらせ。
女性は自分が避難してきたことを隠すようになったといいます。

「被災者ということが分かってしまう所には行きたくない。
他の人の目が気になる。
結局、地震あって事故あって、苦しみが続く。」

避難者と市民の溝 どう埋める

阿部
「スタジオには取材にあたったいわき支局の山田記者です。
自分が避難してきたことを隠しながら暮らさなければならない。
これは深刻な事態ですね。」

山田記者
「このような事件は到底許されるべきものではありません。
避難してきた人たちの不安をぬぐい去るためにも、一刻も早い容疑者の検挙が求められています。」

鈴木
「避難してきた人と一部のいわき市民との間の溝は、どうすれば解決することができるのでしょうか。」

山田記者
「いわき市も被災し、憔悴しています。
このような中、避難者を受け入れなければならない状況が続いていることに目を向けるべきだと思います。
専門家は、国や県などが思い切ったサポートをするべきだと指摘しています。」

福島大学 丹波史紀准教授
「政府なり行政機関が、きちんと方針を示して対応していく。
たとえば介護、病院について言えば、医療スタッフを避難先の住民の多くなっている地域に追加的に投入したり、制度作り、財政措置といったこと含めて、国や県の努力が何よりも大事。」

山田記者
「今回の原発事故では、日本各地で避難者の受け入れが行われています。
国や県は、受け入れている自治体任せにするのではなく、今、何が起こっているのか、課題・状況を把握し具体的な手当てを進めていく、そういったことが求められていると思います。」

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