玉藻前と再会し、久し振りに酒を飲んでからしばらく。私は玉藻前の現在の主人である八雲紫や、式であるらしい猫又娘と共に酒を飲みつつ過ごしていた。
そして私はよく他者との宴会にも持ち寄られるようになり、いつの間にやらとある神社に置いておかれるようになった。
今でも玉藻前や八雲紫などの面子が私を使って酒を飲みに来るのだが、最近ではこの神社の巫女に使われることが多くなった。
確かに宮司や祝がいない神社の神酒を飲むのは巫女か、あるいは奉られている神くらいなものだが、その神がどこに居るのかわからないどころか、そもそも神がいるのかどうかすら不明の神社であるため、その巫女が飲んでいると言うわけだ。
…………それは別に構わないのだが、神のいない神社は神社と呼べるのだろうか?
神のいない神社はただの小屋だと思うのだが……。
…………まあ、前言の通り、構わないのだが。
そんなことよりも、今は飲む時だ。
飲んだくれてしまっても、私がいればすぐさま酔いを覚ましてやれる。巫女の体に残る酒気を呼び寄せてやればいいのだから、その程度は楽だ。安心して酔うがいいさ。
なあ、博霊の巫女よ。
いつからかこの博霊神社に置いてあった酒器で、今日も私はお酒を飲む。
……ごめんなさい嘘つきました。今日もとか言いましたけど甘酒で二日酔いになって以来お酒とか飲んだことがないです。酔ったときの私の恥態とか、ほんと見られたのが先代の博霊の巫女だけでよかった。
先代は口が固いというか、無口と言うか根暗だから誰にも言わないでくれて助かりました。
ちなみにこういった悪口とかも、実はただの悪口じゃなかったりします。詳細は秘密ですけどね。
……さて、それじゃあ久し振りに飲みましょう。先代博霊の巫女はお酒とかは本当にダメでしたけど、これを使った時だけは平気だったと聞いてますし、きっと大丈夫!
そう思いながら白い徳利からおちょこにお酒を入れる。熱燗が良い、冷やが良いと色々言う人達が居ましたけど、よくわからなかったのでそのままで。
ゆっくりと息を吸って、吐いて、酒の入ったおちょこを見つめる。甘酒で二日酔いになった私が、いきなりお神酒は冒険しすぎだろうか?
そう思いながらも自分に渇を入れて、弱気な自分を吹き飛ばす。ええい、女は度胸だ!
ぐっ!と飲み干すべくおちょこを一気に傾ける。すると当然、私がおちょこに入れたお神酒が口の中に入ってきて、あの爆発したような熱が…………
…………あれ? そんなに熱くない?
ごくり、と口の中のお神酒を飲み干す。それは確かにお神酒の匂いがするし、味も前に一舐めだけしたことのあるお神酒と同じ味だ。
けれど、あの喉が焼け爛れるような熱を感じない。とっても飲みやすい。
私はまた徳利からおちょこにお神酒を注いで、飲んでみる。今度はちょっとずつ。
…………なんだか、甘くて美味しい。お神酒よりも飲みやすく、甘酒よりもさらさらしていて、花の香りのように僅かに鼻に残る匂いがする。
「……ぷはぁ………ひっく。……りゅいぷんちがうんれひゅね?」
……あれ? なんだか周りがくるくるしてるー?
……これはまた随分と酒精に弱い娘だな。知っていたつもりで酒の中の酒精を呼び寄せ、酔いを弱くしたのだが……それでもまだ悪酔いするか。
まあ、二日酔いにはならないように酒精抜きをしてやるから安心して酔うが良い。
私は初見の者だろうが馴染みの者だろうが関係無く、私のできる限りの快適な酔いの世界に招待するさ。
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