世界のグローバル企業の仲間入りをめざし、ファーストリテイリングが「世界同一賃金」を打ち出した。優秀な人材を登用するため、世界規模で社員たちをふるいにかけていく。だが国内では、社員を酷使することへの批判が根強い。現場の疲弊をさらに強めることにならないか、心配する声もある。
ユニクロ、「世界同一賃金」導入へユニクロ柳井会長に聞く■両刃の同一賃金、社員選別
「快干POLO 149元」(ドライポロシャツ、約2235円)
中国・華南地方のショッピングモールにある「ユニクロ」の店内。漢字表記が目立つ以外は日本の店と変わらない。明るい照明、カラフルな商品を色別に並べる陳列、新製品を着たモデルの特大ポスター。ユニクロの商品で身を包んだ店員がてきぱきと服をたたみ、客を試着室に案内する。
20歳代の女性店長は「日本の本部からの要求は厳しいが、やりがいはある」と話す。月給6千元(約9万円)は、この地域の法定最低賃金のほぼ5倍で、中国では高給だ。
入社して1年ほどで店長に昇格した。残業も増えたが「仕方がない」と割り切る。「仕事ができるようになれば権限も増える。やりたいことを自由にやれるチャンスがある会社だ」
こんな中国の女性店長がやがて日本で働く日がくるかもしれない。
「世界中で同じ仕事ならば同じ賃金にし、いつでも異動できるようにする」。柳井正会長兼社長は「世界同一賃金」を導入するねらいをこう語る。日本から新興国へ、あるいはその逆、そんな国境を越えた異動を想定している。
平均年収2千万円のランクに今年3月に昇格したばかりの日本人の男性本部長(38)は「プレッシャーは感じてますよ。世界中どこに行っても、すぐに同じ能力を発揮することを求められるわけですから」という。
広告会社から転職し、入社2年後には小型店の店長に昇格した。その後は、異動するたびに社内キャリアをステップアップ。朝7時から翌朝3時まで売り場づくりに没頭することも苦にならなかった。快活に話す表情からは、企業エリートの充実感が漂う。
入社2年で、評価グレードが高い「スター店長」に抜擢(ばってき)された24歳の女性店長もその一人だ。
新卒で採用され、半年で店長を任された。約20人のスタッフをまとめ、商品の発注から閉店後は店の伝票の整理や店のあと片付け――。半年ごとに店を移り、いまはスタッフ50人がいる4店目の店長だ。「ものすごくしんどいけど、ちゃんと報われる。私はこの会社が好き」。ここでずっと働き続けたいと考えている。
■高まる要求、増える競争相手
しかし、短期間で店長になれなかった元社員らの口からは、華やかに見える職場の別の「現実」が聞こえてくる。