関越道のバス衝突:1年 花嫁姿で旅立った「くる」へ ずっと友達だよ
毎日新聞 2013年04月19日 東京朝刊
昨年4月、群馬県の関越道で乗客7人が死亡したバス事故。その3日後に営まれた葬儀で、犠牲になった岩上胡桃(くるみ)さん(当時17歳)=石川県白山市=は、ひつぎに純白ドレスの花嫁姿で横たわった。親友だった金沢市の会社員、太田絢女(あやめ)さん(18)が事故直前、「結婚したい人がいる」と打ち明けられ、ドレスだけでもと岩上さんの家族らに訴え実現した。あれから1年。写真でしか会えなくなったが、友情は変わらない。
岩上さんのニックネームは名前を縮めて「くる」。中高一貫校の中学1年で同じクラスになった時から仲が良かった。恋の悩みから音楽やファッションまで、どんな話も静かに聞いてくれるのがうれしかった。
昨年4月28日深夜、岩上さんは母親と旅行に行くため、金沢からバスに乗車。バスは運転手の居眠り運転で防音壁に衝突した。「くる、大丈夫?」。安否を問いかけたメールに返信はなかった。看護師を目指していた岩上さん。突然の事故がその夢を奪い去った。
太田さんは親友の死を認めたくなく、部屋でふさぎ込んだ。母親に促され、やっと出席した通夜。ひつぎをのぞくと岩上さんはほおを緩め、うっすらと笑みを浮かべているように見えた。
事故の2日前。岩上さんから1年ぐらい付き合っているという男性と「結婚できたらって思っている」と告白された。太田さんは「ウエディングドレスを着せてあげよう」と友人らに呼びかけ、結婚式場が実家の同級生がドレスを提供した。
ひつぎの中の岩上さんは純白のドレスをまとい、手に花束、そばには同級生らが思い出をつづった手紙がおかれた。
ひつぎを運ぶ霊きゅう車が動き出すと、太田さんは力いっぱい叫んだ。「くる、大好き」
高2の夏、失恋して落ち込んだ太田さんを気づかい、岩上さんから届いたメールには「絢女が幸せになれるように見守っているからね」とある。「今読むと、まるで、くるが天国から語りかけているみたい」
太田さんは今も時々、「(自動車の)免許を取ったよ」など、通話アプリ「LINE(ライン)」を使い、岩上さんにメッセージを送る。「写真でしか会えないけれど、ずっと友達。私がピンチの時、あの頃みたいにきっと励ましてくれるって、信じている」【丹下友紀子】