コンプライアンスへの取り組みを成功に導くカギ。それはコンプライアンスマインドの組織内への浸透や社員一人ひとりの行動の変革です。
今回は、東京ガス株式会社コンプライアンス部長の松本隆様に、東京ガスグループにおけるコンプライアンスの取り組み・推進の事例を通して、コンプライアンスマインドの浸透に必要な施策についてご紹介いただきました。
※ | 本編は2009年7月22日の学校法人産業能率大学主催「SANNO経営倫理フォーラム2009」にて講演いただいた内容を編集したものです。 |
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| 東京ガス株式会社 コンプライアンス部長 松本 隆 氏 |
東京ガスグループでは、現在首都圏を中心に1,000万件以上のお客さまにガスエネルギーをお届けしています。
その事業にかかわっている従業員数は、単体で8,345人(2009年3月現在)ですが、関係会社や東京ガス協力企業会という協力会社を加えると、グループ全体で約3万人の従業員がいる計算になります。私たちコンプライアンス部では、これら3万人を対象にコンプライアンスの徹底に取り組んでいます。コンプライアンスの推進にあたっては、下記6つの項目を柱として設定しました。
2002年11月にコンプライアンス部が設置されたことから具体的な取り組みがスタートしています。
2003年度には、ヘルプラインを開設するとともに、社員一人ひとりの行動の拠り所となる行動基準とその手引きを作成しました。これらを新年度に併せてグループ全体に打ち出したいという想いから、産能大にコンサルティングを依頼し、短期間で集中的に策定しました。そして、2004年度に取り組みを東京ガスグループ全体に拡大しました。
また、翌年の個人情報保護法施行に向けた対応を行いました。さらに2005年度には公益通報者保護法施行に向けた対応を行い、2006年度には、相談窓口の対象を取引先にまで拡大しました。2007年度には、犯しやすい間違いを身近な事例を使って勉強するためのツールとして『コンプライアンス事例集』を制作しています。2008年度には、ガスに関する商品・サービスを一元的に提供する「地域密着型の協力会社」のコンプライアンス推進体制を整備しています。
全社組織へのコンプライアンスの推進をどう進めたらよいか。コンプライアンス部の人員にも限界がありますので、私どもも日々悩んでおりまして、そのひとつの方策として打っているのが、各部門に推進担当者を任命し、その推進担当者のメンバーに現場主導型で頑張ってもらうというやり方です。
現在、当社内に252人、関連会社では36人のコンプライアンス推進担当者がいます。各推進担当者には、部門および関係会社ごとに職場単位での「自主勉強会」を展開してもらっています。この自主勉強会には全社的にかなり力を入れており、標準的な勉強会の進め方についてのコンサルティング、自主勉強会用の各種テキストやVTR等のツールも充実させています。上期・下期にそれぞれ最低1回以上はやってほしいと各推進担当者にお願いをしており、2008年実績としてはこの自主勉強会に累計約1万4,000人の社員が参加しました。
コンプライアンス部では、この約290人の推進担当者に対し、毎年1~2月に50人程度のグループに分けて「推進担当者連絡会」を開催しています。この会は、コンプライアンスにかかわるホットなさまざまの情報を提供し、次年度の活動計画に反映させていくための場となっています。
さらに2008年度からは各部門の代表者からなる「部門代表推進担当者連絡会」を発足しています。これは、約290人から成る推進担当者に対する総合的な働きかけよりさらに一歩進んだもので、各部門におけるコンプライアンス推進の中核となって旗を振ってもらう部門代表者22人を選抜し、連絡会や研修を実施しているものです。今年度からはケースメソッド研修を新たに取り入れ、自分でいろいろ考え、自分の言葉で発言してもらうという研修内容で非常に盛り上がりを見せています。
その他のマインド醸成の教育プログラムとしては、新入社員や入社3年目、新任管理者など、対象を階層別に区切った階層別研修や講演会を実施しています。また、関係会社や各部門からの要望を受け、コンプライアンス部が機動的に現場へ出張して研修を実施する「オーダーメイド研修」なども行っています。
また、上記のほか、個別法規の研修、ビデオ教材や事例集の活用、HPや2カ月に一度のニュースレター「コンプライアンス情報」(A4判表裏)による情報発信など、さまざまな手段を使っての推進をはかっています。
東京ガスグループでは2007年度より『コンプライアンス事例集』を制作し活用しています。これは、推進担当者による自主勉強会のツールとして使って欲しいという意図で作成したものです。
さらには、2008年度より事例集のさらなる活用ツールとしてのチェックシート・ディスカッションシート等も作成しています。これは、各職場での事例集を使った自主勉強会が定着し、熱心に行われるようになったこと、また、勉強会をすでに充分に実施した部所からの「新たな勉強会のネタをつくってほしい」という要望に応える形で作成しました。自主勉強会のケース・ディスカッションの中で少しジレンマ状態をつくり、その中で考え、討議してもらえるように工夫をしたツールになっています。
続いてモニタリングとしての「意識調査」についてご紹介させていただきます。
当グループではモニタリングをコンプライアンスPDCAサイクルの「C」(CHECK)における重要な取り組みと位置づけ、「コンプライアンス意識調査」を2003年より実施しています。
年に1回、9月中旬から10月中旬にかけて実施する「コンプライアンス意識調査」では、「施策」「風土」「意識」「行動」という4つの区分で全27問を設定しています。導入当初は55問あったのですが、「アンケートするだけでも疲れてしまう」などの声も多く、改善の余地も残されていました。そこで毎年少しずつ質問内容の吟味を繰り返し、現在の27問となりました。
質問の仕方においても回答者自身のことだけを聞くと「良いと思われる回答」に偏ってしまう可能性があったため、『意識』では「あなた自身では大丈夫ですか」という聞き方に、そして『行動』では「あなたの周囲の方は、できていますか」というように、質問項目を工夫して聞くようにしています。なお、アンケートの有効回答率において関係会社のほうが高い要因としては、東京ガス単体では各自のパソコンからダイレクトに回答するシステムを採用しているのに対し、関係会社ではネット環境に制約のある一部の会社において紙によるアンケートを実施したためであると分析しています。
アンケート集計後は、すべての部門および全関係会社にその内容をフィードバックします。その結果を分析し新たな施策を一所懸命打ってもらうことにより、風土が向上していきます。風土が向上することで、職場全体の環境が良くなり、社員一人ひとりの意識も変わっていきます。その結果、組織全体がコンプライアンスに沿った行動をするという図式が成り立つわけです。
最後に現在の課題認識と今後予定される取り組みについてご紹介します。コンプライアンス部の設置から6年が経過した今、あらためて感じているのは、人は知識だけでは行動に結びつかないということです。「知っているコンプライアンス」から「出来ているコンプライアンス」への移行こそが、今後取り組むべき大きな課題となると認識しています。
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