秋田・鹿角のクマ牧場2人死亡:発生1年 26頭、新天地へ 遺族は悲しみ消えず
毎日新聞 2013年04月20日 東京朝刊
秋田県鹿角(かづの)市の秋田八幡平(はちまんたい)クマ牧場からヒグマが脱走し、従業員2人が犠牲となった事故から20日で1年。遺族の悲しみは癒えないが、残されたクマは、伝統的な集団狩猟を営む「マタギ」で知られる同県北秋田市阿仁で、地域の観光資源としての役割を担うことになった。
脱走したヒグマ6頭は事故当日に射殺された。残されたツキノワグマ6頭とヒグマ20頭については、北秋田市が県の支援を条件に受け入れを表明。県議会で公金支出への疑問の声が上がったものの、殺処分によるイメージ悪化を懸念した県は、同市の第三セクターが運営する阿仁熊牧場に新施設の整備費約3億4800万円を全額補助する方針を決めた。
阿仁地区はマタギの文化継承に取り組んでおり、三セクは牧場の他に、国重要有形民俗文化財の狩猟道具などを展示する資料館や温泉も運営する。だが、牧場の年間来場者数は09年度の2万1477人から年々減少。昨年度は8476人と1万人を割り、経営は厳しい。
ツキノワグマは昨年11月に阿仁に移され、現在子を含め6頭が生存。ヒグマも今年中に合流し、牧場のクマは計100頭を超える予定だ。三セクは「新施設を大学の研究機関や捕獲されたクマの保護センターとしても活用できれば」と期待する。
一方、当事者は事故を忘れることはない。犠牲になった館花タケさん(当時75歳)の長男剛さん(51)は「クマ出没」のニュースが流れる度に火葬場の情景を思い出すという。形見と思って引き取ったタケさんの犬の話になると、「散歩の時間になるとほえてね」と少し笑顔になった。廃業した牧場の元経営者の男性(69)は今も週に1、2回、残されたクマの世話を続けている。【小林洋子、田原翔一】