パークアンドライドのために整備された東員駅の駐車場=東員町山田で
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桑名市といなべ市を結ぶ三岐鉄道北勢線は4月、近鉄から経営を引き継いで10周年を迎えた。乗客数が回復し、約7億円あったとされる赤字は半分近くまで減ったものの、厳しい経営は続く。懸命に走る小さな列車の軌跡をたどり、今後を考えた。
北勢線を引き受けるメリットは何もなかった。「廃線になれば、多少不便になったとしても、並行して走る三岐線を代わりに使い、利用客の増加が見込めた」。三岐鉄道の種村尚孝鉄道統括専務は、近鉄が北勢線の廃線を発表した当時の内情を明かす。
ある意味、経営が苦しい三岐線にとって好機だったが、思惑は外れた。「経営を継承してもらえないか」。北勢線が通る桑名市と東員町、現いなべ市の四町から要請があった。
その頃、三岐線の車内冷房や駅構内の近代化に、約十億円の支援を東員町などの関係自治体から受けていた。そんな恩義もあり「ひと肌脱ぐことになった」(種村専務)。三岐鉄道の決断を受け、沿線自治体はリニューアルと赤字補てんの名目で十年間、総額五十五億円の援助を決め、廃線は回避された。
三岐鉄道は大規模なリニューアルに着手した。通勤・通学のパークアンドライドの環境をつくり、主要駅に無料駐車場や駐輪場を整えた。車内の空調と駅舎のトイレや待合室の整備も重点的に実施。二百万人を切りかけていた年間乗客数は次第に上向き、昨年度は二百三十八万人まで回復した。
ただ黒字化に向けては、通勤や通学の定期券利用者以外の利益率の高い乗客の確保が不可欠だ。
三岐鉄道は五年前から、平日の昼間や週末にシニア層を対象に沿線のハイキングを春と秋を中心に企画。多いときで参加者は三百人に上り、回数を増やすことを検討している。年末に親子連れの乗車を狙った「サンタ電車」も始めた。
一方、今年二月に大泉駅(いなべ市)に隣接する農産物直売所「うりぼう」の祭りでは、北勢線で訪れた人に鍋一食分の無料券を配った。三岐鉄道と沿線自治体でつくる北勢線対策協議会(現・北勢線運営協議会)の取り組みで、担当者は「乗客増には地道に知名度を上げる努力が必要」と話す。
赤字は当初より減ったとはいえ、昨年度は三億七千万円と額はまだ大きく、解消のめどが立っていないのが現実だ。沿線自治体による援助の期間は二〇一二年度で終わったが、協議を経て一六年度まで三年間、計約六億円の暫定支援が決まった。
同じように元近鉄路線で苦戦する伊賀鉄道(伊賀市)や養老鉄道(桑名市−岐阜県揖斐川町)と違うのは、乗客数が増えている点。種村専務は「一六年度までの黒字化は厳しいが、将来的には徐々に赤字の改善が見込める」とし、根拠に沿線の人口予測が将来的にも安定していることを挙げる。
「名古屋や桑名への通勤客も多く、増加が期待できる。自治体の支援に際限なく頼るわけにはいかない」と種村専務は力を込めた。
(井口健太)
◆視線
いわば助け舟を出した形で北勢線の経営を担ってきた三岐鉄道。十年間の税金投入で赤字が解消できず、厳しい目を向けられがちだが、まだ改善への途上と見るべきだろう。
ただ、三岐鉄道は慎重になるあまり今は「黒字化のめどは立たない」と話すのみで、沿線自治体は先を見通せないでいる。このままでは暫定支援の終わる三年後、再び税金投入をめぐって揺れるのは明らかだ。
必要なのは双方で協議を重ね、黒字化の目標時期を明確にすることだ。そうすれば協力姿勢が深まり、将来像がはっきり見えてくるのではないか。
<三岐鉄道北勢線>西桑名(桑名市)−阿下喜(いなべ市)の20・4キロを結び、13の駅がある。2000年、近鉄が赤字を理由に廃線を発表し、03年4月から三岐鉄道が経営を引き継いだ。四日市市の近鉄内部・八王子線、富山県の黒部峡谷鉄道とともに日本で3カ所しかない軌間762ミリのナローゲージ(特殊軌道)の路線。
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