2011年6月13日
一部用語および感想にてご指摘頂いた表現を修正しました。
2011年11月5日
頂戴したご指摘を参考に、銀の剣について、純銀のものではなく、鋼鉄の剣に銀の装飾を施し、その装飾に効果があるという記載を追加しました。
第一話
34日目 日本サーバー 【森14エリア】ユーザーハウス
簡単に自己紹介をしたい。
俺の名前はt-yamada1234という。
統合レベルは63、いや先ほど64になった。
ちなみに、鍛冶レベルが50で、魔法レベルが10、戦闘レベルが4だ。
分かりやすく言うと、プロの鍛冶師で、アマチュアの魔法使いで、雑魚の戦士だ。
そんな俺だが、現在何をしているのかというと、鍛えた鍛冶の技を用いて受注した依頼の品を製造している。
明後日までに俺が納品しなければならないのは、銀の剣2本、鉄の剣5本、木の矢50本、鉄の盾5つだ。
普通であればこのような短納期でこれだけの数量を用意することは出来ないのだが、俺には鍛え抜いた鍛冶スキルがある。
サービスで作成する等級を+10にしても納期内に全てを準備することが可能だ。
「どもー、ガルダン武器店です。
依頼の品を引き取りに来ましたがいらっしゃいますか?」
工房の入り口から元気の良い声が聞こえてくる。
そういえば、今日が納品日の依頼もあったな。
そんな事を思いつつ、俺は腰を上げた。
「ああ、いるぞ。
今そっちへいくから待っていてくれ」
朝起きたら知らない部屋の中で、外見は自分のプレーヤーキャラクターで、身に覚えのある能力を持っていた。
そう、いわゆるMMORPG系鍛冶屋ものである。
経験者に会うことができたら是非とも尋ねたいのだが、俺は元の世界に帰ることが出来るのだろうか。
「じゃあ確認するぞ。銀の剣が2本、鉄の剣が5本、木の矢50本、鉄の盾が5個だったな」
店先には既に荷車が待機している。
護衛の冒険者三名を連れた武器屋は、俺の納品書と目の前の品を見比べている。
「はい、はい、確かに全部揃っていますね。
まあ、ヤマダさんの事だから、漏れなんてあるわけもないですけどね」
報酬の銀貨が詰まった革袋がカウンターに置かれる。
これだから鍛冶屋は素晴らしい。
厳密に言えば販売店である彼らのほうが多くの利益を得ることができるが、俺は納品先さえ確保すれば安定した生活を送ることが出来る。
今のような地道な仕事を繰り返し、最終的に高額な製品の単価で稼げるようになれば万々歳だ。
「銀の剣の質を是非とも見てやってくれよ。
通常の倍はいい物のはずだぜ」
念を押すだけのことはある。
銀の剣とは言っても、実際には銀の装飾を施した鋼鉄の剣である。
だが、魔属性のものに大きな効果を発揮する銀の装飾があることにより、ただ鋼鉄の剣よりもモンスターに対して大きな効果を発揮することが出来る。
銅より鉄、鉄より鋼鉄、鋼鉄より銀と、基本的にはランクが上がるほどに武器としての能力と価値は増大する。
この世界、NPCの場合は熟練の鍛冶師の一生に一度の最高傑作で+3が限界である。
これがプレーヤーキャラクターとなると、鍛冶レベルに応じて+7だの8だのを片手間に量産することが可能だ。
武器自体のランクによって出来る等級は変わってくるのだが、最低ランクに近い鉄の剣であれば驚異の+10にすることも余裕なのだ。
そして、俺のように鍛冶レベルが最高の50になると、大抵のものは流れ作業で+10になるし、気合を入れればどんなものでも+10まで上げることが出来る。
まあ、そんな事をするとこの世界で初めて物を売ったときのような騒ぎになってしまうのだが。
そういやあの悪徳商人たち元気かな?
俺の足を切り刻んで奴隷にしようとしてきたので足を切り飛ばして洞窟に放置しておいたが、もう全員死んじゃったかな。
「そりゃあもう、私は親方ほど目利きではありませんが、こいつがいいものであることはよく分かります!
いやー初めてヤマダさんを担当する事になったと聞いた時にはどんな罰なのかと気落ちしましたが、今では貴方が出来る人に見えない事を感謝していますよ!」
多分、悪気はないんだろうな。
護衛の冒険者たちがギョッとした表情を浮べている。
戦闘レベルが2の彼らからすれば、魔法の心得すらある俺を怒らせる事は死を意味する。
とはいえ、そこまで俺は短気ではないんだが。
「あー何度も言っているが言葉には気をつけろ。
気にしていないが、お前さん、褒めるどころか相当に失礼なことを言っているぞ」
苦笑しつつ訂正してやる。
どこの世界にもミスがなぜか許されるという存在がいるものだが、だからと言って誰も訂正しないというのは本人のためにならない。
特に鍛冶屋なんていうのは気難しい連中が揃っている。
俺が何でも笑って許してやったとしても、そのうち誰かに怪我をさせられることになるだろう。
「あー、いや、悪気はなかったんです」
武器屋見習いである彼女は、ぎこちない笑みを浮かべて謝罪の言葉らしいものを言う。
「これも何度も言っているが、謝るときは相手にはっきりわかるように謝れ。
下手な謝罪はしないほうがマシな結果になるぞ」
あまり説教じみたことは言いたくないが、ここは本人のためである。
もちろん時と場合によるが、それでもはっきりとごめんなさいが出来ることは社会人として必要なスキルだ。
「はい、すみませんでした」
今度は明らかな謝罪の言葉を発しつつ、彼女は手早く荷物をまとめていく。
これ以上あれこれと言うつもりはないが、まあ、いいか。
「それじゃあどうも。また発注してくださいね」
決まりきった言葉で別れを告げる。
今の俺の取引先はガルダン武器店しかないので、これでまたのんびりできそうだ。
「ええ、明後日ぐらいにまた伺うと思います。
ヤマダさんもお元気で!」
先程のやり取りを忘れてしまったかのように笑顔を浮かべた彼女も別れの言葉を口にした。
目礼してくる護衛たちを連れて、久々の来客は俺の住処から離れて行った。
「さてさて」
完全に視界から立ち去って行った事を確認し、俺は小屋へと戻った。
そこには全力で製作した武具が保管されている。
鉄の剣+10や、皮の鎧+10はもちろんの事、オーク材の弓+10や木の矢+10など、卑怯極まりない装備の数々である。
いずれも俺のレベル上げのために用意した数々だ。
「取り敢えず全部持っていくとして、今回の目標は、戦闘レベルを最低でも3は上げるとするか」
独り言を呟きつつも装備を身につける。
俺が住んでいる森14エリアは、戦闘レベル3から8辺りが適正だった。
つまり、レベル9までのレベル上げに最適なわけだ。
次の受注までは彼女の言葉を信じるならばあと2日。
それまでにもう少しレベルを上げておこう。
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