J.ピアジェ (Jean Piaget)
◇概要
子どもの認知機能の発達研究に取り組んだスイスの心理学者です。
彼の理論は認知的発達論あるいは発生的認知論といわれています。
ピアジェの理論では、自己中心性から社会性へという社会化のプロセスを発達と見なす視点が強いです。
◇ピアジェの考えた知性の発達
彼は、知性の発達あるいは認知構造発達は「同化」「調節」「均衡化」の3つからなるとしました。それぞれの言葉の意味は以下の通りです。
◎同化 (assimilation)
同化は主体に合わせて対象を認識することであり、外界のものを自分の中に取り込む働きもあります。また、その際を対象に取りこみやすいように変える働きはたらきもあります。
◎調節 (accommodation)
調節は対象に合わせて主体を変えることです。つまり外界の対象に合わせて自分自身の考え方を変えて、対象を取り込みやすくします。
◎均衡化 (equilibration)
均衡化は同化と調節を包括してより安定した構造に統合するような内部的な自己制御の過程であり、認知の適応が段階的に達成されていく。
◇ピアジェの発達段階
ピアジェは子どもの認知発達は、感覚運動期、前操作期、具体的操作期、形式的操作期の順に発達すると考えました。
◇感覚運動期 (sensorimotor stage)(0~2歳)
言語の発達をする以前の時期で、知覚・感覚刺激と身体運動の協調・協応による認知活動が優勢です。活動は反射から単純な行為から、複雑な行為へと発達します。
感覚運動期は対象永続性がわかるようになるまでの時期を指します。対象永続性とは、外界の対象が、目の前から隠れて見えなくなっても、それはどこかに存在し続けることが分かるようになることです。
対象永続性の例として「いないない、ばあ」で母親の顔が隠されても、母親がいなくなったわけではないと認識できることなどが挙げられます。
ピアジェはこの感覚運動期をさらに6段階に分けています。
①反射期(0~1カ月)
生得的反射による応答しかできません。
②第1次分化期(1~4カ月)
反射行動が改変され、調整が始まります。対象の存在を自覚し、任意に視線で追うことができるようになります。
③再生産期(4~8カ月)
新しい行動や出来事を繰り返し再現しようとします。
④シェマの調整(8~12カ月)
対象についての形と大きさについての恒常性を獲得します。また、目前から消えた対象を探そうとします。
⑤実験期(12~18カ月)
能動的実験(試行錯誤)を行い、新しいシェマを獲得をします。また、手段の発見がみられます。
⑥表象期(18~24カ月)
表象能力が発達し、対象は直接の知覚から自由になり、対象表象となって永続性を持つようになります。
◇前操作期 (preoperational stage)(1.5/2~6,7歳)
目の前にない物事事象を思い浮かべることができるようになり、象徴機能、表層機能が出現します。
言語が習得できますが、まだ論理的思考ができず、言葉の概念を抽象化、一般化できません。主観・客観が未分化で他者の視点に気づかない自己中心性が支配的です。
この時期をピアジェは、さらに「前概念的思考段階」と「直感的思考段階」にわけました。
①
行為表象から概念表象への移行段階であり、象徴的遊びや描画によって強化されます。個と類の識別ができない時期です。
②
言語が発達して、概念化が進み、個と類の識別も可能となります。ある程度複雑な問題に対して直感的理解や判断が可能となるなりますが、判断は見かけにより左右される時期です。
個体が変形しても量や重さ、体積は同一であるとの「保存」の認識はいまだ不安定です。そのため、コップの水を形の違うコップに移し替えた際に、移しかえる前後の水の量は必ず同じであるとは理解できません。
また、自分の現在の視点・立場からの見方・考え方・感じ方にとらわれる傾向が強いです。そのため、他の人が自分と異なる見方・考え方をしているかということがよく認識できていません。自己中心性であり、ピアジェはこの時期の特徴として、物事の一面にのみとらわれる傾向が強いことを指摘して中心化と呼んでいる。
◇具体的操作期 (concrete operational stage)(6,7~11,12歳)
現実の具体的なものや事象に関して論理的な操作が可能となる時期です。
前操作期を通じて、次第に行動が内面化され、内面化した表象の過程においても安定した構造化がなされ、統合された全体構造をなすことを「操作」と呼んびました。
これを基にして一慣性のある論理的に考えることができるが、抽象的一般的な形式的思考はできない。
個体が、変形しても量や重さ、体積は同一であるとの「保存」が成立し、自己中心性が減少します。
◇形式的操作期 (operational stage)(11,12歳以上)
抽象的一般的な形で論理形式的に考えることができるようになます。命題的操作が可能となる時期でです。
ある命題が与えられると、その内容が現実にあり得るか否かにかかわらず、与えられた条件下でいかなることが生じうるかを考えることができるようになります。。
この段階で、人間の思考は完成した働きが可能となります。形式論理による推理や科学的・実験的思考が可能となり、現実への適応だけでなく、未来へ向けての理想を志向する能力を獲得します。
◇三つの山問題 (the three-mountains task)
ピアジェの考えた子どもの自己中心性を確かめる実験方法です。
まず、子どもに、三つの異なる高さの山を並べたテーブルの周りを歩くように指示します。次に、テーブルの一方に子どもを立たせて、テーブルの様々な位置に人形を置きます。最後に子どもに人形が見ているで光景の写真を選ぶように要求します。
そうすると6~7歳以前の子どもはほとんど自分が見ている光景の写真を選んでしまいます。
つまり、これにより前操作期以前の子どもは自分を中心に物事を考える自己中心性が強いとピアジェは考えました。