
現アニメ制作現場にコンピュータが導入されて、「撮影」と呼ばれるセクションの技術バリエーションも幅広くなりました。しかし、どこまで技術を現制作フローに「導入してよいか」は話が別です。
私が新しい道を模索するに至ったのは、野方図な技術の安売り合戦に、限界を感じたからです。「デジタルはタダ」と思っている人々が制作現場にはそこそこ存在する現状に、怒りを通り越して、「あきらめの境地」に達したからです。
でもまた同時に、アニメ業界の体質として、「安く引き受ける」事で活路を見出す習慣が根底にあって、難易度の高い技術や大変な作業をとんでもない安値で引き受けてしまう現状にも、等しく限界を感じたのです。予算が安いだの、「手塚治虫が悪い」だの、他人のせいにするまえに、高価なCMや劇場クラスの技術をみようみまねで安価なテレビ単価で引き受けるのを、「まずは」やめるべき‥‥なんですが、そうは出来てないですよネ。テレビ単価でも問題ない「安く実現できる」技術ならともかく、あきらかにどんどんオーバーワーク・コストオーバーのベクトルに邁進してますからネ。テレビで「貼りこみ」なんかホイホイやっちゃダメですよ。
そんなこんなで、現TVアニメ制作のコンポジット周りにおいて、私が「出来るけどやらない」技術〜つまり意識的に封印している技術があります。以下。
・スクラッチ
スクラッチって、色々な使い方があると思いますが、ここでの意味は「ゼロから作る」です。After Effectsの機能を持ってすれば、煙や火などのエフェクト作画をAfter Effectsで「作画的に」(=プラグインではなく)作る事は可能です。原画で描いている事を、After Effectsのツールでやればいいだけです。しかし、これはつまりは「作画料金よこせ!」ですから、安価な撮影秒単価でやるべきではありません。実は、キャラだって作画できますよ、After Effectsで。‥‥でも、今のキャパじゃ無理だし、安い秒単価で作画までやらされたんじゃ、たまらないです。「After Effectsだったら出来るでしょ?」とふっかけられたら、「今の作業単価では無理です」ときっぱり断るべき‥‥ですネ。
・マスクワークやトラッキング
これは、レタスペイントからのカラーキーではなく、実写ライクなマスクワーク〜キーイングの事です。After Effectsはアニメ専用ではないですから、実写で必要なマスク抽出機能も有しています。特定の要素で絞り込んで、さらには手で追って、マスクを作り出す事は可能です。しかし、これもテレビでは絶対にオーバーワークになりますから、引き受けてはならない作業です。
救いは、ほとんどニーズが無い事ですが、たまに「書き込みのセルから一部を抽出」するようなオーダーがあります。しかし、カラーキーで抜けない手切りのマスク(の連番)は、引き受けない事にしています。それを引き受けたら、その後どんな事になるか(どんな事が常識になっちゃうか)、‥‥お分かりですよネ? 「撮影でも抜き出せるんなら、どんどん書き込みにして、動画枚数を減らそう」(=撮影の手間を価格据え置きで増やそう)という事になっちゃいますヨ。
・難易度の高い「貼りこみ」
画像をセルに貼付ける(合成する)テクニックですが、動く場合は安易に引き受けるべきでは無いです。作画の知識を持たない人間、濃度の調整ができない人間が作業すると、反ってチープになりますし、一番問題なのは、作業が大変過ぎる事です。オーバーワークの代表例ですネ。「貼りこみ」の安売りの原因は、ほとんどが、演出の知識不足によるものです。どんな方法で貼り込むのか、作画の動きに合わせるのがどんだけ大変かを、全然知らないゆえに、乱発するんだと思います。しかも、効果の薄いカットで「カット合わせ」とかの理由だけで作業を強要するんだよネ。オプチカルよろしく、貼りこみも、処理単価を極端に上げないと、今後さらにエスカレートすると思いますよ‥‥。動画への貼り込みは、現状の予算では、予算の高い劇場やCMにしか使えないと思うんですが、どうか。
・難易度の高いプラグインの処理
TrapcodeのFormやMir、Perticularなどは、ツッコみはじめるとカッコいい映像が作れますが、誰かのプリセットでも流用しない限りは簡単にホイと出来るものではなく、非常にオペレーションが難しいです。しかも、プラグインの導入費用はそこそこ高価です。誰か「Form使い」「Mir使い」のようなスタッフがいて、特別単価で作業するのなら話は別ですが、通常業務の一環で「高度なプラグイン」を安易・安価に使うのは、私は反対です。通常の単価では引き受けたくないですネ。
でもまあ、Formなどを使っている作品を見た「内情を知らない」演出家が、「うちでもコレやって」とか簡単に言っちゃうのも大問題なんだよネ。デジタルはタダで、言えば何でもできると思っているのが、‥‥多いんだよねえ‥‥‥かなり‥‥。他で出来る事が自分のところでも出来るとは限らない‥‥というのをキモに命じてほしいです。少なくとも「あれと同じ事がしたいんだけど、まず可能かどうか。可能だとしたら、どのくらいコストがかかるか。」を監督・演出・現場プロデューサーの人が「まず最初に気を使う」べきで、相応のコストを予算から割かないとダメですネ。
私が長年一緒にやっている監督さんや演出さんは、ここら辺をよくわきまえてくれます。「無茶ブリ」もしますが、その場(作品の規模)とか、代償というか、コストも同時に考えてくれます。
‥‥でも、テレビって、結構野方図だよネ。コストのかかる技術だろうが、専門知識が必要な技術だろうが、何でも取り入れて、どんどん安くしてしまう。‥‥だからさ、現場が「現場の窮状を訴える」とか言っても、あまり説得力が無いんだよな。自分たちでかなり、「窮状を呼び寄せている」んだから。
技術の値段‥‥も、考えないとダメだと思うのです。「昔、高コストだったのが、低コストになって、使いやすくなるのが、技術の発展だ」と言うのならば、それを支えるスタッフを衰弱させるなよ‥‥です。「技術の発展」なんて「耳障り」の良い言葉で誤摩化すのは、実際に作業してない人ですわな。
しかし、制作フローの流れの中にいると、「加担せざる得ない」状況も事実です。
動き出してしまったものに意義を申し立てても、どうにも覆せないものです。また、特別単価で作業している事は、表にはアナウンスなどしないですから、「通常の作業費で作業している」と誤解される事も多々あるでしょう。
‥‥なので、After Effectsで、様々な新しい表現が可能な事はわかっていても、今のアニメ制作体質では、予算やフローの問題で封印せざる得ません。
新しいアニメーション制作方式は、表現方法も格段に幅広い上に、未来社会の技術にも対応でき、さらには予算コストダウンと各人のギャラアップを同時に実現できるという、大きな希望がひしめいているのですが、その技術を今のアニメ業界で流用する事は出来ません。色々な意味で、業界の「シャーシ」が、新しい「エンジン」に、致命的なまでに適合しないからです。「シャーシ」を作り直す事は、すなわち、業界をバラす(死んで生まれ変わる)‥‥という事なので、まあ、できないですよネ。一時的であれ、死にたい人なんて、誰もいないもんね。
まあ、こんな辺境のブログで書き綴ったところで、何が変わる訳もないでしょう。でも、何も言わなければ、何も伝わらなず、否定も共感もないです。なので、懲りもせず書き続けてはいます。
変えられないのなら、新しく作ろうと思っているのです。
追記:
「予算コストダウンと各人のギャラアップ」は矛盾しているように見えますが、それは今の視点で考えるからです。この辺については、いずれ、時期がきたら。
‥‥今のアニメのマズい点って、現場は金がないと言ってるのに、コンテンツとしては金がかかるシロモノ‥‥な点ですよネ。実際、何をするにも大仰なフローで回して、延べ人数が増えて、金がかかります。従来売れ線・安全パイ・萌絵から抜け出せず、新しい路線を開拓できないのは、制作の体質にも一因はあると思います。
先人が築いた「アニメ制作高速道路」は、今や、金がかかる割に渋滞続きです。そんな高速道路、使うのやめて、「情報」を駆使して「空いてる下道」でスイスイ走れば良いじゃん?