各紙に共通しているのは、先月のTPP交渉参加表明の後、遅々として進まない協議に、首相があからさまな苛立ちをみせたことが響いたという論調だ。7月から正式な交渉に参加するために事前協議の早期決着を焦る日本は、足もとを見透かしたように強硬姿勢を崩さない米側に次々と譲歩のカードを繰り出したという。
産業界もあからさまな不満を表明した。特に、自工会の豊田会長は大幅な譲歩を迫られた「(日本などから米国に輸出する自動車の)関税の撤廃時期については残念」としたうえで、米側が今後の継続協議の争点にするとしている「日本市場の閉鎖性」について「米側の根拠のない誤解を解くとともに、両国の消費者にとって建設的な協議が行われることを期待したい」と、過去に例のないほど厳しいトーンのコメントを発表した。
経団連の米倉会長も「ひとつのハードルであった米国との協議が合意に至ったことを歓迎する」と一応は歓迎の姿勢を見せたものの、今回の安倍政権の譲歩ぶりに不安を抱いたのか、「新たな時代の通商ルール作りを主導できるよう、攻めの姿勢で交渉に臨まれることを期待している」と注文をつけた。
一方、こうした批判をあらかじめ予測していたのだろう。安倍首相は12日夕方の関係閣僚会議で挨拶し、「我が国の国益をしっかり守る合意であった」と自画自賛したうえで、「TPPは、日本経済やアジア太平洋地域の成長の取り込みといった経済的メリットに加え、同盟国の米国をはじめ、自由、民主主義、法の支配といった普遍的価値を共有する国々とのルール作りは、安全保障上の大きな意義がある」と、TPPが経済の枠組みにとどまらず、安全保障のうえでも重要であると主張した。
さらに、「我が国の国益を実現するための本当の勝負はこれから」と今回の事前協議はあくまでも入り口であり、今後、本番に入れば大いに挽回可能であるかのように結んだという。
ある程度の譲歩は失地回復のコスト
自由貿易を貫き平和を維持する道を求めるか、それとも目先の利益に拘って保護主義に走り国際関係の緊張を招いて戦争への前奏曲を奏でるのか。この二者択一で考えた場合、コストをかけてでもTPP交渉を進める大義は、前者の道を選ぶことにある。
しかも、日本はこのところ、尖閣諸島を巡る中国との領土問題や北朝鮮のミサイル発射、核実験といった緊張の最中にあり、米国との同盟関係抜きには、この情勢を切り抜けられないという側面もあるだろう。
そういった観点で見れば、安倍首相の主張は一理ある。
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