井上繁樹の最新通信機器事情

ソニー「WG-C10」

〜スマートフォンのバッテリにもなるモバイルストレージ

「WG-C10」
発売中

価格:7,980円

 「WG-C10」は、各社各様の方向性の製品が溢れるモバイルストレージ市場でソニーが投入してきた、これまた一癖ありそうな製品で、スマートフォンを日常的に使用している人には必須とも言えるモバイルバッテリとしても使えるのが最大の特徴だ。どれだけ使えるものなのか、実際に使用してみた結果をレポートしたい。

モバイルストレージとバッテリの二役

 WG-C10は、AndroidやiOS対応機器から無線LANで接続して利用できるモバイルストレージ製品だ。本体内にはストレージを持たないが、SDカードやメモリースティックDuoのほか、USBメモリをつなぐことができる。2.4GHz帯の無線LANが利用可能で、対応している規格はIEEE 802.11b/g/n。PCと接続した場合の接続速度は72Mbpsだった。無線LANアクセスポイントとしても利用可能で、その場合は、WG-C10に接続しつつインターネットにアクセスすることもできる。さらに、2,210mAhのバッテリは、携帯電話やスマートフォンの充電に使えるモバイルバッテリとしても使える。

同梱物一覧。WG-C10本体、Micro USB-USBケーブル、ケーブルホルダー付きストラップ、冊子類
ロゴ面とロゴ面から見て右と天側の面。天面にはストラップ用の穴、無線LANと電源のランプ、電源スイッチがある
ロゴ面を正面から見て右側の面。金属とプラスチックが組み合わさった筐体であることが分かる
ロゴ面とロゴ面から見て左と底側の面。左側面にはRESETスイッチとSD、メモリスティックDuo両対応のカードスロット。カードスロット上側の面にアクセスランプ
底面にはMicro USBポートとUSBポートが1ずつある。Micro USBポートはPCとの接続と充電用、USBポートはストレージ接続用
同梱のUSBケーブルホルダーはMicro USB-USBケーブルをストラップ紐のように保持する
USBケーブルホルダーはコネクタのカバーでもある
WG-C10本体に「ケーブル」ストラップをを取り付けたところ

 大きさは50×105×18.5mm(幅×高さ×奥行き)で重量は135g。同梱のMicro USB-USBケーブルを装着するとストラップ紐になるUSBケーブルホルダーを同梱していて、USBケーブルのコネクタをポートに挿したままにするより安全にケーブルを持ち運べる。

 対応OSはAndroid 2.3及びAndroid 4.0以降とiOS 5.0以降だ。PCやMacでUSBで接続した状態では、メモリカードスロットのみ利用できる。Webブラウザが使える機器であれば、無線LANやネットワーク、自動電源オフの設定変更は可能だが、WG-C10に接続したUSBストレージにはアクセスできない。

PWS Manager

 WG-C10を利用するにはAndroidもしくはiOS搭載端末に専用アプリ「PWS Manager」をインストールする必要がある。PWS Managerは、Google Play StoreもしくはApp Storeで無料で入手できる。PWS Managerは設定変更と接続したストレージのファイル閲覧/操作や、メモリーカード、USBストレージ、PWS Managerをインストールした別の端末のストレージにアクセスできる。ただし、iOS搭載端末ではカメラロールのみへのアクセスに限定される。以下スクリーンショットは特に記述がないもの以外はAndoroid版のPWS Managerのものになる。

起動直後の面。カードスロット、USB、クライアント側のストレージにアクセスできる
こちらはiOS版のPWS Manager。細かいデザインの違いはあるが見た目はほぼ同じ
写真は内蔵プレーヤーで表示できる
音楽や動画ファイルも内蔵プレーヤーで再生できる。音楽ファイルであればタイトル、アーティスト名、アルバム名、サムネイルが表示される
動画ファイルの再生はダウンロードが完了後開始される。ストリーミング再生はしない
iOS版の動画の再生面

 写真や音声、動画はPWM Manager内蔵のプレーヤーで再生できる。写真(JPEG/PNG/GIF/BMP)はサムネイルも表示できる。動画はMPEG-4形式に対応しており、Android版は「.MOV」形式(iOSが標準的に使用する動画ファイル形式)を、iOS版は「.3gp」形式(Androidが標準的に使用する動画ファイル形式)を再生できなかった。これらの再生には別途アプリを入手する必要がある。

コピーアイコンをタップすると、コピーするファイルの選択画面が開く。チェックを付けて、面右上のコピーアイコンをクリック
コピー先の選択画面。同じストレージの別フォルダの選択はできない
iOS版のコピー先選択画面。iOS搭載端末はカメラロールにのみアクセスできる
コピー先のフォルダの選択画面。「ここにコピー」をタップでコピー開始
新規に作成したフォルダをコピー先にすることもできる
コピー中の様子。ダイアログにはパーセント表示と残りファイル数表示

 ファイル操作についてだが、コピー、移動、削除、ファイル名変更とひと通りのことができる。コピーもしくは移動先フォルダの新規作成も可能だ。ただし、同じストレージ内の別フォルダへのコピーや移動はできない。できるのはメモリーカード-USBストレージ-端末ストレージ間のコピーや移動だ。もっとも、出先でAndoroidやiOSからファイルを読み書きするのが主な用途のはずなので、不便はないと思われる。

初期状態で接続するとパスワードの設定面が開く。暗号化方式をドロップダウンから選ぶと、暗号化キーを設定できる。暗号化キーを設定後は再接続が必要
無線LAN親機に繋ぐことで、WG-C10に接続しつつ、インターネットに接続することもできる
電源オフタイマーは「なし」、「10分」、「60分」、「120分」の4つから選択
「システム」設定画面。ファームウェアのアップデートや、IPアドレス、DNSサーバの設定ができる

 設定変更はPWS Managerをインストールできない機器でも、PCなどWebブラウザのある環境であれば可能だ。Webブラウザで設定面を開くには、Windowsであればエクスプローラーでネットワークフォルダを開いてWG-C10のアイコン(ルーター系のものになっている)をダブルクリックすれば開ける。初期IPアドレスは「192.168.40.1」だった。ちなみに、IPアドレスの第3セグメントの値「40」は設定画面で変更可能だ。

ベンチマーク

 以下の無線LAN接続時の速度測定はストップウォッチを使って手作業で行なった。使用機器はAndroid 2.3.3対応のスマートフォンで内蔵ストレージは2GBのmicroSDカード装着した。WG-C10側にはClass 10のSDカードと、USB 2.0対応のUSBメモリを接続して、それぞれのストレージを使ってファイルの読み込み(ダウンロード)と書き込み(アップロード)にかかった時間を調べた。測定に使用したのは28.5MBの3gp形式の動画ファイルで、機器間の距離は1m以内だった。

【表1】無線LAN接続時の速度測定結果(Mbps)

test1 test2 test3 test4 test5
Class10 SD リード 1.00 1.04 1.03 1.03 1.03

ライト 0.50 0.5 0.52 0.49 0.5
USB 2.0メモリ リード 1.09 0.99 1.04 1.05 1.04

ライト 0.43 0.44 0.47 0.45 0.47

 小数点2桁まで数字を見ているので5回ずつやったテスト結果はばらけているように見えるが、小数点1桁まで値を丸めるとSDカードを使った場合もUSB 2.0メモリを使った場合も、読み込み約1Mbps、書き込み約0.5Mbpsでほぼ安定していることが分かる。速いというわけではないが、遅くならないというのはストレスが少なくていいのかもしれない。

 さらに、USBケーブルでPCに直接接続してカードリーダとして使用した場合の速度をCrystalDiskMark 3.0.2eで測定した結果が以下だ。使用したのは無線LAN接続時の速度測定でも使用したClass 10のSDカードで、読み込み約21Mbps、書き込み約19Mbpsだった。

USB接続時のSDカードを使用した場合のCrystalDiskMarkの結果

モバイルバッテリとしての性能

 WG-C10の充電は、USBポートを搭載したPCか、USB対応のACアダプタを別途用意して行なう。フル充電にかかる時間は、PCにつないだ場合で8時間、USB ACアダプタを使った場合で3.5時間ということなので、PCで充電する場合は電源オフ時にも給電されるUSBポートがあった方がよいと思われる。

 他の機器への充電には制限があり、500mA以上の給電には対応せず、安全のためストップがかかるようになっている。試しに500mA以上の入力を必要とするiPad Retinaディスプレイモデルに接続してみたところ、iPadのステータスバーに充電できない旨のメッセージが出て、充電できなかった。

 フル充電の状態でどれだけ給電できるか、電源容量が1%になったiPhone 5を使って試してみたところ75%まで回復した。iPhone 5の電源容量とされている約1,400mAhから逆算するとおおよそ1,000mAhなので、容量の2,210mAhにしては、給電能力は低めの数字ということになる。無線LAN接続やストレージへのアクセスを行なうWG-C10用にそれだけ残しているということなのだろう。なお、給電中でもWG-C10のモバイルストレージ機能は使用できる。

まとめと感想

 ソニーがモバイルストレージ系の製品を出したのは初めてのことだと思うが、おそらくは放熱のことを考慮した金属を使用したボディといい、USBケーブルをストラップケーブル化して紛失や破損を回避するギミックといい、WG-C10にはヘビーユーザー視点のこだわりが込められていると感じた。

 速度に関してはあまり速いとは言えないが、用途を考えるとそれほど大容量、大量のファイルを扱うわけでもないので、許容範囲内だと思われる。いろいろと不便な出先で必要に迫られてデータをやり取りをするための製品だけに、低発熱安定動作のニーズを優先したのかもしれない。もっとも、スマートフォンから使ってみると、ファイルの転送には時間がかかるものの、ソフトのレスポンスは悪くないので、それほど遅いとの印象はない。

 PCからはUSBストレージにアクセスできない仕様には戸惑ったが、モバイルストレージを使う環境は、そもそもノートPCをカバンから取り出せないケースもあることも考えると、割り切り過ぎの仕様とも言い切れない。モバイルバッテリとして使う場合も、つなぐのはほぼ携帯電話やスマートフォンだろう。

 モバイルバッテリとしての性能についてだが、試したのはiPhone 5のみだが1,000mAh程度回復できるのなら十分と言えるのではないだろうか。モバイルバッテリとしては高価な部類になるが、PCやインターネットが使えない場所でもファイルのやり取りができる便利機能付きと考えると、妥当と言えるだろう。

(井上 繁樹)