略式ですが、本業がもう少し落ち着きを見せるまで、どうぞご容赦ください。
2010年08月21日
ビタミンDも過剰は良くない
ビタミンD不足はがんを始め多くの病気のリスクを高めることを何度もお伝えしてきました。左上隅の枠にビタミンDと入力し、日記を検索してみてください。
ところが、ビタミンDは高すぎてもがんのリスクを高める、というデータがスエーデンのウプサラ大学から出ました(ソースはこちら)。
対象になったのはスエーデンのウプサラに住む男性です。1970年からすべての50歳に達した男性に健康調査に参加するよう要請しました。参加者には身体測定を行い、血液サンプルを採取し、喫煙歴、運動習慣、食習慣などを詳しく調査し、観察を開始しました。
そして71歳のころ(1991-95年)に血中ビタミンD値を測定した1194人を対象に、今回の解析を行いました。
この人々を2007年まで平均12.7年フォローアップするうちに、584人(49%)が亡くなりました。そして血中ビタミンD(実際には安定な代謝物である25(OH)D)の濃度と死因の関係を解析しました。なお社会経済状況、病歴、死亡、死因は国の管理データベースと照合しています。
するとビタミンDと総死亡率の間にはU字型の関係がありました。すなわちビタミンDが低すぎても(最も低いほうの10%:<46 nmol/L)、高すぎても(最も高いほうの5%:>98 nmol/L)、中間の人々に比べ、総死亡率は約50%、有意に高くなっていました(P=0.0009、下図の太い線)。縦軸は死亡リスク、横軸は血中ビタミンD濃度(nmol/L)、太い線の上下にある細い点線は、確率95%の上下の誤差範囲を示しています。
またがんによる死亡率で見ても同じでした。ビタミンDが低すぎても高すぎても(定義は上と同じ)、中間の人々に比べ、それぞれ死亡リスクは2.20倍、2.64倍と、有意に高くなっていました(下図)。
がん種別にいうと、すい臓・肝臓・胆道がんによる死亡率は、低すぎると5.71倍、高すぎると10.30倍になっていました。
循環器病による死亡(心臓病や脳卒中)では少し様子が違っていました。ビタミンDが低すぎると死亡リスクは1.89倍に有意に高まりましたが、高くともリスクは高まりませんでした(下図)。
ビタミンDの安全性は高い、というのが定説でしたが、高すぎても良くない、という意外なデータです。
どこかに研究上の欠陥はないかと思いながら原論文を読みましたが、ビタミンDレベルは食事から推測したのではなく血中濃度をきちんと測っています。濃度の区分の仕方(低いほうから5%、10%、90%、95%で区分)とリスクの相関もきれいに見られ、肥満度や喫煙率など背景因子も常識的で偏りはありません。社会制度が整っていますので対象者の追跡や死因も信頼できます。このデータは非常に説得力があると言わざるを得ません。
なおすい臓・肝臓・胆道のがんが多い理由について、研究者らは次のように推測しています。ビタミンDが有害な二次胆汁酸の解毒にいくつかのしかたで関わっており、多過ぎても少な過ぎてもそれが阻害される。またビタミンDはすい臓がん細胞を増殖させる作用のあるオステオカルシンの分泌を促進する。
ビタミンDは一般に大多数の方が不足しており、がんの患者さんでは栄養不足や吸収効率の低下により、さらに不足している人が多い可能性があります。一方で骨転移などにより高カルシウム血症になる場合もあり、この場合はビタミンDは禁忌です。がんの患者さんはビタミンD濃度を測ってもらい、自分の値を知っておく必要があると思います。
なお測定するのは多くの場合ビタミンDの代謝物である25(OH)Dです。単位はng/mLとnmol/Lがあり、ng/mLの数字を2.5倍するとnmol/Lに換算できます。
(蛇足)私の場合、いい食事をしているつもりでしたが、2009年春の測定値は35nmol/Lと、ビタミンD欠乏症でした。それから1年間、毎日2000 IUを飲んで、2010年春の測定では89nmol/Lになりました。最適濃度の下限あたりなのでもう少し上げようと、その後3000 IU/日を飲んでいました。また2000 IUに戻そうと思います。
(last updated 8/21/2010 H)