記者の目:深まらない死刑論議=長野宏美(外信部)
毎日新聞 2012年10月23日 00時26分
民主党政権下で今年3月、1年8カ月ぶりに死刑が執行され、8月と9月にも執行があった。それぞれの法相が「職責だ」と発言した通り、刑事訴訟法では法相の執行命令は判決確定日から6カ月以内と定めている。内閣府の調査でも国民の8割以上が死刑制度に賛成という。一方で、市民が死刑判断にも関わる裁判員制度が始まり、14件(9月現在)の死刑判決が出されたが、死刑に関する情報はほとんど公開されていない。
私は死刑が求刑された裁判の傍聴などを通じて、刑罰の在り方を脇に置いたまま、市民が「生死の選択」をすることに疑問を感じ、10年12月15日の本欄で、「今こそ罪と罰を考え直す時だ」と訴えた。だが、いまだに議論が深まっていない。死刑を廃止した多くの国では、世論の死刑支持が上回る中、政治のリーダーシップが発揮された。まずは議論のための情報公開をし、政治主導で死刑制度について国民的議論を起こすべきだ。
日本弁護士連合会の死刑廃止検討委員会は8月、死刑の代替刑として仮釈放のない終身刑の導入を求める基本方針を初めて決議した。だが、2日間の会議では社会復帰の可能性を閉ざす終身刑への反対意見が相次いだ。最終的にまとまったのは「死刑廃止の議論に入るには、強力な方針を示さないといけない」(加毛修委員長)という認識が一致したからだろう。
◇廃止や抑制は国際的流れに
国際的には死刑は廃止か抑制の傾向にある。国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」によると、世界198カ国のうち、10年以上死刑の執行がない事実上の廃止国を含めた死刑廃止国は140カ国(9月現在)。世界最多の数千人が執行されたとみられる中国では昨年、死刑適用の罪を減らし、米国もこの10年で死刑判決が半減した。私は今年6月、約15年執行がない韓国を取材したが、国際関係への配慮も「執行停止」を続ける背景にあった。
諸外国では死刑廃止後にどのような代替刑が導入されているのか。日本のNPO法人「監獄人権センター」(東京都千代田区)によると、オランダや米ニュージャージー州などは「仮釈放のない終身刑」を採用し、ドイツや英国は仮釈放や有期刑への変更があり得る「終身刑」を導入している。
ナチス時代に死刑制度が乱用された反省から、1949年に死刑が廃止されたドイツでは、原則として15年の服役後に仮釈放される。英国では最低拘禁期間が「終身」と定められた受刑者も25年の拘禁後、定期的に審査があり、仮釈放の可能性が出てくる。