思考の断片(18) 
正平協全国集会と九条の会

野村勝美(ノムラカツヨシ)
2005.07.15

(第 47号 Aug.15.2005)

→PDF.

カトリック正義と平和協議会(以下、正平協という)の第31回全国集会が9月に横浜で行われます。23日より25日、三日間に亘る大会で、基調講演は奥平康弘氏(九条の会発起人)の「今こそ生かす平和憲法(仮)」。翌24日の第一分科会が「語ろう九条 世界の宝」(講師並びに司会・松浦悟郎補佐司教=ピース9の会呼びかけ人)というところから、この大会の大きなテーマが憲法問題であると窺えます。

「九条の会」は次の九氏を発起人として発足しました。
井上ひさし(作家)、梅原猛(哲学者)、大江健三郎(作家)、奥平康弘(憲法研究者)、小田実(作家)、加藤周一(評論家)、澤地久枝(作家)、鶴見俊輔(哲学者)、三木睦子(国連婦人会)
昨2004年6月10日に最初のアピールを出しています。

この「九条の会」に対して、戦略的とも思える支援をしているのが「日本共産党」です。2005年4月7日付「しんぶん赤旗」は、日本共産党第3回中央委員会総会における志位委員長発言を次のように伝えています。
http://www.shii.gr.jp/pol/2005/2005_04/J2005_0407_2.html

志位氏は、多数派結集のため、日本共産党には「二重の役割」が求められると指摘。一つは、憲法改悪反対の一点での国民的共同をつくりあげていくための役割で、「九条の会」の呼びかけにこたえて、草の根の「会」を全国津々浦々に広げるうえで、党として一翼をにない力をつくすことを強調しました。もう一つは、改憲勢力の論理を打ち破り、たたかいの大義と展望を明らかにする独自の役割を果たすことです。反戦平和を命がけで貫いてきた政党として、日本共産党の歴史と存在意義にかかわるたたかいだと強調しました。

同じく2005年4月27日付「しんぶん赤旗」は日本共産党全国交流会議においての上田耕一郎・憲法改悪反対闘争本部長発言を次のように伝えています。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2005-04-27/02_02_0.html

上田氏は、(・・・)「九条の会」の呼びかけにこたえ「その一翼をになう」という三中総(第三回中央委員会総会)の提起を踏まえ、草の根の組織を全国津々浦々に広げるうえで積極的な役割を果たすことなど、党の二重の役割を強調。保守や無党派の人も結集する「新しい挑戦」だとして、長野、高知、熊本、京都など各府県の運動経験から学んだ教訓を報告しました。(・・・・)
討論のまとめで、上田本部長は、三中総が提起した「どういう政治的訴えが大切か」の四点を本当に国民のものにしていく攻勢的な対話、宣伝がかぎになっていると強調。「九条を変えてもいい」と考える人も含め、国民の多数を獲得し情勢を変える条件はあると力説し、「日本共産党の真価を発揮する歴史的な時期に全党が本格的な取り組みを広げよう」と呼びかけました。

つまり、「九条の会」活動は日本共産党が“その一翼を担って”いるのであり、“日本共産党の真価を発揮する歴史的な時期”と位置づけているのです。これはもうスポンサーというよりオーナーであります。実際日本共産党は九条の会と連携しためざましい活動を、全国で展開しています。
更に、2005年4月16日付「しんぶん赤旗」によれば、
“全国の宗教者に「九条の会」アピールへの賛同を呼びかける「宗教者九条の和」の呼びかけ人”
として、4月15日現在55名、の名が発表されています。◎印は呼びかけ人世話役とあります。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2005-04-16/03_02.html
カトリック聖職者のみをピックアップすれば、

白柳誠一(カトリック 枢機卿)
池長 潤  (カトリック 大阪教区・大司教)
大倉一美(カトリック 東京教区・司祭)
大塚喜直(カトリック 京都教区・司教)
岡田武夫(カトリック 東京教区・大司教)
菊地 功  (カトリック 新潟教区・司教)
高見三明(カトリック 長崎教区・大司教)
谷 大二  (カトリック 埼玉教区・司教)
野村純一(カトリック 名古屋教区・司教)
松浦悟郎(カトリック 大阪教区・補佐司教)◎
三末篤實(カトリック 広島教区・司教)
宮原良治(カトリック 大分教区・司教)
溝部 脩  (カトリック 高松教区・司教)

55名のうちの13名ですから、ほとんど中核メンバーと言えます。と思いつつインターネットで検索しますと、“「宗教者九条の和」事務所”は、

〒135-8585 東京都江東区潮見2−10−10
日本カトリック会館内

にあり、何のことはない、カトリックに本拠があるのです。
http://www.shukyosha9jonowa.org/yobikake.html
この「正平協」のサイトでは溝部脩司教のお名前がありません。「赤旗」の発表しているものとどういう関係にあるのか分かりません。それにしてもこれだけ多くの高位聖職者が、日本共産党の政治戦略を分かった上で賛同なさったのでしょうか。分かった上でなら暗澹たる気持ちになります。分かっておられないなら、やはり暗澹たる気持ちになります。

以上のことから、「九条の会」「日本共産党」「カトリックの(正平協を中心とする)聖職者」は、憲法について一体と思える活動をしていることが分かります。松浦悟郎補佐司教の主導する“ピース9”も一環のうちにあるのです。ピース9の組織造り・拡大手法が、日本共産党の組織論の写しであることは、多くの人が指摘しています。

最近カトリック新聞紙上に、「自分は日本共産党員」であると宣言する信徒が現れました。信徒のみならず神父がそれを言っても私は驚きません。日本共産党と言わず朝鮮労働党に属する神父・信徒が必ずいると思っています。

ところでその日本共産党ですが、果たして『護憲勢力』なのでしょうか。
日本共産党は歴とした独自の「憲法草案」を持つ改憲指向政党なのです。
国立国会図書館のサイト
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/02/119/119tx.html
によれば、「日本共産党の日本人民共和国憲法(草案)(1946.6.29発表)というのがあります。これはほぼそのまま継承され、タイトルのみを『日本共産党憲法草案』として現在に引き継がれているのです。一部を抜粋します。

《前文より》
ここにわれらは、人民の間から選ばれた代表を通じて人民のための政治が行われるところの人民共和政体の採択を宣言し、この憲法を決定するものである。天皇制は、それがどんな形をとろうとも、人民の民主主義体制とは絶対に相容れない。天皇制の廃止、寄生地主的土地所有制の廃絶と財閥的独占資本の解体、基本的人権の確立、人民の政治的自由の保障、人民の経済的福祉の擁護 − これらに基調をおく本憲法こそ、日本人民の民主主義的発展と幸福の真の保障となるものである。

《第1章》より
第1条
 日本国は、日本人民共和国である。
 (2005.07.29訂正、「日本国は人民共和制国家である」)
第4条
 日本人民共和国の経済は、封建的寄生的土地所有制の廃止、財閥的独占資本の解体、重要企業ならびに金融機関の人民共和国政府による民主主義的規制にもとづき、人民生活の安定と向上とを目的として運営される。
(2005.07.29追記)
第5条
 日本人民共和国はすべての平和愛好諸国と緊密に協力し、民主主義的国際平和機構に参加し、どんな侵略戦争をも支持せず、またこれに参加しない。(追記、終)

不思議なことに「武力の不保持」「交戦権の放棄」等の文言は一切ありません。「新日本共産党宣言」における不破哲三議長の次の言葉は、この政党の本質が“護憲”でないことを示しています。独自の憲法草案を持つ政党が護憲であるはずがないのです。

私たちも、憲法というものが、永久不変であると考えているわけではありません。第一章で、将来は天皇制をなくす日がくるだろうという話をしましたが、これは、憲法の条項を変えなければ解決できない問題です。しかし、それは、あくまで将来の話、民主主義についての国民の考えがいまの憲法を乗り越えるまでにすすんだときに、問題になる話です。反対に、いま一部で言われているように、民主主義や平和の問題で、憲法を後ろ向きに変えようという憲法改悪は、日本の国民にとって、日本の社会にとって、有害無益の企てです。日本共産党は、これに絶対反対し、憲法を徹底して守りぬくものです。(P.169)

何のことはない、自分たちのやりたい方向では改憲賛成なのです。政治戦略上の判断から“今はその時期でない”と言っているにすぎません。その日本共産党の憲法草案に「戦力不所持」の文言はありません。武力を持たぬ共産政権などあったことがない。その筒先は人民にも向けられるのです。
私は昨日(2005.7.15)、あるカトリック学校の先生のお話しを伺いました。少子化という、いはば顧客数がどんどん減っていく中で生き残っていかなければならない。学校も又人気商売に違いないでしょう。必死で競争しているときに聖職者たちの一般常識からずれた発言は大きなマイナスである。平和を叫ぶのは気持ちいいことかも知れない。しかしそれには多くの前提条件があることを世間の親たちは知っている。いま日本のカトリックは、本来は布教の先頭に立たねばならぬ人たちが実社会の苦労を知らぬまま、布教に興味を持たず社会評論・政治活動をやるようになった。結果、ブランド・イメージを自らどんどん傷つけているのです。危険な下降期に入りました。

(終り)
=2005.07.15=

あなた方は加害者の横にいたのではないか

「カトリック正義と平和協議会」の異様
北朝鮮工作船

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