9月3日、かながわみんとうれん17回総会が行われ、2004総会後に新美弁護士による記念講演「公務就任権と最高裁判決」が行われました。多くの参加者があり、感謝しています。
都庁任用裁判、大法廷での審議が意味するもの
〜新美隆弁護士の記念講演から〜
6月に最高裁第3小法廷から「弁論を開きたい」と言ってきた。弁論を開くのは原審をひっくり返す場合に行われるが、弁護団として答弁書を準備していたところ、9月1日に今度は最高裁大法廷の方に審議を回付するので期日の調整をさせてもらいたいとのことであった。弁論を開く場合は負ける側に「意見を聞いてあげる」というものだが、はっきりした慣行があるわけではない。在日の人権問題として、戦後はじめて巣鴨プリズンの問題で大法廷判断はあったが、在日の事件では今回がはじめてである。
一般外国人の判決として、1978年マクリーン事件が大法廷判例となった。法律的な問題としてマクリーン判決は外国人の人権が憲法上及ぶかどうかというところで、いわゆる「権利の性質説」として有名だが、当時の外国人の人権論としてもう一度再確認しておく必要がある。マクリーン判決は「権利の性質上認められるものと認められないものがある」というところだけが一人歩きしているが、同判決は、「しかしながら、外国人は日本に在留する権利はない。在留更新は国の裁量が優先する。」という、外国人の人権とはその程度のものだというものであった。
当時、在日問題の核心は在留問題であった。戦後、在日は当分の間在留資格のない在留を認めるという法的地位であった。その後、難民条約などの国際人権の流れが出てきた。マクリーン判決で最高裁は権利の性質の中身は何も言っていないが、権利の性質とは参政権的なものとされ、「当然の法理」をめぐる公務就任権と来ている。
この10年の中での金字塔は95年2月25日の第三小法廷(園部裁判長)での判決だ。ここではじめて、一般外国人と違う定住外国人を地方自治の本旨に惹きつけてその意思を密接にすることは「憲法上禁止されていない」という許容説をとった。これは今日の地方参政権の立法運動の基礎となってきた。政治家は参政権は憲法問題というが、法的には立法の問題であって、もはや憲法の問題ではないと確定したのだ。都庁任用裁判では地裁判決と高裁判決はこの第3小法廷を念頭において判決が出された。両判決とも、公務員の職務を3つの分類にし、第一分類として直接的国家の統治に関するもの。これは憲法が禁止している。第二分類はそれ以外の間接的関与。第三分類は補助的、技術的なものとし、同じ分類を使っている。一審では法律を作らない限りダメとし当然の法理をそのまま容認した。二審では第二分類において憲法上の規定が及ぶものと及ばないものがあるとし、一律に管理職の任用を認めないのは相当でないとし、憲法に反するとした。
これから最高裁の中でいろいろな審議がなされると思うが、法律の中には国籍条項はないが、これから法律を作らなければだめなのか、今の法律状態でどうか。そうでない場合は法律を作らなくても職業選択の自由は認められる。職業選択の自由といってもどのような仕事を選ぶかは一つの人格の発展であり、決していい加減なものではない。私は、5人の小法廷から15人の大法廷に移されることが何を意味するかは分からないが、今危ないと思うのは95年2月の第三小法廷判決だ。地方分権法一括法の中で、地方自治はますます実態を持ったものになってきている。自治事務と法廷受託事務が明確に切り離された。措置制度から契約へと変わってきている。国民健康保険も在留資格がなくとも認める判決がでた。移住労働者の国際条約が批准されるようになると、在留資格がなくて国際人権上、人権を守らなければいけなくなり、外国人の人権は確立されつつある。
95年判決は実態によって肉付けされてきている。これが否定されるとなると、外国人の人権はマクリーン判決に戻ってしまう。何故大法廷なのか。判決をひっくり返すときは大法廷を開いて確認する。そうでないと思いたいが、今の日本を考えるとこれは杞憂ではない。今本当に試されようとしているのだ。ここまでくると一つの事件というよりも、日本社会の在日の人権のあり方が問われている。在日を真っ正面からみすえた判決になるのは間違いない。朝鮮学校の問題に見える今の狭隘な国家主義、巨大な都の組織を動かしている権力の強制、服従を強制する社会。日本社会が法のコントロールを失いつつある。そういうときに外国人への排撃が起こってくる。背後にある事態の重大さを考えないわけにはいかない。もう一度を後退させることなく、この問題が抱え持っている意味を考えていきたい。
2004年にむけて(総会資料より)
国立大学の入学資格問題で、あれだけおかしいとの声が寄せられながらも、「朝鮮学校」の子どもたちは受験資格確認のために、ひとつ一つの大学の個別審査を受けなければならないという結果となりました。また東京枝川の朝鮮学校ではこれまでの当事者間の話し合いや歴史的経過をホゴにした「立ち退き問題」が東京都によって引き起こされています。同様に高槻では市側の一方的な教育事業縮小を巡り、民族教育権訴訟が提起されています。これらは国際人権法等に保障された民族教育を受ける権利に関わることであり、在日コリアンをはじめとする在日外国人にとっても民族教育権問題は今後ますます注目される課題となっていくことでしょう。
しかし、県内における状況は「それ以前」というのが実態です。行政では「教育の基本方針」を策定した精神がまったく継承されておらず、県教委の認識は、「国籍の把握はプライバシィー」という程度のものでしかありません。また、外国人の子どもたちの問題は「言葉の問題」等と単層的な課題としか捉えられていません。特に在日コリアンの子どもたちへの教育課題の議論は停滞するばかりといえます。教育の取り組みは、教育実践が問われている問題であり、今後、県外連や地域実践に取り組む団体とさらに連携を深めながら、教育行政が即応出来る環境づくりをしなければなりません。
一方、来年は教科書採択の年です。一部タカ派議員は強制連行はなかったと主張し歴史認識を歪曲し始めています。今後の採択においての動向が注目されます。無年金問題は現在、在日障害者が大阪高裁で、在日高齢者が大阪地裁と京都地裁で係争中です。全国連絡会も昨年発足し、今、全国規模で取り組みが展開されています。
先の与党年金制度改革協議会では、外国人を排除し、学生、主婦を救済することが合意され、国会に特別給付金法案として提出されました。私たちは無年金に対するこうした動きを許さず、在日の無年金問題の解決を勝ち取る取り組みを強化しなければなりません。一方、それと共に、現実に生活が困窮している無年金当事者のため、県内で支給されている福祉給付金(手当)の増額を必ず勝ち取らなければなりません。
国保問題は最高裁判決後、弁護団が中心となり、厚労省と折衝をしていましたが、結果、厚労省は施行規則の改正で再び在留資格の不安定な外国人を一律に排除するとしました。この執拗な外国人排除の体質を私たちは見抜き、在留資格にかかわりなく、住所要件のみで加入を認められるようにする取り組みを行う必要があります。公明党が提出した永住外国人の地方参政権付与法案は朝鮮籍が再度排除されたものです。実際には参政権法案は実質審議さえ可能性の薄いものですが、朝鮮籍排除のこの法案はなんとしても廃案にし、定住外国人の地方参政権を確立させる闘いを再構築しなければなりません。
国籍条項問題は現実的な取り組みとして、外国人市(県)民会議等でも意見表明されているように任用制限の見直しを早急に促し、現在のデッドロック状態を少しでも変えていく必要があります。
それと共に、横浜市との関係もここ数年溝が深く、話し合いすら実現していません。外国人市民施策に関わる要望は窓口が国際課であるのにも関わらず、要望の回答はすべて広聴課から回答が郵送されてくるだけで話し合いを積み重ねていく状況にはありません。この状況を変えなければなりません。例年のように神奈川県、川崎市に申入れを行っていきますが、特に横浜市を中心に関係をつけていくことが必要です。
このようにやるべき課題は多岐にわたっています。そこで、私たちのやるべき課題は山積していますが、その中でひとつでも具体的にみんなで取り組めたというものをつくっていきたいと考えています。また、そのために、様々な団体と連携を深め、一緒に取り組んでいきたいと考えています。
今年のみんとうれんの取り組みは、多くの人が結集し、関わるすべての人が実際に行動したという取り組みをひとつでもつくりたいと考えます。現在、地域に暮らす外国人であるが故に悩んでいる外国人住民のために、ネットワークを確立し、外国人住民の差別解消・撤廃、共生社会推進のためのシステムを構築しましょう。
2004年度 役員体制
共同代表 大石文雄、金秀一
幹 事 内田清、小椋千鶴子、笹尾裕一、南重行、金明夫、林慶一、
孫範道、鄭求永
事務局長 金久高
会計監査 鈴木恵子、橋本祐二
顧 問 李仁夏、 重度、関田寛雄、平林久枝、三浦泰一
新事務局長あいさつ
はじめまして金久高と申します。この度総会で皆様より選出され事務局長という大任を仰せつかりました。さて、ここ数年のかながわみんとうれんの課題は、無年金問題への取り組み、国保加入問題、ニューカマーの子どもの教育問題、入居問題と沢山の課題がまだまだあります。とりわけ未だに事実確認会が行われている平和開発との話しあいでは当事者の想いをしっかりと伝え、行政、宅建業界等にどれだけこの問題を浸透させるかが鍵となっています。一方、この間、県知事、川崎市長が差別的発言を行い、それ以後なんら直接謝罪もなく、行政のイメージが最悪です。このような人に行政を任せてはいけないとは・・・。
しかし、私たちには、参政権もなく、その行政の長を選出することすら出来ないのです。他方、戦後60年になろうとしていますが、今なお戦後補償をはじめとする多くの問題が取り残されています。問題山積。しかし、だから、私は、こんな時だからこそ、地域に根ざし、地域実態に即した課題を大切にしていきたいと切に思っています。多くの仲間達と共にこの社会を住みやすくするために頑張ります。
「日本語を母語としない人のための高校進学ガイダンス2004」が9月23日午後、神奈川県民センターで開かれ、スタッフとして参加しました。主催は「多文化共生教育ネットワークかながわ」で、10年にわたって進学ガイダンスを開催しています。会場には、中国・ブラジル・ペルー・フィリピンなど約50名の外国人の中学生の他、付き添いの保護者・ボランティア・教員、通訳、スタッフなどを合わせると100名以上が詰めかけました。
前半の全体会では、主催者あいさつ、通訳・参加校紹介に続き、来年度の高校入試についての説明、県教委からの話、高校生からの体験談などがありました。高校入試に関しては、今年度から在県外国人枠が3校から6校に拡大されはしましたが、「来日3年以内」という規定はそのままです。来年度からは学区が撤廃されます。また、公立高校の募集定員削減、県立高校の後期再編計画案が発表される中で、外国人の子どもたちの進路保障はまさに最重要課題です。
後半は母語別の分科会で、個別の相談が行われました。また、在県外国人枠設置校・定時制・県教委などのコーナーも設けられました。中学生や保護者との対応の中で、最低限の情報が行きわっていない現実も明らかになる一方で、高校側の受け入れ後に関しても多くの課題を残しています。県教委の施策としての総合的な取り組みの必要性を強く感じました。