激務の割には低賃金。過大なノルマと軍隊的社風に支配され、離職率は常に高止まり――。劣悪な労働環境の企業が、ネット上で「ブラック企業」と呼ばれ始めたのは、10数年前からだという。匿名掲示板の隠語の1つとして生まれた言葉はその後、若年層に急速に浸透していった。厳しい社員教育や猛烈営業をモットーとするスパルタ系企業、さらには若者の目に「時代遅れ」に映る古い体質の企業までもが、今では「ブラック」呼ばわりされている。
企業が「ブラック」と呼ばれないためには、採用や教育をどう変えるべきなのか。日経ビジネス4月15日号特集「それをやったら『ブラック企業』〜今どきの若手の鍛え方〜」では、「ブラック」と呼ばれないための、企業の新人教育、採用方法などについて紹介している。
日経ビジネスオンラインでは、同特集との連動連載をスタート。初回は、ここ数年で突如として「ブラック企業」と言われ始めたファーストリテイリングのトップ、柳井正・会長兼社長が登場。インタビューを通して、「ブラック企業」と呼ばれる原因を分析。柳井会長の考える若手の育成方針などを改めて語った。(聞き手は本誌編集長・山川龍雄)
ネットや報道などを通して、ファーストリテイリングが「ブラック企業」であると言われ始めています。そこで改めて今回は、柳井会長がこの問題をどう見ているのか伺いたいと思います。
柳井会長:「ブラック企業」と言われるようになったのは、我々がグローバル戦略を本格化してからです。
我々は今、旧来型の採用制度を壊す取り組みに挑戦しています。入社時期は問わない。新卒社員も中途社員も同じように扱う。能力があれば若くして出世できる。日本以外、どこの国もそういう採用方式をとっている。そこで我々も、採用のあり方をグローバルスタンダードにしようとしています。
ですが一方でそれは、新卒社員が中途社員と同じように競争することでもある。採用システムや教育方針をグローバルスタンダードに合わせるなかで、ひずみが出たと思っています。
特に長年働いている社員の中には、僕が急に「グローバル」と言い始めたことで、戸惑っている人も多かったんです。彼らは彼らで、小売業やサービス業に従事するビジネスパーソンとして、非常にいい仕事をする。ですからグローバルとは別に、それはそれとして評価すべきだった。そのあたりの配慮が、ちょっと足りなかったんでしょう。
離職率5割は、「さすがに高い」
「ブラック企業」と言われる要因の1つに、離職率の高さがあります。ファーストリテイリングでは、新卒社員の約5割が入社3年以内に辞めています。
柳井会長:離職率が2〜3割であれば普通でしょう。ですが半分はさすがに高い。
これまで我々は、入社半年から1年で店長になるべきだという教育をしてきました。ですが店長資格が取れず、失望して辞める人はすごく多いんですよ。
たとえ店長資格を取っても、能力や経験が足りないまま現場に出れば、当然戸惑ったり、精神的に追い詰められてしまったりする。
それなのに我々は店長として何をすべきなのかという「技術」ばかり教育していた。これが一番の問題であり、失敗だと思っています。
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