『悪徳・金権政治屋。小沢一郎』(42)
『悪徳・金権政治屋。小沢一郎』(42)
「朝日新聞出版刊『小沢一郎VS特捜検察・20年戦争』朝日新聞編集委員・村山治著」(18)
『第1章 検察VS.小沢事件』 「控訴審の盲点」
裁判所は、検察審査会の起訴議決を受け指定弁護士から起訴された小沢に対し、無罪を言い渡した。検察を含む多くの法曹関係者は「その結論は、よほど新たな事実が出ない限り、控訴審でも変わることはないだろう」とする。しかし、一方で「それほど盤石な判決とは思えない」との声もある。
「判決には、二つの点で問題がある」とある検察幹部は指摘する。
ひとつは、小沢本人が法廷で主張していないのに、裁判所が、わざわざ検察官役の指定弁護士や被告の主張とは別のストーリー(アナザーストーリー)を想定し、小沢の「故意の不在」を認定したこと。そのやり方がフェアではない。というものだ。これは、指定弁護士が判決後の会見で述べたのと同じ考え方に基づく判決批判だ。
もうひとつは、裁判所のアナザストーリーの合理性そのものに問題がある。との指摘だ。
指定弁護士、小沢側双方とも、64年度の収支報告書に記載された「収入」欄の「小沢一郎からの借入金」4億円が、陸山会が定期預金を担保に小沢名義で銀行から借りた4億円だとする点では争いがない。同時に、同年分の「資産内訳」欄の「預金等」には、4億円の預金増があり、それが陸山会の「定期預金」4億円だったことも争いがない。
小沢の故意が証明できないとする裁判所の論理の前提は「小沢の手持ちの4億円は、銀行に担保提供しただけで、小沢個人の資産にとどまり、陸山会のものになっていない、と小沢は認識していた。だから、小沢が、手持ちの4億円を収支報告書に書く必要はない、と考えてもおかしくはない」とするものだ。
その考え方を前提とすると、逆に、収支報告書の「預金」欄に「陸山会の定期預金4億円」を記載したことが問題となる。「小沢が自分のものにとどまっていると認識している4億円の定期預金」は収支報告書に書く必要がないのに、実際には記載され、陸山会に帰属したことになっている。それを書いたこと自体が虚偽記載になるとの見方だ。
小沢が、手持ちの4億円を「土地代金」として陸山会に貸し付け、陸山会に帰属したと認識していれば、それを記載しなかったことが虚偽記載になり、逆に、陸山会に帰属せず、小沢のものにとどまっていると認識していたのなら、「定期預金4億円」と書いたことが虚偽記載になる。いずれにしても、虚偽記載の容疑は免れないのに、それを、裁判所は無視している――というものだ。
この点について、指定弁護士は、控訴趣意書で「小沢が本件定期預金が小沢のために確保されるものと認識していたというのであれば、陸山会に帰属するとして収支報告書に記載することは、資産を過大に虚偽記入することに他ならない。小沢はこの虚偽記入がなされるとの認識を有していたことになる」などと指摘した。
それに対し、小沢弁護団は答弁書で「小沢は、収支報告書を見ておらず、石川から本件定期預金について、どう記載するかという説明を受けた事実もない。定期預金について記載することで資産を過大に虚偽記入するなどといった認識はまったくなかった。指定弁護士は、控訴趣意書で初めてこの主張をした。(1審公判の)争点整理を無意味にするもので許されない」などと反論した。
控訴は、小沢側、検察側双方にとって予想外だったのではないか。
小沢側は、晴れて被告人の肩書を外し、消費税増税を争点にした政局に臨む構えだったと見られる。一方検察は、小沢側の関心が政局に向けば、検察攻撃が少しは弱まると読んでいた。双方の思惑は、見事に外れた。
小沢の控訴審第1回公判は、12年9月26日に東京高裁で開かれる見通しとなった。
控訴の焦点も、小沢を「共犯」に問えるかどうか、だ。改めて被告人質問や証人尋問をしても、小沢や石川ら元秘書が1審の説明を変える可能性はほぼない。指定弁護士が、新たな証拠を探し出すのは難しい。裁判員裁判が導入された影響で「1審尊重」の流れが強まっている。しかし、「定期預金4億円」記載問題など、指定弁護士の戦い方いかんで状況が変わる可能性は残っていると思われる。(終)
(第1章・検察VS.小沢事件は今回で終わり、少し時間を置いて、第2章・反検察の政治家、小沢一郎につづきます)
熱海の爺 |
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