気付くと、ここにいた。 空虚な部屋。 閉じ込められた部屋は広く、加えて物が殆ど置かれていない。 部屋の明かりはいつも付けっ放しで、仮に消そうとしてもスイッチの類はどこを探しても見つからなかった。 空調がいつも効いていて、寒くもなく暑くもない完璧なまでの空気が部屋に満ちていた。だから、季節感というものがまるで感じられない。 床はフローリングで、マットの類はなく、色彩に乏しい。 壁は頑丈だからなのか、隣から漏れてくる音は一切ない。 窓はブラインドが下ろされていたりカーテンを閉められていたので、外を見ることができなかったし、近付こうにも、右脚の鎖があるため届かない。それに、窓から入ってくる音も皆無で、部屋には静けさだけが漂っている。 仮に部屋の中で叫んでも、その声は空しく壁にぶつかるだけだ。いや、「吸い込まれる」だけなのかもしれない。 入り口のドアのそばにはクローゼットがあり、いくらかの着替えが用意されてあった。 この部屋にあるものといえば、ぼくが寝起きしている簡易ベッドとパソコンデスクに使えないパソコン一式が載せられてあり、ご主人様だけがお座りになるソファ、そして使い途が想像できない犬小屋のような大きな檻だった。 ベッドは入り口のドアに近い壁際に置かれ、そのドアを開けるとキッチン、トイレ、バスルームがあり、ぼくの右脚の鎖の範囲内でそれぞれに行くことができた。 キッチンも、いつも明かりがついていて、ここには小さな冷蔵庫と簡素な電子レンジがあった。 冷蔵庫の中は、たくさんのレンジフードとミネラルウォーターの大きなボトルぐらいしか入っていない。ただ、一つだけ気になったのは、鍵をかけられた小さくて白いプラスチックの箱があることで、ぼくはこの中身を知らない。 時計がなかったので、ぼくは自分の体内時計を頼りにして、寝食を繰り返した。 部屋にあったパソコンは全く使い物にならなかった。 組み込まれているはずの時計は、意図的なのか偶然なのか知る由もないが、日付が合ってなく、そこに表示されていた時刻はでたらめだった。日にちを数えるのには使えそうな気がしたが、数えても意味がないようにも思えた。 パソコンから延びているのは電源ケーブルのみで、通信はできない。コンセントを探したが、そのケーブルの先は壁の中に吸い込まれているように埋め込まれていた。 もちろん、テレビやラジオ、電話もない。 ぼくはこの部屋に、完全に外界から孤立しているのを知った時、どうしようもない怒りを感じたが、それをぶつける先が見つからなかった。 ご主人様は時々この部屋に来ているようだった。 それを知るのは、起きてから冷蔵庫の中を見た時だ。無機質なレンジフードやミネラルウォーターが増えているのだ。 ちなみに、それらは全てパッケージが剥されていて、賞味期限が分からないようになっている。ぼくに時間という概念を捨てさせるためだろう。 何もない部屋に閉じ込められ、足につながれた鎖を見ていると、ともかくここを早く抜け出さなくてはと思う。時には暴れる。けれど、その後にはどうしようもない無力感に襲われる。なぜなら、ぼくには何もすることができないからだ。道具もないし、抜け出す手段も考えつかない。 唯一考えられたのは、全ての鍵を持つ、ご主人様を脅すことだった。 どれぐらいの日が経ったのだろうか。 ある時、ぼくが起きている時に、ご主人様が季節感のないスーツ姿でやってきた、いや、お見えになった。 「さぁ、今日は『治療』をしてあげよう」 ご主人様を見ると、それまで言いたかったことが、全部頭の中から消えてしまった。 気付けばその一言一言に従ってまでいるのだ。 まず、着ている僅かな服――Tシャツとトランクスだけだ――を全部脱がせられ、目隠しをさせられた。そして四つん這いにさせられ、剥き出しのお尻を突き出させられた。 ぼくのカラダはそんなシチュエーションだけでも反応してしまう。 「どうして君は、見た目はこんなに綺麗なのに、中身は乱れた気持ちで汚れているんだろう?」 ご主人様は、そっとぼくのお尻に手を触れ、脚の付け根を弄る。 「ほら、たったこれだけのことなのに、君のものはもうぴんぴんになってる、イヤらしいヤツだよね」 優しく撫で回していたご主人様の手が突然乱暴になり、ぼくのお尻を叩いた。 「汚らしい!」 その時、ご主人様は、それだけで帰ってしまわれた。 妙に昂ぶったカラダは治まりきらず、引止めたにもかかわらず、足早のこの部屋を出て行った。 ぼくはトイレに駆け込み、自分の手で自分のカラダを慰めた。 それからしばらくは服を着る気になれず、けれどもそのままでいるのはとても空しいので、服を着て、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを口に含ませて、眠った。 次に目が覚めて用を足しにトイレに入った時、ぼくは身体中のムダ毛がないことに気付いた。 腋や、脚の付け根に脛……。それに顎。 無駄な体毛がさっぱりとなくなっている! それはまるで子供のカラダのようだった。 いつの間に……。 もしかしたら、眠る前に飲んだミネラルウォーターの中に、睡眠薬を溶かしていたに違いない。そして寝込んでいる間に、除毛薬を塗ったりしたのだろう。 剃るだけでは、どうしても根が残ってしまうけれど、触るとあまりの抵抗のなさから判断して、どうやら根から抜かれてしまっているようだった。 その日。床に座り込んで、ぼうっとしていた時、またご主人様がお見えになった。 「どうだい、そのカラダは? 気に入ったかい?」 「……、」 何も言えないまま、ぼくはご主人様を見上げた。 「さぁ、綺麗になったそのカラダをぼくに見せてくれ」 ぼくは子供のようなカラダを見せるのが恥ずかしくて、服が脱げなかった。 「さぁ、早く」 ご主人様は急かす。 でも、ぼくは脱げなかった。 「早く脱げっていいているだろ、オレの言うことには従うと約束したはずだ、さぁ、脱げ」 ご主人様は、声を荒げ乱暴に手を引っ張ってぼくを立たせた。 ぼくはご主人様の変わり様が怖くて、余計に身を固くさせた。顔なんて見れない。 「脱げよ」 それでも、ぼくは動けなかった。 「オレの手を煩わせるなよ」 急にご主人様の手が伸びてぼくを突き倒し、ぼくの着ているTシャツに手を掛けた。 ぼくは脱がされたくなくて、暴れたけれど、結局Tシャツは破かれた。トランクスも剥ぐように脱がされた。 床の上でハダカになり、手首を後手に縛られて、ご主人様にお尻を突き出している。 脚は閉じようとしても動かせない。 さっき、ご主人様のおっしゃることを聞かなかった罰だ。 両方の足首にロープが巻かれていて、その先はベッドの手摺に離れて結わえられていた。 ご主人様の手が、ぼくの脚の付け根を弄る。 「嫌そうなふりをしてても、カラダは喜んでいるじゃないか」 ぼくは首を懸命に振った。 反論をしたくとも、あの時のような箝口具を嵌められたので、出る声は呻き声のようにしかならない。 また涎が床に溜まっていく。 「もっと素直になれよ、まっ、カラダの中が乱れた気持ちで汚れきってるから素直になれないんだよな」 ご主人様が片手でぼくのお尻の谷間を押し開いて、穴にふっと息を吹きかけた。するとカラダ中の力が抜けたような気がした。 「今度はカラダを中から綺麗にしてあげようか」 ご主人様は、ぼくのお尻から手を離した。 後ろの方で、なにやらかちゃかちゃと音がする。股の間から覗き込んだけれど、ご主人様の背中しか見えず、結局何をしているのかが見えなかった。 ご主人様が向き直ると、大きな注射器のようなものを手にしていた。中には無色透明の液体が入っている。先には針がない。 「これ、何だか分かるかい? 君のために持ってきたんだよ」 ご主人様はそれを誇らしげにかざした。 「……」 ぼくはそれがなんて言うのか知っていたけれど、何も言えなかった。 「この中の薬で、君のカラダの中を綺麗にするんだよ」 注射器の先をぼくのお尻の穴にあてがう。 ぼくは身体を揺さぶって、抗った。けれども、そんな抵抗も空しく、ご主人様は何の躊躇いもなく、それを差し込んだ。 生温かい液体が、真っ直ぐ身体の中に入り込んできて、お腹の壁に当たる錯覚を感じる。 その間も身体を揺さぶって、少しでも止めさせようとしても、ご主人様は力づくでぼくを抑えつける。 「全部入ったよ、五〇〇ミリリットル、全部君の身体の中に入ちゃったよ」 そう言われた後、ぼくは自然と力を失った。何をしてもご主人様には逆らえないのだ、とカラダで感じたからだと思う。力なく床に倒れこんだ。 少しして、猛烈な便意が襲ってきた。 ぼくはトイレに行きたくて、身体を引きずらせてドアに向かおうとした。けれども両足首のロープがそうさせてくれなかった。 「ダメだよ、少しは我慢しないと、カラダの中の毒が出て行かないよ、……あと五分我慢したらそのロープを外してトイレに連れて行ってあげるよ」 動かせるだけ身体を動かして、それに耐えた。 カラダの中で何かがうごめく感じがして、熱くなる。 やがて、ご主人様は動けないようにしていた両脚のロープを解いてくれて、ぼくをトイレに連れて行ってくれた。五分経ったのだ。 「後始末は自分でするんだよ」 ドアを閉めた。 とにもかくも便器に座り込むや否や、たちまち穴から液体が噴出した。 排泄物は何の抵抗なく狭い穴を擦り抜けていく。お腹の筋肉が何度も自然と力む。太腿に涎が滴り落ちる。全てがぼくの意志を無視していた。 長い排泄を終えると、縛られている身体を何とか動かして、便器の汚水を流し、洗浄器で汚れた穴の周りを洗い流した。トイレットペーパーで拭くことは、両腕を縛られているので、叶わなかった。 「全部済んだかい?」 ご主人様がトイレに入ってきた。そして、うなだれているぼくを強引に立たせて、お尻の周りをチェックする。ついでに、それでもぴんと勃っているぼくのものを指で弾いた。 「さっ、もう一度するよ、綺麗になるまでするよ、さっ、おいで」 ぼくには歯向かう力はなく、ご主人様に従うだけだった。 再びご主人様に向けてお尻を突き出し、カラダの中に液体を受け容れた。 結局、それはあと四度も繰り返した。しまいには、透明な薬しか出てこなくなった。 その後、シャワーを浴びせられた。 「今度は、ここから君の乱れた気持ちをなくす薬を入れるよ」 ご主人様は、また身動きできないように縛られたぼくのカラダの後ろの穴を指でつついた。何度も排泄を繰り返したせいで敏感になっているその部分が、とても熱くなるのを感じた。 「その前に、まだ準備が必要なんだけどさ」 ご主人様は、指で穴の周りを揉みだした。カラダの内側に得も知れず、何とも言えない衝撃が伝わる。それはぼくのものを大きくさせた。 ご主人様は、時々は指を入れてきた。最初は一本だったのが、徐々に増えていった。穴の中でも部屋の中の冷たい空気を感じる。 「次は薬の準備だ」 ご主人様はおもむろに立ち上がり、スラックスのジッパーを開けて、まだだらりとしているものを出した。 「君が大きくさせるんだよ」 箝口具をはずし、頬を掴まれて強引に口を広げさせて、それを突っ込んだ。 「さっ、舐めるんだ」 ぼくは、そのやり方が分からなかったけれど、舌を使って舐め始めた。 ご主人様は、「もっと舌を使って」とか「首を前後に振って出し入れするように」とか「もっと音を立てて」とか「歯を立てないように」とか指示を出した。 やがて、それはようやく固くなってきて口いっぱいに大きくなってきた。ぼくは顎が疲れてきたけれど、舐め続けた。ご主人様のものが頬の内側をつるつるとすべる感触が何とも言えず、夢中になっていた。 「最初と比べて、だいぶうまくなってきたね」 ご主人様は、ぼくの頭を撫でて誉めてくれた。 そして突然、ご主人様は、それをぼくの口から抜き出した。そして、今度はその先をぼくの後ろの穴にあてがう。 「挿れるよ」 ぼくが返事をするまでもなく、それを挿れ始めた。 徐々にご主人様のものが入ってくる。 徐々に穴が広がる。 徐々にその部分が異常に熱くなっているのを感じる。 何かに突き上げられる感じ。 塞がれていく感じ。 そして、逆に開かれていく感じ。 後の記憶はない。 気付くと、ベッドで寝ていた。 部屋には誰もいなかった。 ただ白い空間だけが、静かに広がっていた。 |