2011-03-27

ニューヨークタイムズの放射線量グラフで4号機の火災を検証してみた

 昨日、Twitterからピックアップしたニューヨークタイムズ掲載の福島原発の放射線量グラフを見た時、一瞬にして目が点になってしまった。数字が提示する危険度というより、見た通り、グラフのピークが14日夜から15日、16日と大きく飛び出しているからです。瞬時にこの日、何があったかと遡ってニュースを当たり始めたところ、極東ブログから「ニューヨークタイムズが掲載した福島原発の放射線量グラフを眺める」(参照)のエントリーが挙がり、そちらを参照することにしました。グラフはここにも一応貼りますが、日々の放射線量に沿いながら日本で報じられたニュースを拾われているので、高い数値が検出された時、何が原因であるかが推測することできます。
 タイトルの「検証」はちょっと大げさかもしれませんが、ここでは、私の気づいた点を挙げておくことにします。周知のこともあるかと思いますが、記録的な意味でもここには残しておきたいと思います。

UPDATED March 25, 2011
Radiation at Fukushima Daiichi(参照
Levels of radioactivity measured by Tokyo Electric Power at different points around the Fukushima Daiichi nuclear plant.

Screenclip

 まず、グラフからも分かるとおり、15日、一番大きなピークがあり「Fire near Reactor No.4」とあります。これは、4号機から火災が発生したことを意味しています。この火災が原因で起きた放射能漏れはどうだったか、16日の読売新聞にこうあります(2011年3月16日12時45分 読売

1度目の火災は、15日午前9時38分に発生し、東電は同日、「午前11時頃に自然鎮火した」と説明したが、大槻課長は16日、「社員が、目視で炎が見えないのを確認しただけだった。申し訳ない」と謝罪した。実は1度目の火災が鎮火していなかった可能性を報道陣から指摘されると、大槻課長は「放射線量が高くて現場に近づけず、確認できない」と釈明した。
東電によると、火災確認後、社員が2度消防に通報したが、つながらなかったため、放置していた。

 火災状況を調べたついでに、東電の管理ミスの記事が出てくるとは思いませんでした。結果的には、この火災による放射能漏れが一番値が大きく、この時点で何らかの手を打てば次の火災ににはつながらなかったのではないか、と悔やまれます。そして、二度目についてはこうあります。

2度目の火災は16日午前5時45分頃、4号機の原子炉建屋から炎が上がっているのを社員が確認。午前6時20分に消防に通報した。
東電によると、福島第一原発では通常、協力企業の社員を含めて約800人が作業を行っているが、被曝の危険性が増した15日、70人を残して福島第二原発などへ退避させた。

 この時、800人もの人員が一斉に避難したことや残る作業者の数の差を見て、後の作業が滞りなくできるのだろうかという不安を持ったのが印象にあります。 そして、この火災の火元はどこかという点を当時は見落としていたかと思ったのですが、記事には言及されていません。
この読売記事の少し後の朝日記事ではこうあります(2011年3月15日13時42分朝日

一方、地震前から停止中の4号機の原子炉建屋も損傷し、火災が発生した。建屋に保管中の使用済み燃料の冷却ができなくなった可能性があり、燃料が損傷して漏れ出す可能性が出てきた。鎮火したが、付近の放射線量は急上昇した。消火には米軍も協力した。

 定期点検ということで停止中だった4号機は、この火災が発生するまで安心していただけに意表を突かれた形になりました。そして、初めて「使用済み燃料」がどういうものかに関心が集まりました(2011年3月19日09時55分  読売新聞)。

▼使用済み核燃料・保管プール
原子炉内にある核燃料は、使い終わった後も熱を放出し続ける。この使用済み核燃料には、毒性の強いプルトニウムなどの放射性物質が含まれており、人体に大量に入ると、がんなどの深刻な被害をもたらす。
使用済み核燃料は、建屋内の巨大プールの冷却水に沈められ、厳重に保管される。燃料棒が長時間にわたって大気に触れると、高温で溶けて大量の放射性物質が飛散する恐れがあるが、冷却水は放射線を外界に放出するのを抑える上に、燃料棒が溶けるのを防ぐ効果があるからだ。冷却水は、使用済み核燃料を核燃料再処理施設に運び出すまで、40度以下に保たれなければならない。作業はすべて機械操作によって行われる。

 こういうことも当初は知らなかったわけですが、現在行われている冷却作業の目的を知れば、使用済みも使用中も同じことです。炭や石炭と違って、燃えカスになると同時に鎮火するという代物ではないのです。何年も冷却し続けなくてはならないのです。
 そして、この使用済み核燃料がどれ程危険かについて米原子力規制委員会(NRC)のヤツコ委員長の指摘がありました。この発言に関しては「福島原発4号機対応と菅政府についての雑感」(参照)でも原文から抜粋したとおりですが、17日のブルームバーグで日本語で記事にしています(参照)。

米原子力規制委員会(NRC)のヤツコ委員長は議会証言で、東日本大震災で被災した福島第1原子力発電所の原子炉の一つで使用済み核燃料プールの水が全てなくなり、高レベルの放射性物質が漏れる結果を招いたと述べた。
ヤツコ委員長の議会証言に先立ち、国際原子力機関(IAEA)や医師、原子力技師らは、福島原発事故による住民の健康への最大の脅威は、プールに保管されている使用済み燃料だと警告した。
当局者らによると11日の地震と津波で冷却装置が機能しなくなり、3つの原子炉のプールの水温が上昇している。米ロスアラモス国立研究所の元幹部でウィーン在勤の技師、ロバート・ケリー氏は露出した使用済み燃料棒は発火して溶け、大気中に放射線を出す恐れがあると指摘した。使用済み燃料プールは原子炉とは異なり、鋼鉄やコンクリートで包まれてはいない。
ヤツコ委員長は下院エネルギー・商業委小委員会で証言し、「使用済み燃料プールで水がなくなったと考えられる」と述べ、「放射線量は極めて高く、是正措置を講ずる能力に影響を及ぼしている恐れがある」との見解を示した。
プールの水は作業員を保護するものだが、元NRCの安全性指導員で米科学者団体「憂慮する科学者同盟」の原子力物理学者、デービッド・ロックボーム氏は、使用済み燃料棒の上部が露出すると、プールの淵にいる作業員は16秒で致死量の放射線を浴びると電話会議で発言した。
科学者らによれば、水が蒸発して燃料棒が露出すると、燃料棒のウランが保護鞘を溶かして熱や放射性セシウムを放出する可能性がある。その後、ウランは残った水と混ざり、制御できない核反応が始まって大気中に放射性物質が出ていくという。
ケリー氏は電子メールによる取材に対し、「ウランが水中で溶ければ、ある種の原子炉を作ってしまうことになる。こうした状況でこの原子炉は制御不能となり、核分裂を始めることになる」と回答した。

 4号機の火災状況から、専門家の意見はこの時点で核心に触れた意見だったことが分かります。頑丈なコンクリートや鋼鉄に守られ、停止状態ある原子炉よりも使用済み核燃料の方が軽い管理の下に保管されているものだと驚いた次第です。
また、4号機に注意が必要な理由を24日、次のように公表しています(2011/03/24 12:41 ブルームバーグ)。

燃料プールの発熱
4号機について、原子力安全・保安院の西山英彦審議官は「たくさん使用済み燃料が入っているプールの発熱が問題」と指摘し、冷却系からのプールへの注水はあす以降になるのではないかとの見通しを明らかにした。燃料プールについて、西山氏は「1-6号機の中でも最も使用済み燃料の量が多い。目視で水が入っていることを確認しており、注水もしている」と述べた。しかし「すぐに沸騰状態になってしまうので100度になっている。応急措置で注水量を増やし、外部電源を使い安全な状態にすることが必要だ」と強調した。
冷温停止状態になっている5号機は、23日夕に海水ポンプの電源を仮設から外部電源に切り替えた際に停止したが、西山氏は「午前中にポンプを復旧させ、外部電源に切り替える」と述べた。

 その後、グラフ上の数値は落ち着いていますが、4号機からは現時点でも白煙が上がっています。
 一連のニュースを拾ってみて、20日の私の「福島原発4号機対応と菅政府についての雑感」(参照)でも触れたとおり、東電は、4号機のプールの水を確認しているとありますが、17日には「水はあると判断したため4号機に放水するのをやめた」とあります。そして、20日まで、水の有無は不明のままでした。一方、ヤツコ氏は11日地震が発生した直後、プール内の水について最悪のケースを想定した上で、核心に迫った言及をしています。
 この見解の相違は何故起こるのか大変不思議でしたが、昨日、「プルサーマル公開討論会・議事録5」(参照)でパネラーの東京大学大学院 大橋教授の話の中の「ラスムッセン報告」について、アメリカと日本の考え方の違いが興味深いです。
 端的に言うと、アメリカは、事故が起きた時の被害を計算する仕事と、その事故の起こりやすさの確率を計算するのだそうですが、日本は、想定不適当だとして無視するそうです。これはどういう意味かというと、日本には、原発には事故は起こり得ないという考えが前面にあるため、最悪のことを想定しないというのです。これって、ほんとうかよ、と疑ったのですが、15日に起きた4号機の火災発生後の日本の対応や、会見を振り返ると、何らかの事態が起こってから判断するまでが非常に遅いのは確かです。
 避難命令についても、測定値が出てから発令されています。これが当たり前だと思っていたのがどうも違うんじゃないか、と疑念を持ち始めた顕著な例では、アメリカの80km半径以外への避難命令でした。この時、日本は、30km半径でした。
 もし、これらの違いが大橋教授の指摘するような理由で起こるのであるなら、日本政府が即刻考え方を改めれば、先手を打って事態の対応に当たれると思います。アメリカの考え方を取り入れてみてはどうでしょう。

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