(朝鮮日報日本語版) 総連ビル落札の僧侶、安倍首相の影の指南役!?
朝鮮日報日本語版 4月21日(日)10時1分配信
真言宗の最高位の僧侶、池口恵観法主(ほっす)=77=は、常に「右」の道を歩いてきた。池口法主が生まれた寺は、太平洋戦争当時、特攻隊員が出撃前日に最後の参拝をした場所だった。隊員らは、まだ幼かった池口氏に「坊や、後で靖国神社においで。そこで会おう」と言ったという。池口法主は今も、靖国神社を「戦死者の霊魂が眠る聖地」だと信じている。国会議員の秘書として働いていた1961年、池口法主は陸軍士官学校出身者と共にクーデター未遂事件(三無事件)を起こして逮捕された。仏門に入ったのは67年。その後も池口法主は、寺に日章旗(日の丸)を掲げ、戦没者を追悼することにこだわった。池口法主は、ためらわずに「自分は右翼」と語った。
池口法主のことが話題になったのは、安倍晋三首相が再登板した昨年末のことだった。2007年に安倍氏が首相を辞任した際、首相に語った池口法主の慰めの言葉が話題になった。「5年後、また大きな波が押し寄せる。そのときに再登板すればいい」。日本は5年おきに選挙がある国ではない。偶然だろうが、予想は当たった。
池口法主に週刊誌が付けた別名は「安倍首相の影の指南役」だ。日本の新聞は「永田町の怪僧」と名付けた。首相官邸や国会議事堂がある永田町は、日本政界を象徴する場所。池口法主を尊敬する政治家のリストには、森喜朗氏、小泉純一郎氏、鳩山由紀夫氏らの名前もある。いずれも首相経験者だ。安倍家では、首相の父、安倍晋太郎元外相の時代から池口法主の助言を聞いていたという。
そんな池口法主が最近「親北朝鮮」どころか「日本版従北(北朝鮮に追従する)主義者」に変身した。朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)中央本部ビルの競売に参加し、ビルを落札したのだ。池口法主は「北朝鮮の要請によるもの」と語った。落札価格は45億1900万円、ウォンに換算すれば510億ウォンだ。東京の一等地にある朝鮮総連中央本部は、一時は日本最強の圧力団体であり、今もなお北朝鮮の対日・対韓工作基地の役割を果たしている場所だ。
インタビューを申し入れると、池口法主は「寺に来るように」と言った。今月15日に訪れた鹿児島県の寺は、思っていたより遠かった。鹿児島中央駅で二両編成の列車に乗り換え、さらに列車を降りて狭い山道を20分ほど上ると、日章旗が翻る寺「最福寺」が見えてきた。池口法主は名刺をくれた。「EKAN IKEGUCHI Ph.D」。応接室の壁には、1999年に山口大学で取得した医学博士の学位記が、政治家と一緒に撮った数多くの写真と共に飾られていた。
■北朝鮮の歓迎と仏像イベント
池口法主が北朝鮮を初めて訪れたのは2009年。その後、昨年までに5回北朝鮮を訪問した。池口法主は「京都の人脈の中に北朝鮮と太いパイプを維持している人物がいて、その人物に頼んで一緒に北朝鮮に行った」と語った。訪朝の理由について「仏教人として、日本と北朝鮮の懸案解決に少しは寄与できるのではないかと思った」と語った。
「北朝鮮で、韓半島(朝鮮半島)民族の祖先に謝罪し『順調な関係を望む』と語った。すると北朝鮮の政府関係者が『そんなことを言った日本人は初めて』と歓迎してくれた」
−誰が歓迎したのか。
「ナンバー3の楊亨燮(ヤン・ヒョンソプ)最高人民会議副委員長が最も歓迎してくれた。楊副委員長は『(歴史の過ちは)日本軍部の一部が犯したこと。私は日本、日本人が好きだ』と語った」
池口法主が北朝鮮にアプローチする手法は、コメディーに近い。「誰が権力の近くにいるか」については本能的で、触角が発達した北朝鮮の対応にもひけを取らない。
池口法主が北朝鮮の妙香山・普賢寺を訪れたときのことだった。住職が「金日成(キム・イルソン)主席は国を独立させ、国民の衣食住の心配をなくし、世界平和に寄与した方」と宣伝したらしい。「私はその言葉を聞いて、観世音菩薩を思い浮かべた。“金日成主席観世音菩薩像”を作ってあげたら、北朝鮮の住民が(金日成主席の仏像の前で)頭を下げるのではないか。北朝鮮に仏教が広まるということだ」
−北朝鮮の反応は?
「トランジット先が中国の北京だった。そこまで政府高官が迎えに来た。仏像を、コンテナではなく客室に積んでいった。金正日(キム・ジョンイル)総書記が感動したと言っていた。金総書記の指示で、仏像を成仏寺に奉安したという。金総書記が両親と一緒に行った寺は成仏寺だけとのことだ。その話を聞いて、私も感動した」
そこで池口法主は、仏像をもう一つ作った。今度は「金正日総書記千手観世音菩薩像」だった。「千手観世音は、二つの手を中央に寄せている。金日成思想を受け継いでいることを示すように。周りの数多くの手は、北朝鮮の住民が数多くの知恵を絞って生きているという意味だ」。
−金正日総書記はまた感動したのでは。
「届ける前に金総書記が息を引き取り、直接見せることはできなかった」
「本当に金ファミリーを心から尊敬しているのか」という質問に対し、池口法主は「(北朝鮮の)全ての人が、立派だと言っているので、“そうだろうな”と思う」と答えた。池口法主は、12年の太陽節(金日成主席の誕生日)100周年記念式の際、北朝鮮入りして「親善勲章第1級」を授与された。
■「助けてほしい」という依頼と「戦争になる」という脅迫
−総連本部の入札は誰の依頼だったのか。
「金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議委員長、楊亨燮副委員長、金貞淑(キム・ジョンスク)対外文化連絡協会委員長との昼食の席でだった。『総連本部の建物は朝鮮の駐日大使館のような場所。大使館がなくなったら日本と敵対関係になる。努力してほしい』と言われた」
このとき、同席した朝鮮労働党の幹部が口を開いたという。「総連中央本部を失うことは、大使館を失うことだ。それは宣戦布告と同じ。戦争状態になるということ」。池口法主は「彼はこの言葉を、非常に強い口調で繰り返した」と主張した。「当時、北朝鮮で軍事パレードを見て、戦争になったら日本はかなりの犠牲を払うだろうと心配した。『宣戦布告の話』は私一人しか聞いていない。その言葉を無視していれば、天が、神が、ご先祖様が怒ったと思う」。そう言って池口法主は笑った。
−日本の地価が下がっている中、45億円というのは並の金額ではない。
「落札して戦争を避けようという一心だった。総連本部と寺の資産を担保に、金融機関から融資を受ける計画だ」
−日本のメディアは、総連の資金が寺を介して環流した可能性を指摘しているが。
「そんなことは一切ない」
総連中央本部を落札した後、池口法主は「この建物を総連の建物として使用し続けることができるようにしたい」と語った。批判が起こると、日本の各金融機関は「総連を立ち退かせないのなら融資はできない」という立場を表明した。
−朝鮮総連を立ち退かせるべきなのでは。
「融資を受けなければならないので、ひとまず立ち退かせるだろう。出ていった後、総連が『本部の建物を貸してほしい』と要請してきたら、日本政府と話し合ってから貸す予定。日本政府が『貸しても構わない』と言ったら、総連がほかの建物を見つけるまで」。朝鮮総連は現在、総連系金融機関の破産や在日朝鮮人の総連離れなどのため、新たな物件探しが難航している。池口法主の言葉は、日本政府が認めれば、このビルが事実上総連の建物として使われ続けることを意味している。とはいえ、政府が承認するかどうかは未知数だ。
−総連本部がなくなった場合、本当に北朝鮮は日本と戦争をすると思うか。
「北朝鮮にとっては大使館だ。大使館がなくなるということを、北朝鮮は本当に宣戦布告と受け止めるのではないかと思う」
−日本社会はそういう説明を理解するだろうか。
「人々は、私の真意を知らないから。日本のためにやったことだが、北朝鮮のためにやったことだと思っているので、抗議しているのでは」
−左派に変身したのか。
「寺に翻っている日章旗を見なさい。私は保守だ。右翼だ。朴正煕(パク・チョンヒ)大統領が亡くなられた時、とても悲しくて、10人ほど連れて韓国に行き、墓参りをした。それが初めての韓国訪問だった。朴大統領が韓国を(共産化から)守ったので、今の日本があると思っている」
−なのに北朝鮮を助けるのか。
「仏家には『怨親平等(怨敵も両親も同等、対等)』の思想がある。敵味方として戦っても、戦争が終わったら共に親しくするということだ」
■5年前とは異なる安倍政権の対応
総連本部の落札が決まると、日本メディアは池口法主と安倍首相の親交ぶりを報じた。ある日本メディアの関係者は「池口法主の行動を安倍首相が黙認したとすれば、それは政府の対北朝鮮路線の微妙な変化を象徴するもの」と語った。
安倍首相は、06年から07年にかけて初めて首相を務めた当時「拉致問題」解決のためには北朝鮮に対する強硬路線が重要だと判断した。総連本部ビルが競売にかけられたのは、こうした圧迫政策が大きく影響している。当時、総連は危機を避けるため、民団(在日本大韓民国民団)と「和合声明」を発表した。安倍政権は、民団をたたくという迂回(うかい)戦術に出て、声明を無効化した。すると総連は、本部ビルの登記を移転した。移転先は、総連とも親しい元公安調査庁長官が所有するペーパーカンパニーだった。安倍政権は、元長官を逮捕するという超強硬手段で登記移転を阻止した。朝鮮総連の危機打開策は、今回で3回目だ。ところが昨年末に二度目の登板を果たした安倍政権は、まだ表立った反応を見せていない。ある日本メディアの関係者は「今回は、登記移転のときのような騒動に発展する可能性はないと思う」と語った。
−競売応札に関して、安倍首相と話し合ったのではないか。
「安倍首相とは親しい。だが、首相になってからは、会わないようにしている。民間人の私たちが追い回したら、何かにつけて邪魔になるから」
−拉致問題解決は安倍首相の悲願だ。「法主が乗り出して融和策を北朝鮮に提示したのではないか」という推測がある。
「拉致問題は考えなかった」
池口法主は、インタビューが終わった後、あらかじめ作っておいた別の想定問答集を持ってきた。ところがこの想定問答集の内容は、インタビュー時の主張とは違っていた。「総連のビルが総連とは関係ないものになったら、拉致問題は事実上暗礁に乗り上げる。これも、私が決死の覚悟で入札に参加した背景だ」
−安倍政権の対北朝鮮路線に反対するか。
「制裁も必要だと思う。とはいえ、たとえそうなっても両国間に『針の穴』程度の通路は作っておくべきではないか。『逃げ道』を用意しておかなければ、爆発する。だから私が入札に乗り出したのだ」
池口氏が法主を務めている最福寺は、炉に乳木(ちぎ)をくべ、火と向かい合って祈りをささげる「護摩」の修行で全国的に有名だ。護摩の修行のため、清原和博、金本知憲、新井貴浩など有名プロ野球選手もここを訪れた。在日韓国人のスポーツスターが多い点も特徴的だ。しかし池口法主は「偶然だ」と語った。
最終更新:4月21日(日)11時7分