加えて、本コラムで何度も書いてきたように、最初に日本がチリやシンガポールといったパシフィック4の加盟国から構想段階だったTPPへの交渉参加の打診を受けたのは、米国や豪州が参加を表明する遥か以前の福田康夫政権時代である。
以後、麻生太郎、鳩山由紀夫、菅直人、野田佳彦の歴代政権が交渉参加の決断の先送りを繰り返してきたのだから、日本のペースで交渉を進めることは極めて難しい。相当の譲歩が避けられないのは当初からわかっていた。交渉参加に出遅れるという最大の失敗を犯したのだから、ある程度の譲歩は失地回復のコストとしてやむを得ない面がある。
そもそも自由貿易交渉は、本来、全世界を対象にマルチに進めるべきものだ。ところが、肝心の世界貿易機関(WTO)ベースの交渉が暗礁に乗り上げたまま、再開のめどが立たないため、将来、マルチに繋げる前提で、TPPのような地域ブロックや、日EUのようなバイ(2国間、2地域間)の自由貿易交渉を先行させているに過ぎない。
そうした意味では、自由貿易の方向を維持して双方の輸出と輸入をあわせた貿易量さえ増やすことができれば、雇用は拡大できるはず。日米間やTPP内での個別分野の収支の悪化などは目くじらを立てる話ではないと言える。
また、長年、日本側の黒字が続いてきたという点からも、米国との関係で譲歩が避けられないのも事実だろう。
名ばかりの自由貿易を容認する条項
しかし、今回の安倍政権の譲歩には、そうした様々なポイントを斟酌しても、どうしても正当化できない問題が含まれている。それは、米側の保護主義を容認する妥協をしてしまったことだ。
中でもひどいのが、豊田会長も指摘した米国の自動車輸入関税の撤廃問題だ。そもそもTPPは、原則として関税の完全撤廃を目指すことが大方針なのに、報道によると、安倍政権は「TPP交渉における最も長い段階的な引き下げ期間によって撤廃」とか、「(先に発効した乗用車2.5%を5年、トラック25%を10年かけて撤廃するとした)米韓自由貿易協定(FTA)における取り扱いを実質的に上回るものとする」とかいった文言を合意に盛り込んでいるのだ。
これらは米保守派の代表選手であるデトロイト3の言い分そのものの保護主義的条項である。額面通り受け取れば、日本がコメの関税撤廃を拒めば、自動的に米国は自動車の関税撤廃を拒むことができるというわけだ。
こうした名ばかりの自由貿易を容認する条項が事前協議で合意されているのでは、本協議でいったい何を話し合うというのだろうか。むしろ、これ以上話し合うテーマがあるのかと、首を傾げざるを得ない状況だ。
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