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異世界トリップものです。
第一部
第1話  プロローグ
 冬の寒い夜。

 その時、私、神崎 美鈴はご機嫌だった。

 久しぶりに会った友人とカラオケアニソン大会をして、今ハマっているゲームの裏設定や伏線についての解釈を大いに語り合い、旅行の土産を貰い、そのうえオススメされて初めて行った隠れ家風の居酒屋はめちゃくちゃ美味しかった。


「くー、寒い!」
 最寄駅を出てスマフォを見るとすでに12時近く。
 長々と語り合いすぎた。こんな時間まで遊ぶつもりはなかったんだけど、まあ明日も休みだし。

 今日熱く語り合ったゲームの考察を考えながら歩いていると、ふいに地面がぐらりと揺れた。

 三半規管が刺激される大きなうねりが一度きり。
 地震? と思った時には、私は真っ黒の中にいた。


 真っ暗、じゃなくて、まっ黒。

 明りがないから暗いんじゃなくて、なにか黒い霧のようなものが立ち込めているから黒い。

 乗り物酔いみたいにふらふらする頭を抑えながらまわりを見渡す。
 黒い霧はどんどん濃くなり、ここが広いんだか狭いんだか、外なのか部屋の中なのかも判らない。

「なによこれ。なに?」

 私よっぱらいすぎ? さっきのは地震?
 ううん、違うよね。これなに? ここどこ?


 なにか、とてつもなく、危ない状況なんだとやっと頭がまわりだして、まわりだしたからこそやっとテンパリはじめた私は次の瞬間、こんどこそ絶叫した。

 ふいに霧の中から手がのびてきて、いきなり私の左手の二の腕をつかんだのだ。

「ぎゃあああああ!!!!!!!!!!!!!!」


 『腕』は「こっちにこい」とばかりにぐいぐいひっぱってくる。

 いやいやいやいや離せってば。
 『腕』の先は霧にまぎれていてよく見えない。
 黒い中からにょきっとはえた腕はかなりのホラーだ。


「いやあああ!!」

 叫びながら必死であらがう。

 『腕』の先にあるであろう身体のあたりを狙って蹴ってみてもスカッと空振りするだけ。

「ぐああ! はなせー! ぎぇえええ!!」

 もうなに言ってるか自分でも判らない奇声を発して必死でひっぱりあいを続けていると、
 もう1本、霧の中からまた他の『腕』がにょきっとでてきて、今度は右手の二の腕をつかんできた。

 1本目と同じ方向へひっぱってくる。
 両手を前にひっぱられるけど、行けるわけないから! きもいから! こわいから!
 あっちに行ったら悪いことが絶対起きる。危険だと私の危機管理センサーがびんびん伝えてくる。
 ものすごいエマージェンシー。うん、だめ絶対。

 命をかけた綱引き。負けるわけにはいかない。



 前のめりにならないようにブーツのかかとをブレーキみたく両足でつっぱって、出来るだけ後ろへさがろうとする。

 なんとかしなきゃ!
 掴まれているのは両手の二の腕あたり。ひじから先はなんとか動かせるみたいだ。


 少しでも均衡がくずれたらすっころびそうな綱引きを続けながら、なんとか右手のひじをまげて
 左手を掴んでいる『腕』を掴もうとした。

 もうすこし。

 もうすこしで『腕』に届く、と思った時、今度は『腕』が2本いっぺんに現れ、右手首あたりをがっちり掴むとぐいっとひっぱられた。


 あやういバランスで支えていた身体の重心がずれてあっけなく倒れこみそうになる。

 ひっぱる『腕』達。

 黒い霧に飛び込む直前、私を掴んでいた『腕』達がふいに干からびていくのがちらっとみえた。
 ふりほどけるかもと身体を捩じって、『腕』がはずれた瞬間、私も霧に飛び込んでいった。
3/11 文言修正しました。
7/16 書式修正。文章若干修正。




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