第一章 1部
季節は冬。
自分の席に座って、ぼんやりと教室の窓から外を眺めていると、チラホラと映る白い影。
――――――雪だ。
・・・・・・どうりで寒いハズだよな。
ブルッと震える身体を抱いて、嘆息を一つ。今日の授業はもう終わったので、後は帰るだけなのだが・・・・・・寒いのは嫌いだ。
この雪の中、帰路を経つのは憂鬱で仕方ない・・・・・・あーあ、メンドクセー。
とは思いつつも、鞄を持って立ち上がる。遅くなればなるほど寒くなるのが冬の気温だ。ったく、冬なんてこなけりゃいいのに・・・・・・。
学校を出て一歩でますますその思いは強くなる。もうね、アレだわ。一年が、春夏秋冬じゃなくて夏夏夏夏だったらいいのに・・・・・・別に笑ってるワケじゃえねえからな?
胸中で誰にともなく言い訳をするオレである。前述で記した通り、オレこと遠井 彼方は、マジで寒がりなのだ。ぶふぇくしょんっ! あー、寒い・・・・・・。
制服のポケットに手を突っ込み、白い息を吐く。さっさと帰って、ストーブの前に座り込んでテレビでも見ようかね。
なんて思いつつ、オレが帰路を経っていると。
「あっ!」
と、幼い声が聞こえた・・・・・・なんだ?
怪訝に思ったオレは声の方に視線を向ける。そこには、五歳くらいの小さな男の子。今にも泣き出しそうな顔をしつつ、上を見ている。フム?
つられてオレも、男の子と同じように視線を上へ。そこには赤い風船が飛んでいた。ああ、なるほどな。
「よっと」
結論に至ったオレは、指パッチンを一つ。
すると、気付けば風船は男の子の手に。
「あ、あれ・・・?」
男の子は非常に戸惑った様を見せる。さて。
お分かりいただけただろうか?
もし、この状況を見ている誰かがいるなら、オレはそう尋ねてみたい。
・・・・・・まあ、分かる奴なんていないと思うが。
案の定、目の前で不思議な出来事が展開されたにも関わらず、釈然としない面持から直ぐに「ま、いっか」みたいな表情に切り替わった男の子。ほっ、良かった良かった。
安堵から胸を撫で下ろすオレ。この場合の安堵というのには、二つの意味が込められている。一つは、単純に男の子の手に風船が戻った事。
もう一つは――――――。
「違和感を、強く持たれなかった事」
自分の利き手である右手を、ぼんやりと眺めながらポツリと呟いた。
・・・・・・男にしては小さな手のひら。そこには、一つの神秘が宿っている。
そう、オレは五秒間だけ時間を巻き戻す事が出来るのだ。
廚二乙w? いやいや、本当なんだって。マジマジ。略してM・M。うん、見事に悪い感じに略されたな・・・・・・じゃなくてっ!
五秒間だけ時間が巻き戻せるというのは、本当の本当に事実なのだ。っと、勿論色々と条件はあるが。
自分の右手から男の子に視線を映す。
もう、小さな背中しか見えなかったが、その手に風船が握られているのを見て少し微笑みつつ、自分も帰路を経つのを再開して、ぼんやりと思った。
この能力は、一日に多用出来るモノではない。使用回数はせいぜい三回と言ったところだろう。
一日三回だけなら、オレはどんな状況でも、どんな対象でも、五秒間だけ時間を巻き戻す事が出来るのだ。
って言っても、戻せるのは一つの対象だけなんだけどな。世界そのものの時間を巻き戻せるワケじゃない。まあ、大して使えない能力だ。
だと言うのにこの能力は、代償なんてモノもあるんだぜ? ああ、いや・・・使用限界の三回を超えなければ代償はないんだが・・・・・・三回を超えたら、問答無用で代償を支払わないといけないんだ。
そう、使用回数の三回を超えたらオレは・・・・・・代償として、『大切な記憶』を一つ無くす。
一つ越えるごとに、一つ無くすのだ。ひどい話だと思わねえか?
・・・・・・え? そんな事より、どうしてそんな事が分かるのかって? そりゃ、簡単だ。
試したんだよ、自分でな。
オレにそういう能力があるって気付いたのは、今から七年前・・・小三くらいの頃だったかなー・・・必然的、いや違うな。本能的に、ソレが分かったんだ。
けど、分かったのは能力の使い方と使用回数のみ。使用回数を超えたらどうなるのかまでは分からなかったんだ。
ガキの頃のオレは好奇心から、一日に四回能力を使ってみた。
ははっ、そしたらさ。
【・・・・・・・おばさん、誰・・・?】
笑えるだろ?
自分の家に帰ったら知らない女が家に居たんだ。
その女が、いつも母さんが着ている服を着ていて、母さんと同じように・・・・・・・
オレを呼ぶんだ。
【・・・・・・・・・・・・彼方?】
消えた記憶は、母親の顔。
アレ以来、オレは使用回数を超えた事がない。もう、記憶をなくすのはゴメンだ。
・・・・・・って言っても、能力を使う事自体ほとんどないんだがな。だって、五秒だぜ? 連続で能力を使っても、最長で十五秒だ。
これだけじゃあ、世界は変えられない。
世界は変わらない。
「当たり前だ」
言葉は白い息となって、辺りに舞った。
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