| 微小重力実験の基礎 | |
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| I.理論編 | |
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| 3.1 表面張力と濡れ |
| 3.2 液体の自由表面の平衡形状 |
| 3.3 軸対称自由表面形状 |
| 3.4 無重力下での軸対称自由表面形状 |
| 3.5 地上での軸対称自由表面形状 |
| 3.6 無重力下の回転軸対称自由表面形状 |
| 3.7 重力下の回転液体の軸対称自由表面形状 |
| 3.8 二次元自由表面形状 |
| 3.9 小振幅の乱れ |
| 3.10 微小な乱れの解法 |
| 3.11 ジェットの分裂、滴化 |
| 3.12 液柱の安定性 |
| 参考文献 |
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地上においては、重力の影響が大きいため、観察される諸現象、特に物体の変形や運動を伴う現象の多くは重力によって支配される。密度の異なる2流体が浮力・沈降により上下に分離すること、上下2つの円板間に大きな液柱を形成できないこと、流体中に不均一な温度場が存在すると浮力対流が発生することなどが、その例として挙げられる。ところが、微小重力環境下においては、重力の効果が弱くなるため、地上では覆い隠されていた他の比較的弱い力の効果が顕在化してくる。すなわち、表面張力や濡れなどの現象が微小重力環境下では明確となる。また、対流現象においても、気液あるいは液液界面間の界面張力に起因するマランゴニ対流など、地上では重力の効果により観察されにくかった現象が顕在化する。この章では、微小重力環境下での界面現象を理解するための基礎として、表面張力、濡れ性、さらには気液自由表面の平衡形状とその安定性について述べる。 |
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液体にはすべて自由表面の面積をできるだけ縮小しようとする力が働いている。この力を表面張力とよぶ。表面張力の発生原因は、液体分子間に働く短距離ファンデルワールス力により説明することができる。すなわち、図3.1のように液体内部にある分子は統計的にすべての方向へ等しい大きさの力を受けるが、気/液界面にある分子は不均衡な力を受ける。したがって、液面近くに存在する分子どうしには互いに引き合う凝集力が発生することになる。液体の表面張力は、液面1
m当りに働く直角方向の力で、単位はN/mで表される。例えば、水の表面張力は0.0723 N/m (at 20 ℃)、エタノールは0.0223
N/m (at 20 ℃)である。
である。ここで、全膜面積を とすると、 であるから、式(3.1)は
となり、これを変形すると
となる。式(3.3)の右辺は単位面積当たりの仕事量となる。仕事量は自由エネルギー変化 であるから、 であり、さらに式(3.3)を積分すると次式が得られる。
これが、表面張力を表面自由エネルギーとも呼ぶ所以である。表面を新しく作るとき、余分の自由エネルギーが表面に蓄えられ、その表面を維持しているとみることができる。
ここで、 Tcrは臨界温度、C は液体の種類に依存し実験的に決定される定数である。
ここで、 Rは気体定数を表わす。式(3.6)において、界面活性物質のように表面張力が溶質濃度と共に減少する、すなわち
(d
ここで、重力が無視でき、界面が平衡にあるとき、これらの力の間には次式の関係が成立する。
式(3.8)中 は、図3.4に示すように固液接触点から固体の垂直面上に引いた接線がなす角度であり、接触角とよばれる。式(3.8)に式(3.7)の力の値を代入すると、ヤングの式とよばれる次式を得る。
もし、表面張力の値が次式に従うならば、
ならば このプロットを結ぶ直線を外挿し、 cos
ここで、r はリング半径、β は補正係数である。
ただし、液体と板との接触角は0とする。
ここで、 |
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地上で観察される液体の表面形状は、ほぼ重力により決定される。しかし、重力の効果が弱い微小重力環境下での表面形状は、液体に働く力が表面張力だけの場合は球となるが、遠心力、静電気力、電磁力、音場による圧力など、表面張力以外の力が液体に作用すると、それぞれの力に応じて球から変形する。例えば、微小重力下において音波浮遊装置により液滴に音場による力を作用させると、その平衡形状は楕円体となる。さらに、容器内の液体の表面形状は、外力の作用だけではなく、容器形状あるいは液体と容器壁との濡れ性に影響される。このように微小重力環境下では条件によって様々な液体の表面形状が観察される可能性があり、実験を行う上で表面形状を予測することは極めて重要である。
で近似される。この過程に必要な仕事は、液体の表面張力を
となる。三角形の相似の法則から、
となり、いわゆるYoung-Laplaceの式が得られる。ここで、pg は気体内圧力、
pは液体内圧力である。気体内圧力pg は、通常一定として扱われる。一方、液体内圧力 p は液体内に運動が無いものとして以下のようにして導出できる。
ここで、 もし、体積力が既知で積分可能であれば、液体内の圧力分布は、式(3.19)を積分することにより求めることができる。
式(3.19)は容易に積分することができ、その結果液体内の圧力p はポテンシャル関数
ここで、 c は積分定数である。なお、全ての体積力が式(3.20)のように表現できるわけではないが、ここで対象とする重力あるいは遠心力については、次式のポテンシャル関数を用いて考慮することができる。
ここで、
を得る。 式(3.23)が液体の平衡表面形状に関する支配微分方程式であり、表面形状は液体に作用する体積力と表面張力により決定されることを示している。なお、境界条件として、固体すなわち容器壁、液体及び気体が接触する3相接触線上において、Youngの式
が満足されなければならない。加えて、液体の自由表面形状を解く場合には、対象としている液体の体積が一定という拘束条件を課す場合が多い。
ここで、∇f は関数 f の勾配であり、 (∇・)はベクトルの発散を示す。また、式(3.25)中の符号は、自由表面に対する単位法線ベクトルが液体から気体に向かう場合に正となる。式(3.25)を式(3.23)に代入すると、f に関する偏微分方程式
が得られるから、これを解くことにより表面f が求まる。
ここで、
となり、自由表面と容器壁が接する3相接触線上では、もちろん
となる。式(3.29)は、接触角 の方向余弦が、図3.8のように自由表面に対する法線ベクトル
と表されることから具体的に導くことができ、直交座標系においては次式となる。
ここで、式(3.31)中の符号は、液体がz 軸に対して表面 Sの上にあるか下にあるかによって異なる。
が得られる。いま、式(3.32)を代表長さ Lで無次元化すると、次式の自由表面に関する無次元支配方程式が得られる。
ここで、B 0 及び R 0 は次式で定義されるボンド数及びrotation numberであり、それぞれ重力及び遠心力に対する表面張力の比を表わす無次元数である。
式(3.23)のYoung-Laplace式は、液体の自由表面における力のバランス式である。一方、熱力学的平衡状態が、系の全エネルギーを最小にする状態として定義できることを考えると、自由表面の平衡形状は、系の全自由エネルギーを最小にする解であることがわかる。液体に働く力が表面張力
と与えることができる。式(3.35)式の第一項は液体の表面エネルギーを、第二項は液体の容器壁に対する付着エネルギーを、第三項は重力と回転によるポテンシャルエネルギーである。ここで、
Sは液体の全表面積、 Slsは容器壁の濡れ面積、 Vは液体の全体積である。付着エネルギーは、Youngの式(3.24)により、接触角
平衡条件は系の全自由エネルギーが極値を持つことであり、これは式(3.35)を汎関数とする変分問題である。すなわち、汎関数
PE の第1変分 を満足する解が平衡表面形状となる。この平衡形状は、汎関数PE に対するEulerの方程式を満足しなければならない。このEulerの方程式が、式(3.23)のYoung-Laplaceの式である。なお、式(3.36)からは、極値が最小であるか、最大であるかは判断できない。すなわち、得られた平衡形状が安定であるか否かは、さらに PE の第2変分の値が正、
となる条件が必要になる。 |
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式(3.26)を式(3.30)の境界条件のもとで解くことにより、容器内の液体の任意の自由表面形状を求めることができる。しかし、実際に我々が観察する液体の表面形状は軸対称形である場合が多い。円筒あるいは球状容器内の液体、2枚の円板間に挟まれた液柱、あるいはノズルから懸垂する液滴の表面形状などがその例である。ここでは、軸対称自由表面の平衡形状に関する支配方程式及び境界条件について考える。
と与えられる。ここで、図3.9のように、s の増加する方向に対して液体が左にある場合、式(3.47)中の符合は + となる。さらに、 軸と曲線の長さ とのなす角を β=β(s)とすると、
となるから、式(3.47)は以下の微分方程式に変形することができる。
従って、軸対称自由表面形状に関する支配方程式は、式(3.2.9)に式(3.42)を代入することにより得られる次式となる。
式(3.40)をs について微分すると、次の関係式が得られるから、
式(3.42)は、さらに r 及び s に関する以下の2つの微分方程式に分けることができる。
従って、 r と z に関する式(3.44)及び式(3.45)を同時に解くことにより、平衡形状を表す曲線 の座標を決定することができる。なお、解は次式の形状に関する拘束条件を満たす必要がある。
いま、体積力として重力及び回転による遠心力を考慮するために、式(3.2.8)で与えられるポテンシャル関数
となる。ここで、
である。
ここで、s = 0 は、 z 軸と曲線 l との交点、すなわち
r = 0 の点とした。
z 軸と曲線 l との交点の座標、r=0 , z=0 を代入すると、
となる。すなわち、軸対称系において、 kは対称軸 r = 0 での液体表面の平均曲率であることがわかる。ここで、R(0)
は対称軸における表面の曲率半径である。
となる。ここで
と求めることができ、またR は容器壁面の r=R(z) 座標を示す。
以上より、軸対称自由表面形状は、式(3.50)及び式(3.55)の初期条件及び拘束条件のもとで、式(3.48)と式(3.48)を積分することにより求めることができる。これら微分方程式は非線形であり、解析解は非常に限られた条件に対してのみ存在する。その一例が、無重力下での非回転容器内の液体表面形状である。それ以外の条件においては、数値解析を行わなければならない。 |
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式(3.62)及び式(3.63)は、b = 0 及び
式(3.57)を積分し、式(3.3.12)の初期条件を適用すると、次式となる。
これを式(3.56)に代入すると、以下の方程式が得られる。
式(3.59)は容易に積分することができ、式(3.3.12)の初期条件を適用すると、r(s) に関する次式を得る。
同様に、 z(s)に関する解は、
となる。従って、 r > 0 における自由表面の形状は、中心が点 (0,2/k)、半径 2/k の円の一部となる。なお、詳細は省略するが、平衡形状の安定性の解析によると、得られた表面形状は安定であり、このような形状は実現可能であることがわかった。すなわち、無重力環境下における軸対称自由表面形状は、球面の一部となる。
従って、接触角
ここで、 Aは容器壁と液表面との接触点である。従って、容器壁面の形状関数 R(z) 、接触角 それぞれの βA とzA の値は以下のとおりである。ただし、(d)の球状容器内の液体については、式(3.72)及び式(3.73)を解くことにより、βA
, (a)
(b)
(c)
(d)
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| ここでは、重力下での液体の自由表面形状を考える。ただし、回転はないものとする。この場合、式(3.47)と式(3.48)において、b≠0
及び
いま、式(3.74)及び式(3.75)を無次元化するに当たり、b が L-2 の次元を有することから、代表長さとして 1/√b を用いると、以下の無次元変数を定義することができる。
これらの無次元変数を用いると、式(3.74)及び式(3.75)は次式となる。
ここで、b =
また、式(3.78)に xを掛け、対称軸から容器壁にわたって積分すると最終的に次式の拘束条件を得る。
ここで、V1=
すなわち、t=0 の点から式(3.77)及び式(3.78)を積分する際には、式(3.81)で与えられる漸近解を初期条件を規定するために用いることになる。なおその後は、通常の積分操作が進められる。
q の値の正負により、自由表面形状は 軸に対して反転することがわかる。この性質から、q>0 の表面形状だけを求めれば十分であり、これら反転対称にある2つの解は、図3.12に示すように、それぞれ液体と気体が置き換わり、接触角が互いの補角となる関係にある。 図3.13に2つ のqの値に関する平衡形状を示す。すなわち、それぞれの
qについて、 t=0 から式(3.77)及び(3.78)を t に関して積分していった結果である。いずれも いま、容器壁面と自由表面との交点Aの座標を(xA , yA) と仮定する。このとき、拘束条件式(3.3.17)を考慮し、式(3.80)をq に関して解くと、 となる。もし、仮定した(xA , yA) の値が正しければ、式(3.83)のqA の値を用いて、次式の初期条件のもと、
点Aから対称軸まで式(3.77)及び式(3.78)を積分し得られる結果は、この問題に対する真の表面形状を与える。ここで、この正解は式(3.79)の x=0での条件を満足しなけらばならない。一方、仮定した qの値が正しくなければ、積分の結果は、図3.14のA1〜A3に示すような対称軸と交差することのない解を与える。 具体的な解析手順は以下のとおりである。容器壁面上にある程度離れた2つの接触点A1
(x1 , y1), A2(x2 , y2)を選択する。式(3.83)から得られるq1
、q2 を用い、式(3.77)及び式(3.78)を積分し、2つの表面形状を求める。このとき、いずれの表面も同じ方向にUターンするならば、新たに点A1あるいは点A2を選び、図3.14のように2つの表面の進行方向が逆となるようにする。次に、この2つの接触点A1,
A2の間に、新しい接触点A3, A4を選び、再び2つの表面形状が逆方向に向かうようくり返す。この操作を、2つの接触点の間隔を狭くしていくことにより正しい表面形状が見つかるまで繰り返す。ここで、正しい表面形状とは、対称軸で
|dy/dt| < これまでは、地上での液体の軸対称表面形状を求める方法として、Young-Laplace式を初期値問題として数値的に解く方法について述べた。しかし、この初期値問題は、3.2節で述べたように系のポテンシャルエネルギーに基づく変分問題として表面形状を解くことと等価である。ここでは、図3.16に示すような平板からの懸垂液滴の表面形状を対象とし、ポテンシャルエネルギーに基づく変分問題として数値的に解く方法について説明する(5)。 懸垂液滴の総ポテンシャルエネルギー PE は、図3.16のような曲座標系 においては次式により与えられる。
右辺第1項は気液表面エネルギー、第2項は重力に基づくポテンシャルエネルギー、そして第3項は固液界面の有するエネルギーである。ここで、(
また、液滴の体積 は一定で、次式により与えられる。
したがって、接触角が
ここで、 KはLagrangian乗数である。
のもとで式(3.88)を極値にする解を求めることになる。
のように表されると仮定すると、F が極値となる必要条件は次式となる。
ここで、添字0は平衡値を、また添字1は変動値を示す。この問題は、典型的な変分問題であり、式(3.91)から得られるEulerの方程式が、Young-Laplace式となり、Lagrane乗数が
kとなる。また、式(3.85)より接触角に関する境界条件が得られる。
のように近似する。これを、式(3.91)に代入して得られるR0i に関する非線形代数方程式を解くことにより、界面形状を求めることができる。図3.17に、解析結果の一例として体積の異なる水滴の平衡形状を示した。 いずれの平衡形状に関する問題においても、式(3.91)は有効ポテンシャルエネルギー Fを極値ならしめるための必要条件にすぎず、平衡形状の安定性の条件としては不十分である。形状の安定性を調べるためには、任意の形状変動を加えたときに、系のポテンシャルエネルギーが増加するか、減少するかを調べる必要がある。全ての形状変動に対して液滴のポテンシャルエネルギーが増加する、すなわちそのときのポテンシャルエネルギーが極小値であれば、表面形状は安定である。従って、平衡形状が安定であるためには、全ての形状変動に対して、以下の不等式を満足する必要がある。
ここで、
詳細は文献(5)にゆずるが、式(3.93)の安定性の条件は固有値問題に帰着する。ここで、全ての固有値が正であれば、 |
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剛体回転している液体の自由表面形状は、式(3.47)及び式(3.48)において、
いま、代表長さとして
を用いて式(3.95)及び式(3.96)を無次元化すると、次式が得られる。
同様に、初期条件式(3.3.12)を無次元化すると、
となる。
図3.19に、 -4.0 < q <
4.0 の範囲における自由表面形状を示す。しかし、実際には、 q の値は接触角
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ここでは、式(3.47)及び式(3.48)の完全形、すなわち重力下の回転軸対称表面形状に関する問題を扱う。数値積分を行うに当って、これまで同様に、
さて、式(3.47)及び式(3.48)を解くに当たり、これまで同様に支配方程式を無次元化する。ここでは、代表長さとして、容器の半径のようないわゆる物理的長さ Lを用いる。すると、自由表面に関する支配方程式は
となる。ここで、 Bo =
のもと、式(3.102)及び式(3.103)をこれまで同様に数値的に解くことにより、自由表面形状を求めることができる。 |
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ここでは、前節までに軸対称自由表面形状に関して行った議論を、2次元表面形状について行う。2次元表面とは、直交座標系 自由表面形状に関する支配方程式は以下のようになる。
ここで、
ただし、2次元表面は回転対称ではないから、ポテンシャル関数
いま、g = 0 、すなわち無重力下の2次元自由表面形状を求めてみる。このとき、支配方程式は次式となる。
式(3.110)及び式(3.111)は、容易に積分することができ、その解は
を定義し、式(3.107)及び式(3.108)を無次元化すると、
となる。ここで、
いま、式(3.113)を式(3.115)の初期条件の下で積分すると、
となる。式(3.113)及び式(3.114)は、 以上の解析では、自由表面形状に及ぼす容器壁面の影響は考慮されていない。壁面を考慮するためには、軸対称の場合と同様の取り扱いをする必要がある。
容器内の液体を対象とする場合には、式(3.113)あるいは式(3.114)のように、
いま、座標原点を
従って、式(3.120)の初期条件のもと、式(3.118)及び式(3.119)を数値的に積分することにより表面形状が得られる。図3.22は、 |
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これまでは、液体が静止している場合の安定な平衡自由表面形状について考えてきた。しかし、条件によっては、自由表面に発生した波が減衰せずに増幅し、その結果として表面が崩壊する場合もありうる。このような自由表面が不安定になる条件は、流体力学的な安定性の解析により取り扱うことができる。本節及び次節では、具体例として容器内の液体の振動を取り上げ、自由表面の安定条件について考える。さらに、3.11、3.12節においては、ノズル先端に形成された液柱あるいは2つの固体板に挟まれた液柱の安定性について流体力学的に考察する。 解析に当たり、容器内の液体を非粘性、非圧縮性流体とし、非回転(渦なし)流れであるとする。また、液体と接触する気体は静止しているものと仮定する。このような流れ場に対しては、速度ポテンシャル
に、速度ベクトル
を代入して得られる次のLaplaceの方程式となる。
次に境界条件を考える。液体が満たされている容器の壁面が剛体であるとすると、壁面の境界条件は、固体壁に対する法線方向の速度成分
で与えられる。ここで、
で与えられる。ここに、
なお、非圧縮性流体の場合、液体の体積は運動中常に一定でなければならないので、自由表面の面積を S とすると、条件、
が満足されなければならない。
ここで、 pgは気体内の圧力、
より与えられる。ここに、
となる。ただし、R1’と R2’と は変形後の自由表面の曲率半径である。ここで、液体の運動及び表面の変形が微小であるとすると、Bernoulliの式(3.126)の第2項は無視することができ、さらに式(3.127)を代入すると、式(3.126)は以下のようになる。
ただし、pgが一定であることから、式(3.128)ではpg -
静的な自由表面に関しては、
が成り立つ。
自由表面の変形が微小な場合、表面 Sの法線方向への変位
ここで、n は表面 Sの任意の位置の法線方向距離で、 R1’(n)=R1
である。同様に、変形表面に作用する体積力のポテンシャル関数
表面S’ に関する全ての関数 f、すなわちR1’、 R2'と
, 及び
式(3.131)に対して、式(3.134)の近似を適用し、さらに静的自由表面形状に関する式(3.130)を用いると、次式を得る。
ここで、式(3.135)の第2、3項は、ラプラシアン ▽2 を用いると、
となる。従って、式(3.136)を式(3.135)に代入することにより、次式の微小変形に関する自由表面の動力学的条件を得る。
以上より、微小振幅のスロッシング問題は、速度場の支配方程式である式(3.120)、表面の運動学的及び動力学的条件である式(3.123)及び(3.137)、質量保存則の式(3.124)に加えて、容器壁面上での境界条件 (3.121)と次式の接触線における条件から設定される初期値・境界値問題となる。
ここに、 eは固液接触線での自由表面の接線方向距離である。また、
を用いて無次元化すると、スロッシング問題の支配方程式は、
となる。また、境界条件は、容器壁では、
自由表面上では、
となる。ここで、A0 は、
である。さらに、式(3.124)と(3.138)は、
となる。
ならば、この系は流体力学的に安定であると判断される。速度ポテンシャル
の形の解を持つことができる。このような解は基本モードとよばれる。同様に、他の変数も
となる。ここで、
である。式(3.146)及び(3.147)を式(3.140)から(3.144)に代入し、得られた式から eiwtを消去すると、x座標 だけに依存する以下の支配方程式と境界条件が得られる。すなわち、支配方程式は、
となる。境界条件は、容器壁では
自由表面 S 上では
となり、容器壁面上の接触線での条件は、
で与えられる。なお、以上の導出に当って、速度ポテンシャル
が用いられた。また、式(3.151)の定数q は、Bernoulliの式の積分定数であり、ここでは解の一つとして決定される。 |
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| この節では、図3.24に示すような平坦な底をもつ筒状容器内の液体のスロッシングを対象とし、3.9節で導いた固有値問題を具体的に解いてみよう。ここで、筒状とは、容器側壁面が図3.24のように
z軸と平行にある場合をいう。 解析に当り、液体に作用する体積力は重力だけであり、容器壁と液体との接触角
また、
となる。ここで、h は液深さを表す。一方、自由表面における動力学的及び運動学的条件は、
で与えられる。なお、この問題においては、
従って、式(3.160)を支配方程式(3.155)と境界条件(3.157)及び(3.159)に代入すると、
及び
が得られる。また、式(3.158)から と に関する次式を得る。
ここで、
で与えられる。
変動
で与えられる。ここで、
は適当な境界条件のもと、変数分離法により解くことができる。すなわち、F を
とおいて解くと、
となる。
である。また、臨界ボンド数 Bocは、式(3.171)を用いると、
となる。ここで、円筒容器内の液体の最小振動数に及ぼす重力の影響を考えてみる。振動数の2乗は、
で与えられるから、これに半径(r0 ) 100 cmの円筒容器に、高さ(H=hr0
) 100 cmまで水が満たされている場合を適用してみる。地上(g=981 cm/s2)では、式(3.173)の第2項が第1項に比べて大きいため、 |
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| 自由表面の安定性に関する別な例として、円形断面のノズルから空気中に流出する液体を考える。ノズル内部を通過する液体の流量が非常に小さい場合は、ノズル先端から液滴が周期的に生成し、落下する。しかし、流量が増加すると、図3.25に示すように、ノズル先端には液柱が生じ、液柱のある長さのところから均一な液滴が発生するようになる。これは、液柱の表面張力に起因する不安定性によるものである。ここでは、非粘性液体からなる液柱を対象とし、その安定性について3.9及び3.10節と同様に線形安定性理論に基づき考察してみる(5)。
解析に当り、重力の影響は無視でき、液柱は一様な速度 Uで水平方向に移動しているものと仮定する。いま、液柱と同速度 U で移動する円筒座標系を考える。このとき、液柱に対していずれの撹乱も与えられていなければ、液柱内の速度は0であり、圧力 pは一様で、Young-Laplace式より
となる。ここで、
ここで、ur ,uz は r, z 方向速度成分である。式(3.175)及び(3.176)に速度ポテンシャル
を代入し、これを積分すると、 p と
ここで、積分定数は、変動が無い状態(
いま、液柱に与えられる任意の撹乱はz 軸に沿って周期的であり、時間と共に単調に成長あるいは減衰するものと仮定すると、
式(3.179)の解
ここで、 kは撹乱の波数、
式(3.181)の解はBessel関数 I0 とK0 となるはずであるが、K0は
r=0で特異であり、中心軸で速度が有限となる境界条件を満足しない。そこで、
式(3.182)を式(3.180)に代入し、さらに式(3.177)及び(3.178)を用いると次式が得られる。
いま、任意の撹乱による液柱半径 R の変化を
とする。ここで、変動
であるから、
となる。
が成立する。ここで、表面の曲率は、
と近似することができるから、式(3.187)は以下のようになる。
ただし、式(3.189)は
式(3.180)から、
をとる。すなわち、この速度に相当する撹乱が最も速く成長することになる。いま、最も速く成長する撹乱により液柱が不安定となり分裂し、その先端から液滴が生成するものとすると仮定すると、その時の液柱の長さ Lは、以下のように与えられる。
また、このとき液柱の変動は以下のように成長することになる。
ここで、
従って、液滴が生成するのは、 L*=Ut*となる。これを無次元化すると、
となるから、 ここで、
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本節では、図3.26に示すような2つの円板間に挟まれた液柱の安定性について考える。ただし、固体と液体との接触線は上下の円板の端に固定されているものとする。系のポテンシャルエネルギーに基づく安定性の解析については、すでに3.5において述べたので、ここでは流体力学的な安定性理論に基づいた解析について述べることにする。
ここで、代表長さを円板半径
を用いて無次元化した。また、
液体表面における動力学的条件は、次式となる。
ここで、
なお、式(3.198)及び(3.202)は、液柱のアスペクト比 以上の微分方程式をもとに、液柱の安定性を線形安定性理論により解析してみる。すなわち、定常状態に対し微小な撹乱を加えて、撹乱が時間とともにどのように発展するかを確かめる。この場合の定常状態は、静止状態をさす。いま、撹乱を伴う液柱半径
式(3.203)を式(3.198)、(3.201)及び(3.202)に代入し、微小撹乱であることから
以上の式から
また、上下の円板における f の境界条件は次式となる。
いま、式(3.207)の解を
とすると、式(3.207)よりに関する以下の常微分方程式を得る。
この微分方程式の一般解は
となり、は以下の方程式の4つの根、
すなわち、
である。ここで、物理的に意味のある解は、
の場合である。いま、
以上得られた解を用いて、式(3.209)の さらに、式(3.216)を式(3.208)の4つの境界条件に代入すると、 しかし、式(3.213)から、
式(3.217)は
そこで、無重力下で、上下の円板の半径が
の条件を満たす限り、円板間の液柱は安定となることが予測され、本節の解析結果と同じ結果が得られる。 本来、液柱の安定性には重力の影響が大きく、液柱が安定に存在する液柱の最大長さは、無重力の場合よりも短くなるはずである。しかし、本節の安定性の解析結果には、重力の影響すなわち
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| 1. Adamson, A. W.: “Physical Chemistry of Surfaces”, John Wily & Sons (1982) |
| 2. 日本化学会編: 「コロイド科学 I 基礎および分散・吸着」東京化学同人 (1995) |
| 3. 北原文雄: 「界面・コロイド化学の基礎」講談社サイエンティフィック(1997) |
| 4. Antar, B. N. and V. S. Nuotio-Antar: “Fundamentals of Low Gravity Fluid Dynamics and Heat Transfer”, CRC Press (1993) |
| 5. Hozawa, M., T. Tsukada, N. Imaishi and K. Fujinawa: J. Chem. Eng. Japan, 14, 358-364 (1981) |
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| 7. Middleman, S.: “Modeling Axisymmetric Flows”, Academic Press (1995) |
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