-日本社会はそういう説明を理解するだろうか。
「人々は、私の真意を知らないから。日本のためにやったことだが、北朝鮮のためにやったことだと思っているので、抗議しているのでは」
-左派に変身したのか。
「寺に翻っている日章旗を見なさい。私は保守だ。右翼だ。朴正煕(パク・チョンヒ)大統領が亡くなられた時、とても悲しくて、10人ほど連れて韓国に行き、墓参りをした。それが初めての韓国訪問だった。朴大統領が韓国を(共産化から)守ったので、今の日本があると思っている」
-なのに北朝鮮を助けるのか。
「仏家には『怨親平等(怨敵も両親も同等、対等)』の思想がある。敵味方として戦っても、戦争が終わったら共に親しくするということだ」
■5年前とは異なる安倍政権の対応
総連本部の落札が決まると、日本メディアは池口法主と安倍首相の親交ぶりを報じた。ある日本メディアの関係者は「池口法主の行動を安倍首相が黙認したとすれば、それは政府の対北朝鮮路線の微妙な変化を象徴するもの」と語った。
安倍首相は、06年から07年にかけて初めて首相を務めた当時「拉致問題」解決のためには北朝鮮に対する強硬路線が重要だと判断した。総連本部ビルが競売にかけられたのは、こうした圧迫政策が大きく影響している。当時、総連は危機を避けるため、民団(在日本大韓民国民団)と「和合声明」を発表した。安倍政権は、民団をたたくという迂回(うかい)戦術に出て、声明を無効化した。すると総連は、本部ビルの登記を移転した。移転先は、総連とも親しい元公安調査庁長官が所有するペーパーカンパニーだった。安倍政権は、元長官を逮捕するという超強硬手段で登記移転を阻止した。朝鮮総連の危機打開策は、今回で3回目だ。ところが昨年末に二度目の登板を果たした安倍政権は、まだ表立った反応を見せていない。ある日本メディアの関係者は「今回は、登記移転のときのような騒動に発展する可能性はないと思う」と語った。
-競売応札に関して、安倍首相と話し合ったのではないか。
「安倍首相とは親しい。だが、首相になってからは、会わないようにしている。民間人の私たちが追い回したら、何かにつけて邪魔になるから」
-拉致問題解決は安倍首相の悲願だ。「法主が乗り出して融和策を北朝鮮に提示したのではないか」という推測がある。
「拉致問題は考えなかった」
池口法主は、インタビューが終わった後、あらかじめ作っておいた別の想定問答集を持ってきた。ところがこの想定問答集の内容は、インタビュー時の主張とは違っていた。「総連のビルが総連とは関係ないものになったら、拉致問題は事実上暗礁に乗り上げる。これも、私が決死の覚悟で入札に参加した背景だ」
-安倍政権の対北朝鮮路線に反対するか。
「制裁も必要だと思う。とはいえ、たとえそうなっても両国間に『針の穴』程度の通路は作っておくべきではないか。『逃げ道』を用意しておかなければ、爆発する。だから私が入札に乗り出したのだ」
池口氏が法主を務めている最福寺は、炉に乳木(ちぎ)をくべ、火と向かい合って祈りをささげる「護摩」の修行で全国的に有名だ。護摩の修行のため、清原和博、金本知憲、新井貴浩など有名プロ野球選手もここを訪れた。在日韓国人のスポーツスターが多い点も特徴的だ。しかし池口法主は「偶然だ」と語った。