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 4月5日、「沖縄における在日米軍施設・区域に関する統合計画」が発表された。「沖縄の負担が軽減できる」、「時期を明記した」と安倍総理は胸を張った。

 しかし、その直後から、沖縄では疑念や抗議の声が上がった。無理もない。計画の内容が安倍総理の宣伝とはかなり異なるからだ。外交交渉の常識だが、一方的に日本側だけが得する合意などありえない。「霞ヶ関文学」を駆使して、「安倍総理が時期明示を勝ち取った」という演出をしたというのが実情だ。こういう時は、書かれた文言をよく分析しなければならない。

 今回発表された統合計画の表題に「基地返還」の文字はない。この計画は基地返還を目的としたものではなく、返還と負担軽減はその付随的結果に過ぎない。合意文には「負担」という言葉もない。「地元への米軍の影響」という中立的な言葉が使われている。米国への配慮だ。

 また、「沖縄住民の強い希望」という言葉はあるが、「希望」に答えるのではなく、単に「認識」するとしか書いていない。しかも、認識するのが誰か、主語がない。わざと不明確にされている。ここも米側への配慮だ。

 さらに、面白いことに気づく。冒頭の文章の中にある、「日米両政府は、・・・・・・コミットメントを『再』確認する」、「米国政府は、・・・・・・返還することに『引き続き』コミットしている」、「日本国政府は、・・・・・・必要とする全ての機能及び能力を・・・・・・移設する責任に留意した」という三つの文章。日本国政府が主語である三つ目の文章では、この合意で、移設の責任を全面的に日本が負うかのような表現になっているのに対して、一つ目と二つ目は、主語が両国政府ないし米国政府なので、「再」確認とか、「引き続き」という言葉を入れて、米側が新たな義務を負ったわけではないことを明確にした。

 ここで思い出すのは、オスプレイ配備の際に発表された日米合意である。日本政府は、人口密集地域を避け、転換モードでの飛行は基地内に限るというような説明をした。しかし、普天間での現状は全く逆だ。合意文書を見ると、「できる限り」「可能な限り」という言葉が並んでいる。米側の解釈は、最初から「自分たちができないと判断すれば、制限は自由にはずしてよい」というものだ。

 霞ヶ関や永田町の住人に国民の気持ちに寄り添うという発想はない。マスコミを誘導すれば国民は騙せると考えている。

 その最たるものが、今回の普天間返還「時期の明示」だ。「'22年度またはその後に返還可能」というのは、霞ヶ関流に読めば、「いつか返還するが、'22年度までは返還しない」という意味でしかない。普通に訳せば「'22年度以降返還」だが、時期明示とは言いにくいのでわかりにくく訳した。返還時期は3年ごとに更新されるとまで書いてある。

 さらに、返還は条件つきだ。一番驚いたのは、普天間基地返還の条件の中に、辺野古の埋め立てを1年以内に沖縄県が許可することが入っていたことである。先日の申請そのものに対して憤りの声が上がっている状況下で、こんなことをよく言えたものだと思うが、官僚と自民党の読みはこうだ。このまま押せば、カネ欲しさで賛成に回る層が増える。分断作戦ができれば、あとはカネと力で何とかなる。

 安倍総理が好きな「主権国家」、「憲法改正」という言葉。もし本当に主権国家でありたいと思うなら、憲法改正よりも、占領政策の延長である日米地位協定改定に取り組むべきだ。「強い」総理に沖縄の人々が期待するのはその勇気なのだが・・・・・・。

『週刊現代』2013年4月27日号より

こが・しげあき/1955年生まれ。元経産省職員。改革派官僚として活躍したのち、'11年9月に退官。著書に『日本中枢の崩壊』(講談社)、『官僚の責任』(PHP新書)など。「古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン」も好評配信中
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