「本物の味を世界へ　神戸ビーフ、海外輸出への挑戦続く」の記事詳細：イザ！

　２月に始まったばかりの高級ブランド牛肉「神戸ビーフ」の海外輸出が好調だ。第１弾となったマカオ向けでは、これまでに約５０頭を出荷。今月１８日には１０頭を香港に輸出する。食肉処理施設への規制などクリアすべき課題はあるが、国内市場が頭打ちである現状で、関係者は拡大する海外市場に熱い期待を寄せている。（牛島要平）

　◇海外で高まる期待

　「今まで食べたのは神戸ビーフではなかったのか。“本物”を早く仕入れたい」

　マカオへの神戸ビーフ出荷が「初の海外輸出」と国内外で報じられた直後、香港の食肉商社から、輸入元の食肉卸売会社「エスフーズ」（西宮市）にいち早く注文が入った。

　同社は丹波市の牧場などから但馬牛を調達。食肉に処理し、神戸ビーフの認定を受けた後、輸出する。香港では一般和牛の約１・４倍（ヒレロースで１００グラム約３５００円）で売買され、複数の高級ホテルのレストランなどで提供される予定だ。レストランには、世界的に人気の創作日本料理店「ＮＯＢＵ」などが含まれているという。

　２５日には現地で歓迎式典が開催され、約２００人が出席する。同社の平井博勝常務は「これまでも海外に（ブランド牛に認定されていない）一般和牛を納入してきたが、かつてない期待の大きさを感じる」と興奮を隠せない。

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記事本文の続き　◇ブランド向上へ決断

　明治の神戸開港で、外国人が神戸で食べた牛肉のおいしさは、海外にまたたく間に広まった。脂肪分がきめ細かく入り、口に入れると溶けるような食感、うまみは、海外の牛肉にはない特徴だったからだ。

　だが、神戸ビーフは海外でのブランド管理の難しさから１頭も輸出されることはなかった。

　その結果、「神戸ビーフ」の名前は独り歩きすることになった。一般和牛でも海外の牛肉とは味わいが大きく違うため、「神戸ビーフ」と呼ばれるようになったのだ。オーストラリアに精子などが運ばれて飼育された和牛が「ＫＯＢＥ」と名付けられている例もあるという。

　このため、神戸ビーフの認定を行っている「神戸肉流通推進協議会」（神戸市西区）は、本物の味を外国人に知ってもらうことで、「神戸ビーフ」のブランドを守る必要がある－と判断、輸出推進の方向へ舵を切った。一方で、現地の流通業者やレストランを「指定登録店」として承認し、販売報告を定期的に提出させるなどブランド管理を徹底する方針だ。

　肥育を県内に限定するなど神戸ビーフの認定基準は日本一厳しいとされるが、逆に「希少価値があるほど、海外の富裕層は食べたがるし、高級レストランは店のステータスを上げることができる」（平井常務）と関係者の鼻息は荒い。

　１月末に加古川食肉センター（加古川市）で開かれた輸出第１号の出発式で、同協議会の喜多太見男会長は高らかに宣言した。

　「神戸ビーフは世界にはばたき、名実ともに世界一になる」

　◇市場拡大に課題も

　海外輸出にはブランド力を高めると同時に、牛肉の市場を開拓するという目的もある。

　農林水産省によると、牛肉の国内消費量は平成１６年度以降、１１５万～１２０万トンのレベルで横ばい。エスフーズの平井常務は「国内の人口減で市場は縮小する一方。海外市場の確保は畜産業の将来を考えると急務」と指摘する。同社は今後、シンガポールやカナダなど神戸ビーフの販路の拡大も視野に入れる。

　ただ、課題もある。食肉処理施設の衛生基準が国・地域によって違うため、輸出先の規格に合っていなければ、輸出はできない。香港の場合は県内で認定を受けた施設がなく、鹿児島県内で処理を依頼している。神戸肉流通推進協議会は「『神戸ビーフを輸入したい』という申し入れがあれば、その都度対応を検討するしかない」とする。

　さらに、２２年に宮崎県で発生した口蹄疫の影響で、最大の牛肉消費国といえる米国向けの輸出は禁止されたままだ。

　神戸ビーフの輸出をさらに拡大するためには、海外の規格に合った処理施設の拡大や貿易交渉の促進など、政治、行政も一体になった粘り強い取り組みが求められている。

　■神戸ビーフ　血統や品質の条件を満たす但馬牛だけを、県内の食肉関連業者らでつくる「神戸肉流通推進協議会」が認定する。県内全域で飼育される但馬牛の脂肪には特有のうまみを生み出す不飽和脂肪酸が多く、このうち霜降りの多いものが神戸ビーフに認定される。神戸ビーフとともに松阪牛、近江牛が「３大和牛」とされるが、いずれもルーツは但馬牛。