キラリ・日本一:路面電車、長崎電気軌道(長崎市) 120円守る倹約と投資
毎日新聞 2013年04月24日 西部朝刊
<元気です!九州・山口>
長崎市中心部を走る路面電車、長崎電気軌道(同市)は、どこまで乗っても運賃が120円。均一運賃では日本最安だ。
同社は1964年、車両の壁面を広告にした電車を日本で初めて走らせた。地元では「カラー電車」と呼ばれ、ラッピングバスの先駆けだ。現在は全79両のうち27両で導入し、年6600万円の広告料を稼ぎ出し、低運賃経営を下支えする。
また福岡や熊本など他地域で使われなくなった車両を譲り受け、再生するなど新規投資を抑制。今ではイベント用だが、1911年に製造された西日本鉄道からの車両も現役で活躍する。日常活躍する車両には、60年を過ぎた「還暦車両」もある。倹約のDNAが低料金を支えているようだ。
一方、乗客数は94年を境に減少。84年から25年間続いた均一料金100円を、2009年に120円に値上げした。高齢者が乗りやすいように04年以降、新型の超低床車両を5両導入。乗車券のICカード化も進め、設備投資が増えたためだ。
それでも全国最安値の地位は守った。輸送収入は、07年度の16・7億円から11年度は17・2億円となり下げ止まった。だが肝心の輸送人員は、1日当たり5・3万人(07年度)から4・7万人(11年度)と下げ止まる気配は見えない。
さらに今年度は電気料金値上げ、来年4月には消費増税も見込まれ、経営環境は厳しい。同社の11年度の当期(最終)利益は2200万円。電気料金は月平均900万円。10%の値上げで約1000万円の負担増となる。しかし、消費増税による値上げも「想定していない」といい、経営努力で吸収する構えだ。
今月、1日乗車券をスマートフォンで購入できるようにした。今後、車内や電停に公衆無線LAN(構内情報通信網)サービス「Wi−Fi(ワイファイ)」の接続ポイント設置を検討するなど、乗客増を目指す。
昨夏、九州電力による節電要請の際には、下り坂の運行時に電力をオフにする「惰性運転」を実施した。乗客増のための設備投資と、運賃維持のための経費節減のバランスを図りつつ、最安チンチン電車の挑戦は続く。【寺田剛】
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