与党も野党も、政治の責任を放棄している。そう言わざるを得ない。衆院の小選挙区定数を「0増5減」する新区割り法案がきのう、自民、公明両党の賛成多数で衆院を通過し、今国会の[記事全文]
日本はいったい、何を考えているのか。この国の為政者全体の国際感覚が、そう疑われても仕方がない。安倍政権の3閣僚に続いて、与野党の国会議員がきのう、大挙して靖国神社を参拝[記事全文]
与党も野党も、政治の責任を放棄している。そう言わざるを得ない。
衆院の小選挙区定数を「0増5減」する新区割り法案がきのう、自民、公明両党の賛成多数で衆院を通過し、今国会の成立が確実になった。
法案は、参院送付から60日たてば憲法の規定で否決とみなされ、衆院の3分の2以上の賛成で再可決できるためだ。
だが、これで終わりだと考える国会議員がいるとしたら、心得違いもはなはだしい。
たしかに、私たちは社説で0増5減の先行処理を求めてきた。しかし、無条件で与党を後押ししたわけではない。
0増5減は、あくまでも違憲状態を早急に解消するための緊急避難的な措置にすぎない。
それを踏まえて、一票の格差を根本から是正する。定数削減などは、小選挙区と比例区のバランスや衆参のあり方も併せて検討に入る――。
ところが、こうした抜本改革の見通しは、まったく立っていない。
それどころか、与党内からは0増5減を実現すれば事足れり、という声さえ聞かれる。それでは食い逃げではないか。
参院送付から60日が過ぎれば国会の会期末直前だ。東京都議選や参院選ムードが高まるなかで再可決しても、抜本改革の議論は進むまい。
そんなことは、とうてい許されない。
野党側の対応にも首をかしげざるを得ない。
抜本改革をめぐり、各党の意見はバラバラだ。そんなことでは数の少ない野党の主張が通るはずがない。
まずは野党同士が連携し、妥協してでも与党を議論の土俵に引き込む。そのうえで、期限を切って改革への道筋をつけるべきだ。
安倍首相のリーダーシップも見えない。
党利党略が絡む抜本改革の議論は、政党同士の話し合いで結論を導くのは難しい。
ならば首相の諮問機関である選挙制度審議会を立ち上げ、根本から検討するほかはない。
与野党に求めたい。
残った国会会期をむだにしてはならない。いまからでも与野党協議の場を設け、打開策を探るべきである。
現在の定数配分をめぐる訴訟でも、全国の高裁から違憲や無効判決が相次いだことを忘れてはならない。今秋にも最高裁で決着がつく。
国会が自浄能力を発揮する機会は、いましかない。
日本はいったい、何を考えているのか。この国の為政者全体の国際感覚が、そう疑われても仕方がない。
安倍政権の3閣僚に続いて、与野党の国会議員がきのう、大挙して靖国神社を参拝した。
「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」によると、その数168人。人数の把握を始めた87年以降で最多という。
政府や党の要職にある議員たちも多く加わった。国会議員の参拝数は、昨年の同じ時期と比べると、一気に倍増した。
隣国の神経を逆なでする行動が流行のように政治家に広がることを憂慮せざるを得ない。
参拝問題をめぐる日韓の摩擦の再燃について、米国務省の報道官も「対話で違いを乗り越えてほしい」と苦言を呈した。
自民党の高市早苗政調会長は「外交問題になる方が絶対おかしい」と語ったが、それはあまりにも独りよがりの発想だ。
外交とは、国同士の相互関係で紡ぐものであり、一方が問題ないと片づけることはできない機微にふれる問題なのである。
歴史問題をめぐる政治家らの思慮を欠く対応は、私たち日本自身の国益を損ねている。
北朝鮮に対する日米韓のスクラムでは、日韓のパイプが目づまりしてきた。さらに歴史問題がこじれれば、軍事情報の交換をめぐる懸案の協定も結べず、チームワークは進まない。
日中韓をめぐっては、自由貿易協定論議が遠のくだけではない。日本を置いて、韓国は中国への傾斜を強めている。
来月に外遊を始める朴槿恵(パククネ)大統領はまず米国を訪れ、その次は日本ではなく中国を考えている。歴代政権で異例のことだ。
北東アジアの多国間外交において、日本の孤立を招きかねない事態を、安倍首相はじめ政治家はどう考えているのか。
首相が立て直したと自負している米国との関係も誤解してはならない。オバマ政権は従軍慰安婦問題をめぐる「河野談話」の見直しや、尖閣諸島問題をめぐる不用意な言動を控えるよう安倍政権に警告してきた。
国内の一部の感情を優先して近隣外交を揺らすような日本の姿は、米国にとっても信頼に足る同盟国とは言えない。
だからこそ安倍首相は2月の訪米時に、アジアとの関係を重んじる決意を誓ったのではなかったか。「地域の栄えゆく国々と歩みをともにしてゆくため、より一層の責任を負う」と。
何よりも肝要なのは、中国、韓国との信頼関係づくりに歩を進めることだ。国を思うなら真の大局観を失ってはならない。