虚構の環:第2部・政策誘導/3 発行元示さず再処理の意義強調、議員に配布
毎日新聞 2013年04月19日 東京朝刊
◆虚構の環(サイクル)
◇データ誇張、原燃が「怪文書」
昨年夏、青森県六ケ所村の再処理工場を経営する「日本原燃」幹部が東京・永田町の与野党国会議員の事務所を回り、A4判13ページの文書を配布した。表題は「今後の核燃料サイクル政策について(六ケ所再処理工場の運転)」。発行元を明示しない怪文書のような体裁で、原発で使用済みになった核燃料を再処理する意義を強調する内容だ。
使用済み核燃料の取り扱い方法について、約70人の民主党国会議員が勉強会を作り、昨年2月「最終処分にめどが立つまで、国が中心になって廃棄物を保管する(責任保管)」とする提言をまとめていた。再処理を当面中断し電力消費地に分散して保管する案だ。「怪文書」はこれにかみついた。「責任保管は実現不可能。荒唐無稽(むけい)な無責任提案」
昨年7月、若手議員が原燃幹部を呼び止めて言った。「消費地の議論を巻き起こすための提案。それを荒唐無稽と言うのか」。すると「そんな紙、この世にありません」ととぼけた。発行元を記載していないことを悪用し、文書の存在を認めない姿勢に、議員は「異常だ」と憤る。
文書にはデータの誇張もあった。現存する約1・7万トンの使用済み核燃料からプルトニウムやウランを回収して発電に再利用すれば、約1・5兆キロワット時の電力量が得られると記載されている。原燃によると、使用済み核燃料を再処理して新燃料を生み出す割合(再生率)を26%と仮定している。
内閣府関係者が異論を唱える。「回収ウランを燃料に変える工場は日本にはない。計画さえなく、今世紀半ばまでは実現しないだろう。現状で使えるのは回収プルトニウムだけだから再生率は10%」。そうなると、再処理後の発電量は約5600億キロワット時と4割弱にしぼむ。原燃の広報担当者は「作成者は田中治邦専務。発行元を記載していないのは、社内用の文書だからだが(外部の人に)個別に見ていただく時に使用することはある。データについては、一定の前提で計算した一例であり、誇張ではない」としている。
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電力10社で作る電気事業連合会も議員向けに文書を配布する。取材班は04年5月に配られたA4判37ページの文書「原子燃料サイクルについて−なぜ再処理を進めるのか−」を入手した。